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過敏で傷つきやすい人たち

2019.02.08 更新

過敏状態のスイッチが入る仕組みとは岡田尊司

音や話し声がすると集中できない、人にどう思われているか気になる、過度に接近されるのが苦手、頭痛や胃痛、下痢になりやすい…。こんなお悩みを持っている人は少なくありません。続々と重版を重ねている精神科医・岡田尊司さんのベストセラー『過敏で傷つきやすい人たち』は、そんな悩みを解決できると話題の一冊。そんな本書の中から、一部を抜粋してお届けします。

(写真:iStock.com/nyvltova)

過敏になったとき何が起きるのか

過敏な状態になったとき、何が起きているのでしょうか。

最初に生じるのは、ストレスを感じたときに起きる、視床下部─下垂体─副腎皮質系の反応です。視床下部からCRFというホルモンが放出され、それが下垂体を刺激し、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)というホルモンを放出させ、副腎皮質から、副腎皮質ホルモンを放出させるという一連の反応が起きます。ステロイドのなんこうを塗ると炎症が治まり、傷があっという間に治るように、とりあえず目先の対処を優先し、非常事態に備えるのです。

視床下部の反応に伴って同時に起きるのが、交感神経の興奮です。交感神経は、ファイト・オア・フライト(戦うか逃げるか)という生命を守るための防御反応にかかわっています。

戦闘態勢をとるか、逃げ出すか、いずれにしても、脳や筋肉に十分な血液と酸素を送り出す必要があるために、心拍数は急上昇します。格闘や全力疾走に備えて、筋肉は緊張し、収縮します。事態を見極めるため、瞳孔は開きます。

こうした反応が、命にかかわるような事態に対して生じるのは、生き延びるために必要なことです。これらは、ある意味、外界の脅威に対処するための反応です。

ところが、この状態が長く続くと、マイナスの影響が出始めます。必要もないのに緊張が続いたり、副腎皮質ホルモンの影響で、高血圧や胃潰瘍、糖尿病などにかかりやすくなります。

しかし、こうした反応だけであれば、体調や気分は悪くなるかもしれませんが、恐怖症になったり、パニックを起こしたりすることにはなりません。もう一つ、過敏性を、別次元の状態に変えてしまう仕組みが存在するのです。

(写真:iStock.com/aipong)

過敏状態のスイッチが入る仕組み

そうした別次元の過敏性は、同じ刺激を繰り返し受けたり、ある限界を超えるような強い刺激を受けたときに、獲得されてしまうものです。

たとえば、静電気恐怖症の人がいますが、最初からそんなに苦手だったわけではありません。しかし、何度かパチンと強烈な電気ショックを経験しているうちに、静電気に対して敏感な状態が出来上がってしまうのです。ときには、一回の体験だけでも、それがあまりにも苦痛や恐怖を伴っていると、ハイレベルな過敏性が獲得されてしまうことがあります。

私事になりますが、小学六年のときのことです。運動会のリレーの練習をしていた休憩時間に、いたずら好きの同級生が、競技用のピストルを、面白半分に私の耳元で発砲したことがあります。一瞬何が起きたのかわかりませんでしたが、血の気が引いて、白茶けた視界にキーンという音だけがしていました。それで、音に対して敏感になったかどうかはわかりませんが、音が自分を脅かすものとして感じられるようになったことには、多少あずかっているかもしれません。

過敏性の獲得は、ある意味、学習であり、それが警戒すべき脅威だと脳が学習してしまったのです。そこには、学習に与る回路がかかわっていると考えられます。そこで重要な役割を果たすのが、NMDA受容体です。NMDA受容体は、弱い刺激では働かないのですが、いったんスイッチが入ると、しばらく興奮し続けるという性質をもっています。

強い刺激や、多少弱い刺激でも繰り返し加わると、このスイッチが入ってしまうのです。NMDA受容体は、脳のいろいろな部位にあって、学習といったてきな変化(いったん生じると、その状態が保たれる変化)にかかわっています。

怖い体験や不快な体験が、外傷的な体験になってしまう上で欠かせない役割を担っているのが、へんとうたいというアーモンドのような形をした器官です。扁桃体は、恐怖といったネガティブな感情の中枢であり、不快な体験をした記憶は、この扁桃体に刻み込まれるのです。その場合にも、NMDA受容体のスイッチが入り、長期間続く興奮(長期増強と呼ばれます)が引き起こされることにより、過敏で傷つきやすい状態が生み出されると考えられます。

もちろん脳には、興奮を抑え、馴れを引き起こす仕組みもあるのですが、興奮を冷ます仕組みがもともと弱い場合や、あまりにも刺激が強すぎる場合には、過敏状態のスイッチが入ってしまうと考えられます。

興奮を抑える仕組みの一つに、セロトニンという神経伝達物質を介した回路があります。扁桃体においても、セロトニンは不安や恐怖に伴う興奮を鎮める方向に働いているのですが、生まれつきセロトニンを運ぶポンプの働きが弱いタイプの人がいて、そうした人では長期増強が起きてしまいやすく、過敏な状態が生じてしまうと考えられます。

いったん過敏性のスイッチが入ると、通常は馴れが生じて反応閾値が上がっていくところが、逆に閾値が低くなってしまうのです。その結果、他の人にはまったく気にならない音や匂いさえも、耐え難いほど不快に思え、恐怖にさえ感じられてしまうのです。

過敏な人では心の傷ができやすく、心の傷を抱えると、さらに過敏になるという悪循環は、こうして生まれるのです。過敏な傾向と心の傷が強い相関をみせるのも、こうした仕組みを映し出していると言えるでしょう。

岡田尊司『過敏で傷つきやすい人たち』

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決して少数派ではない「敏感すぎる人(HSP)」。
実は「大きな音や騒々しい場所が苦手」「話し声がすると集中できない」「人から言われる言葉に傷つきやすい」
「ストレスで胃が痛くなりやすい」「頭痛や下痢になりやすい」などは、単なる性格や体質の問題ではないのだ。

この傾向は生きづらさを生むだけでなく、人付き合いや会社勤めを困難にすることも。
最新研究が示す過敏性の正体とは? 豊富な臨床的知見と具体的事例を通して、HSPの真実と克服法を解き明かす。
過敏な人が、幸福で充実した人生を送るためのヒントを満載。

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岡田尊司

1960年、香川県生まれ。精神科医、医学博士。東京大学哲学科中退。京都大学医学部卒。同大学院高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医 学教室にて研究に従事。現在、京都医療少年院勤務、山形大学客員教授。パーソナリティ障害治療の最前線に立ち、臨床医として若者の心の危機に向かい合う。 

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