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アルテイシアの熟女入門

2019.02.01 更新

地獄が見える化したクソゲー社会で、JJが後輩たちのためにできることアルテイシア

当連載をまとめた『40歳を過ぎたら生きるのが楽になった アルテイシアの熟女入門』が2/7に発売になるので、どうぞよろしくお願いします。

生きづらい。

のっけから新刊のタイトルを全否定しているが、昨今、胸糞悪いことが多すぎる。
JJ(熟女)は今まで食ったパンの枚数どころか、今朝食ったのがパンか白米かも覚えてないため、
イヤなことがあってもすぐ忘れる。
そんなJJ力を凌駕するほど、「女の生きづらさ」を感じる案件が多すぎるのだ。

女が肥だめを覗きこんで「クソだー!!」と叫んでいるわけじゃなく、道を歩いているだけで頭上からクソが降ってくる。そんな『アトランチスの謎』のごとき、昭和のクソゲー的な世界を我々は生きている。

オンラインサロン「アルテイシアの大人の女子校」では、20代女子がこんなコメントをしていた。

『子どもの頃から痴漢に遭いまくり、がんばって勉強して大学に行っても“ヤレる女子大生”と言われ、医大は女性という理由で落とされ、オリンピック三連覇してもTVで公開セクハラされて、暴行被害に遭ったのに謝罪させられる、こんな地獄で生きるのがつらすぎる』

また、女子校の「セクハラ・モヤモヤの墓場スレ」には日々投稿が寄せられる。先日はメンバーの1人がこんな書き込みをしていた。

『仕事帰りにバーに行ったら、2人組の男が話しかけてきて、女性差別的な発言をさんざん聞かされました。「女は体を使って稼げるからいいよな」「俺が女だったら風俗で稼いでる」とか。「ほなお前もアナル使えや!」と言い返せなかったのが悔しくて、家に帰って泣いてます…』

それに対して「そうや、アナルもったいないぞ!」「もったいないアナル!」とアナルアナルの合唱コメントがついており、彼女は「みんなが怒ってくれて気持ちが楽になった」と書いていた。

それでも、彼女の受けた傷が消えるわけじゃない。そして、傷ついて泣いているのは彼女だけじゃない。

1年ほど前にバーで飲んでいると、カウンターにいた3人組の男が痴漢冤罪の話を始めた。「女ばかり守られてずるい、女尊男卑だ!」「おっさん専用車両を作ってほしい!」と彼らは大声で笑っていた。

私はガタッと立ち上がり「あなた方は痴漢冤罪の被害に遭ったことがあるのか?私も私の周りの女性も、ほぼ全員が子どもの頃から痴漢に遭って傷ついてきた。今このお店にいる女性客もそうだろう。公の場で性暴力の話を大声でするんじゃない」と注意することは、できなかった。

公の場で性暴力の話を大声でするような連中と、関わり合いたくなかったからだ。

二次元の世界なら相手に酒をぶっかけたり、「汚物は消毒だ~!!」と火をつけて燃やすこともできる。でも現実世界では「何をされるかわからない」という恐怖が先に立つ。

何よりそんな無知で低俗な連中と話しても、こっちが疲れて傷つくだけなのは目に見えている。
「そうか、俺が悪かったぜ」とガッチリ握手みたいな展開にはならず、話し合う姿勢も理解する気もない相手と話しても「骨折り損のくたびれ儲け」になることを、経験的に知っている。
だからほぼ飲んでないグラスを残したまま勘定をして、店を出た。

そして家に帰って泣いた。

「無視する」ことも自分を守るための手段だ。そう頭ではわかっているが、「泣き寝入り」という言葉が浮かんだ。
その場で声を上げられなかったことが悔しかったし、別の女性がまた同じ目に遭うと思うと悔しかった。私にできるのは、二度とあの連中に会わないためにその店に行くのをやめることだけだった。

仕事終わりに一杯飲んでくつろぐというささやかな喜びを、なぜ奪われなきゃいけないのか。まさに歩いてるだけでクソを浴びせられるクソゲーだ。

彼らの1人でも痴漢に遭ったことがあれば、あんな話を大声でしないだろう。痛みのない側の人間が、傷ついた者をさらに傷つける。なぜそんな理不尽に耐えなきゃいけないのか。

「あァァァんまりだァァアァ AHYYY AHYYY AHY WHOOOOOOOHHHHHHHH!!」とエシディシ泣きしてみたが「フー、スッとしたぜ」とはいかず、1年たってもまだ悔しいし、今でもしょっちゅう思い出す。

そこで「呪いのかけ方」でググってみた。

すると「呪いのかけ方7選!簡単で効果のある方法とは?」という記事が出てきて「ペットボトルを使った呪い」など手軽なものから「生霊を飛ばして呪う」など本格的なものまで紹介されていた。

