
一冊の本は、著者の力だけで完成するものではなく、そこには多くの人の手による「見えない仕事」が添えられている。このたび画家のnakabanさんとの共著『ことばの生まれる景色』がナナロク社から発売になるのだが(Titleでは13日より発売予定)、一年を通してこの本と向き合った人が、著者であるわたしとnakabanさん以外に、もう一人いる。
「編集者」と呼ばれる人には様々なタイプがいるが、この本の担当者である川口恵子さんは「よく読む」人だった。彼女のことを考えると、流行や話題に乗っかり何かを仕掛けていく「ガツガツとした姿」ではなく、本やゲラと向き合い、それを何度でも読んでいる姿がまず思い浮かぶ(見たことはないが……)。「編集者は第一の読者である」とはよく言われることだが、とかく「仕事」になりがちな本づくりの現場で、純粋な〈一人の読者〉として目のまえにある原稿を読むことがどれだけ難しいかは、察するに余りある。
この本を作る際の進めかたとして、1章ごとに原稿が書けたらまず川口さんに送り読んでもらっていたのだが、その原稿に少しだけ書き込まれて戻ってくる「鉛筆」が楽しみでもあり怖くもあった。そこには一つ一つの表現を直すというよりは、「ここをもう少し読みたい」とか「この章は伸び伸びと書かれていてよい」など、感想が少しだけ書かれていた。誰かに読んでもらうことではじめて、その文章は自分のなかから旅立ち、広い世界にその場所を見つけていく。それは何というか、心から安心できた瞬間だった。
辻山が選んだ40冊の本にnakabanがイメージを膨らませた絵を描き、さらにその本にまつわるエッセイ40篇を辻山が書いた、絵と文が並び立つ一冊。
実はこの『ことばの生まれる景色』は、途中で大きく全体を書き直している。それは川口さんからの求めに従い手を入れたのだが、当初からは想像もしなかったところに、最終的に着地したと思う。「次はどうなるの」という第一の読者の声に、押し出されるようにして書くことができた一冊だった。
今回のおすすめ本

数多くの恋愛を通り抜け、仕事や出合ったものを貪欲に吸収し、自らの表現の肥やしにする。そのようなアーティストが「ひとり」になったとき、そこにはどのようなことばが存在するのだろうか。ひたむきに生きてきた人が真摯に自らに問いかける、強くてヒリヒリするエッセイ。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2026年1月10日(土)~ 2026年2月2日(月) Title2階ギャラリー
本屋Titleは、2026年1月10日に10周年を迎えました。同日より2階のギャラリーでは、それを記念した展示「本のある風景」を開催。店にゆかりのある十名の作家に「本のある風景」という言葉から連想する作品を描いていただきました。それぞれの個性が表れた作品は販売も行います。本のある空間で、様々に描かれた〈本〉をご堪能ください。
【『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』が発売中です】
本屋Titleは2026年1月10日で10周年を迎えました。この度10年の記録をまとめたアニバーサリーブック『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』が発売になりました。
各年ごとのエッセイに、展示やイベント、店で起こった出来事を詳細にまとめた年表、10年分の「毎日のほん」から1000冊を収録した保存版。
Titleゆかりの方々による寄稿や作品、店主夫妻へのインタビューも。Titleのみでの販売となります。ぜひこの機会に店までお越しください。
■書誌情報
『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』
Title=編 / 発行・発売 株式会社タイトル企画
256頁 /A5変形判ソフトカバー/ 2026年1月10日発売 / 800部限定 1,980円(税込)
◯【寄稿】
店は残っていた 辻山良雄
webちくま「本は本屋にある リレーエッセイ」(2025年6月6日更新)
◯【お知らせ】NEW!!
養生としての〈わたし〉語り|〈わたし〉になるための読書(8)
「MySCUE(マイスキュー)」 辻山良雄
今回は、話すこと、そしてそれを通じて自分自身を考えさせられる3冊の本を紹介します。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
本屋の時間の記事をもっと読む
本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。


本屋Title10周年記念展「本のある風景」











