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人生は理不尽

2019.01.24 公開 ツイート

妻が自殺未遂、突然の左遷。そのとき私は… 佐々木常夫

「期待しすぎずに、楽観でいこう」元・東レ経営研究所社長の佐々木常夫さんが晩年について語った『人生は理不尽』(小社刊)が本日刊行されました。佐々木さんは東レ時代、肝臓病とうつ病を患い自殺未遂を繰り返した奥さまと自閉症のご長男を支えながら、必死に取締役にまで上りつめるも突然、左遷人事を言い渡されてしまいます。なぜ私が…そんなやりきれない想いに悩みますが、「なんとかなるさ」と前を向き、『ビッグツリー』『そうか、君は課長になったのか。』とベストセラーを著しました。そんな佐々木さんも74歳。死を意識するようになった今、何を想うのか。人生の暗夜に苦しむ全ての方に贈るメッセージです。

『人生は理不尽』(1月25日小社刊、1200円+税、B6判変形260頁)

はじめに

官邸が主催する「人生100年時代構想会議」によれば、日本は今、「健康寿命が世界一の超長寿社会を迎えている」のだそうです。

長寿という言葉には、「元気で長生きする」という意味があると言われます。だとすれば、超長寿社会は歓迎すべき幸せな社会と言っていいはずです。

ところが現実には、幸せどころか不安の声しか聞こえてきません。

認知症など老年病への不安。介護への不安。

お金の不安。住まいの不安。孤独死への不安。

このような不安から、「長生きしたっていいことなんかない」「できるだけ早く死にたい」と思っている人も少なくないのではないでしょうか。

確かに、超長寿社会は問題が山積みです。不安を覚えるのも当然です。後期高齢者となった私自身、何の不安もないと言ったら嘘になります。

でも、先々を悲観しているかと聞かれれば、そんなことはありません。

認知症になるかもしれないし、寝たきりになるかもしれない。今あるお金や住まいが、失われてしまうことだってあるかもわからない。

でも、そうなったらそうなった時のこと。人生、なるようにしかならない。悩んでも始まらない。老いも死も、楽観的に見るようにしています。

私はこのようなものの見方を、長年のビジネスマン人生から体得しました。

私は三十九歳で課長に昇進しましたが、直後に妻が急性肝炎を発症したため、妻の看病と自閉症の長男を含む三人の子どもたちの世話をしなければなりませんでした。病気の妻と障がいの子どものケアをしながら、会社のトップになることを目標に仕事に全力を注いだのです。

しかし、取締役まで昇りつめたのもつかの間、わずか二年で解任され、子会社への左遷人事を言い渡されました。

私には「東レを強い会社にしたい」という並々ならぬ思いがありました。だから上が判断したことでも、会社のためにならないと思えば迷わず苦言を呈しました。業績の悪化を防ぐため、「お言葉ですが」と進言することもしばしばでした。でも、会社にとっては迷惑な話でしかなかったのでしょう。私の行動はトップの不興を買い、左遷されることになってしまったのです。

その上、ちょうど同じ頃妻が手首を切って自殺未遂を図りました。肝臓病に加えうつ病を併発していた妻は何度も自殺未遂を繰り返していましたが、私の多忙に比例するかのように病状が悪化し、ある日自分の手首を深く切り、出血多量で命を失うかもしれないという最悪の事態に及んでしまったのです。

会社のためにがんばったのになぜ報われないのか。なぜ自分や家族がこんな目に遭わねばならないのか。日々苦悩と向き合う中で、私は「なるようにしかならない」「何とかなるさ」という考え方を身につけたのです。

そんな私に言わせると、物事を楽観的に見るにはちょっとしたコツがあります。「期待するのをやめる」ことです。

期待するとは「こうして(こうあって)ほしい」など、何かを当てにして待つことです。こういう気持ちが強ければ、裏切られた時の落胆も不安も当然大きくなります。

期待をやめると、今できる範囲で何とかしようという気になります。自力でできないことは、他人の力を借りるなり別の方法を考えるなりしようという建設的な考えも生まれます。執着や不満も少なくなります。

期待しないというのは、「希望を持つな」ということではありません。「人を信頼するな」というのとも違います。一定の距離を置いて、物事や人を冷静に見るということです。

そうすれば、慎みや配慮が生まれます。してもらったことや与えられたものに対して感謝も芽生えます。

高齢になると孤独が増します。人に期待したり依存したりしがちになります。だからこそ積極的に、「期待しない」習慣を身につけたほうがいいのです。

人生は時に理不尽です。お金、仕事、健康、家族のことなど、むしろ理不尽だらけだと言えるかもしれません。

しかし、理不尽から学ぶものも決して少なくありません。七十五の声を聞いた私が老い先を楽観視できるのも、ビジネスマン人生で強いられた理不尽のおかげと言っても過言ではありません。