その記事の最後には「やりすぎるとあなた自身の生気を削る事になりますので、不調を感じたらただちに中止しましょう」とエクササイズDVDのような注意書きが載っていた。

クソどもを呪うために生気を削るのはご免である。というわけで、こうして文章に書くことにした。

その場で声を上げられなくても、ネットやSNSで全世界に向けて発信することはできる。インターネットは傷ついた人間にとってのセイフティネットだ。
私も昨今の胸糞案件についてツイートをして、そのうちいくつかはバズった。

「ちょうどいいブスのススメ」もネットで炎上して、現在「人生が楽しくなる幸せの法則」という激ダサなタイトルに変更して放送中である。どうせなら「Misogyny」とかカッコいい横文字のタイトルにすればよかったのに。

当ドラマのコンセプトは、ミソジニー(女性蔑視・女性嫌悪)をじっくりことこと煮込んだような内容だが、原作の山崎ケイには同情する部分もある。

「ちょうどいいブス」はホモソなお笑いの世界を生き延びるための、生存戦略なのだろう。
「女に笑いはわからない」「女が俺たち男の世界に入ってくるな」という男芸人の本音は、M-1後の上沼恵美子への暴言に如実に表れている。

「オバハンのくせに偉そうにするな」というミソジニーを、あんな大御所ですら浴びせられるのだ。
その根本の問題を無視して「酒は怖い」「酔ってSNSをするな」と先輩の男芸人たちはコメントしていた。
ちなみに来年サントリーはM-1のスポンサーにつくのだろうか。「ストゼロはすっごく酔えるよ!」という宣伝にはなっただろうが。

山崎ケイは「ブスのくせに調子に乗るな」「身の程をわきまえて、男にとって都合のいいブスなら認めてやる」という男社会の価値観を内面化しているのだろう。
それで「“酔ったらヤレる女”と男に見下されるよな“モテる女”を目指そう」「それが賢い女の生き方」と提唱している。

そりゃ炎上するわいな、という話である。シガー片手に灯油をロックでやるようなものだ。でもそれがわからないぐらい、お笑い界のミソジニーに慣れてしまったのだろう。

柳原可奈子も以前「セクハラされても、自分なら笑いにして返す」と発言していた。それをすると加害者は「冗談だし相手も笑ってるからオッケー」と受け止めて、セクハラは永遠になくならない。
そんな古すぎるTVの世界にうんざりして、視聴者が離れているのだ。

一般社会にも「セクハラや差別を笑ってかわすのが賢い女」「私はそれで成功してきた」と主張する、女王蜂が存在する。

そうやって強いものに巻かれていれば楽だろう。イジメやパワハラも弱い者の味方をするより、強い者に媚びる方が得だろう。でもそれは賢いんじゃなく、卑怯なだけだ。私は弱いものイジメに加担する側には死んでもなりたくない。

12年前、デビュー作『59番目のプロポーズ』がドラマ化された際、初稿の脚本が「非モテのオタク男子を見下して面白がる内容」に改悪されていた。

私は50代ぐらいの男性プロデューサーに「この内容なら絶対にドラマ化しない」と抗議した。デビューしたての新人だったが、そこは譲れなかった。
プロデューサーは大慌てで「気に入らないセリフは削除します」と対応していたが「面倒くさい小娘だな」と思っているのが丸わかりだった。

結局、放映されたドラマはつまらなくて、視聴率もイマイチだった。その後、出演者のあれやこれやでそのドラマは闇に葬られた、永遠にともに。

それ以来、私はTVの仕事の依頼はほぼ断ってきた。だが去年、NHK「ねほりんぱほりん」の「喪女」回に取材協力した。

番組の放映後、女性のディレクターさんから「アルテイシアさんに取材申し込みをした時、一番最初に『女性を見下して面白がる番組には絶対に協力しない』とおっしゃったことは、常に胸に刻んでおりました」とメールをもらって嬉しかった。

また別のTV局で働く女性から「番組の企画で『これ絶対セクハラで炎上しますよ』と何度も言ったのに『考えすぎだ』と上層部のおじさんに無視されて、案の定、ネットで大炎上しました」という話を聞いた。

その後しばらくして、彼女からこんなメールをもらった。「あの後、おじさんたちが私の言葉に耳を貸すようになり、『これは大丈夫かな?』と聞いてくるようになりました」
自分が痛い目に遭って始めて、女の言葉を真剣に聞くようになったのだろう。

こんなクソゲー社会でも、小さな希望を感じることはある。昨今のセクハラや女性差別問題も、一昔前ならニュースにもならず、闇に葬られていただろう。
「地獄になったんじゃない、もとからこの世界は地獄だ」とアルミンも言っているが、地獄が見える化しただけでも、多少はマシになったと言える。

だが昔よりマシと言われて、若い女の子たちの生きづらさが減るわけじゃない。女型の巨人になって老害どもを蹴散らしたいが、アニはあの硬いやつの中にいて継承もできない。

やはり我々一人一人が地道に声を上げて、クソゲー社会をアップデートしていくしかない。それがJJが後輩たちのためにできることだろう。

20代の時、私は広告会社のお偉いさんから「よう、まんこ!」と呼ばれていた。まんこまんこ言われてまんこがゲシュタルト崩壊していたが、「会社ってこういうものか」と思っていた。今なら鋼の巨人になって本社ビルをぶっ壊してやる。

まんこと呼ばれる会社を辞めて15年が過ぎ、先月、昔の上司たちと新年会で再会した。その時に感じたのは「おじさんたちのお行儀が良くなってる…??」

昔みたいに下ネタや風俗話を大声でする人も、女性にボディタッチする人も、私をまんこと呼ぶ人もいなかった。単に高齢化が原因かもしれないが、「不適切な言動を控えよう」という配慮を感じた。
結果とても居心地のいい、ほっこりした楽しい会になった。

彼らの配慮が「今はすぐセクハラって言われるよな、危ないからやめておこう」という自己保身であっても、一応アップデートしたと言えるだろう。それでイヤな思いをする女性が減ったのだから。

少なくとも「老害にならず、良い方向に変わるおじさんもいる」ということに、私は希望を感じた。

彼らが「堅苦しくて面倒くさい、昔の方がよかった」と思っていたとしても、本音は隠しておけばいい。「セクハラをするな」というのは「TPOをわきまえて、公道でフリチンになるな」という意味なのだから。

子どもの頃「4時ですよ~だ」に夢中だった私は、アップデートできない老害になった松本人志を見ると悲しい。
今の彼の周りには「王様はフリチンだ!」と教えてくれる人が、誰もいないのか。強いものに巻かれる人ばかりで、誰も意見を言えないのか。

誰か彼に伝えてほしい、「人権問題について勉強しろ」と。あなたに足りないのは、正しい知識なのだと。ハイヒールリンゴとか同期だし言ってくれないかな。

「昔は自由でよかった」は老害の口癖だが、それは「俺にとって都合がよかった」のであり、その自由は誰かの犠牲の上に成り立っていたのだ。

私たちはもう人を傷つけるようなネタで笑えない。それを「面白い」と感じるのは、人の痛みを無視しているからだ。私は人が殴られている姿を見て、笑えない。殴られた人が笑いで返す姿など、痛々しくて見ていられない。

だって私たちはさんざん殴られてきたのだから。

子どもの頃から痴漢に遭い、セクハラされても「過剰反応だ」「笑顔でかわせ」と責められる。女が活躍しても「体を使った」と叩かれ、性被害を訴えると「枕営業」「売名行為」と叩かれ、大御所になっても「更年期のオバハン」と叩かれる、そんな世界を我々は生きている。

新入社員の時、通勤電車で痴漢に精液をかけられた。それで会社に遅れていったら、男の上司に「顔射されたのか?(笑)」とからかわれた。そいつのことは一生許さないし、ペットボトルを使った呪いをかけてやる。

だが、22歳の私はショックで何も言い返せなかった。二次加害の女叩きを食らって「父さんにもグレッチでぶたれたことないのに…!」とアムロと林檎が混ざるぐらい混乱した。

そんな痛みを知っているから、若い女の子たちを守らなきゃと思うのだ。40歳を過ぎて、その思いはどんどん強くなっている。そして「誰かを守りたい」という思いは、人間を強くする。

JJは人類最強の部族「関西のおばちゃん」を目指してがんばるから、若い女の子たちもふんばって。一緒に世界を生きやすい場所に変えていこう。

アルテイシア『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』

加齢最高!大人気連載が1冊になりました。若さを失うのは確かに寂しい。でも断然生きやすくなるのがJJ(=熟女)というお年頃!おしゃれ、セックス、趣味、仕事等にまつわるゆるくて愉快な熟女ライフがぎっしり。一方、女の人生をハードモードにする男尊女卑や容姿差別を笑いと共にぶった斬る。「年を取るのが楽しみになった」「読むと元気になれる」爆笑エンパワメントエッセイ集。

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アルテイシアの熟女入門

人生いろいろ、四十路もいろいろ。大人気恋愛コラムニスト・アルテイシアが自身の熟女ライフをぶっちゃけトークいたします!

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク~モテるオタクになる恋愛ガイド~』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『官能女子養成講座』など。最新作は『オクテ女子のための恋愛基礎講座』。 女性のリアルな本音を赤裸々かつ軽快なタッチで描いて人気。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。
twitter : @artesia59

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