本書はそんな私の、晩年における人間関係や健康、お金、老いや死に対する考えをまとめました。超長寿社会を生きるみなさんの不安が、少しでも軽減されれば幸甚です。

 

二〇一九年一月 佐々木常夫

 

* * *

 

『人生は理不尽』目次

第一章 人間関係は情や愛で考えない

老後の安心は「人間関係」がカギ/自分の世話は自分で焼こう/親子の同居に「愛」はいらない/「子どもへの期待」は持たないに限る/認知症傾向はコミュニケーションで防ぐ/「三世帯同居」のメリット/「困りごと」はフランクに打ち明ける/困ったわが子も十八歳からは大人として扱う/親は死んでも子は生き延びる/義理は積極的に欠いていい/見栄は百害あって一利なし/夫婦は情愛より「リスペクト」/兄弟姉妹とは他人以上に距離をとる/老いらくの恋は節度をもって/「一人きりの時間」が自分を癒す

第二章 自然体で老いてみよう

「未来を見つめる力」のある人は老いぼれない/「計画主義」で老後の人生に備えよう/「なんとかなるさ」の覚悟を持とう/「若々しさ」なんていら/私は「尊厳死」を選ぶことにした/死ぬことを理屈で考えすぎない/お墓は「残された人たちの都合」を最優先にする/お葬式という「別れの時間」をないがしろにしない/『7つの習慣』から学んだ「自己愛」の大切さ/「知行合一」で本当の自分に戻る

第三章 死ぬまで楽しく働こう

「自分磨き」はもういらない/働くことに勝る生きがいはない/人生経験は「さりげなく」使おう/定年後の仕事は「少しでも稼げればそれでよし」/再就職はプライドより「効率」を重視せよ/「年齢の壁」を恐れるな/定年起業するなら「あふれる思い」は捨てなさい/地域活動で「一目置かれる人」になる/地域で「えらそうな老人」になってはいけない/「昔の自分」に会いに行こう/「同窓会幹事」のすすめ/現役世代から「華やかなエネルギー」をもらおう/「小さな目標」を立てなさい/渋沢栄一に学ぶ「好奇心」/一年くらい、のんびりしたって構わない

第四章 お金の不安におびえるな

「晩年はシェアハウス」も一興/「ドケチ」は最高の褒め言葉/株で老後資金は増えないと思え/資産運用を甘く見ない/死亡保障は六十代でやめにする/堂々と生活保護をもらいなさい/子どもや孫へは「決まった額」以外渡さない/「相談」なくして「相続なし」!/脱・銀行時代に備えよう/子どもにも介護料を支払うべき/「みじめな金持ち」ほど不幸なものはない

第五章 謙虚さが豊かな老いをつくる

健康に対して謙虚であれ/「病気自慢」はするな/体重は毎日計ろう/名医は「口コミ」と「三つの条件」で探しなさい/「少しだけ病気」くらいでちょうどいい/健康管理は「知性」でコントロールする/スポーツジムに通う必要はない/「貪欲」にさよならしよう/モノを捨てられない人は教養のない人/「コレクション」はしない/「終の住処」にとらわれるな

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人生は理不尽

「期待しすぎずに、楽観でいこう」元東レ経営研究所所長の佐々木常夫さんが、壮絶な半生から学んだ人生晩年の哲学『人生は理不尽』(1月25日、小社刊)より一部公開。人生の暗夜は本書で照らせ!

 

~うつ病の妻、自閉症の長男を支えながら死に者狂いで辿り着いた東レ取締役。しかし、妻が2か月後自殺未遂。そして突然の左遷――。会社のために頑張ったのに、なぜ報われないのか。なぜ自分や家族が、こんな目に遭わねばならないのか。苦悩の中で、私は物事を客観的に見るコツを身につけました。それが「期待するのをやめる」ことです。人生は時に理不尽です。しかし理不尽から学ぶものも決して少なくないのです。~

 

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佐々木常夫

1944年、秋田市生まれ。株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表取締役。69年、東京大学経済学部卒業後、東レ株式会社に入社。自閉症の長男を含め3人の子どもを持つ。しばしば問題を起こす長男の世話、加えて肝臓病とうつ病を患った妻を抱え多難な家庭生活を送る。一方、会社では大阪・東京と6度の転勤、破綻会社の再建などさまざまな事業改革に多忙を極めたが、いかにワークライフバランスを保つかを考え、定時に帰る独自の仕事術を身につける。2001年、東レ株式会社の取締役に就任。03年より東レ経営研究所社長。何度かの事業改革の実行や3代の社長に仕えた経験から独特の経営観をもち、現在経営者育成のプログラムの講師などを務める。内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授などの公職を歴任している。『そうか、君は課長になったのか。』(WAVE出版)、『40歳を過ぎたら、働き方を変えなさい』(文響社)、『運命を引き受ける』(河出文庫)など著書多数。

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