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海の授業

2018.11.10 公開 ツイート

深海の王者「ダイオウイカ」の体長は20メートル! 後藤忠徳

 海にはどんな謎の生物がいるの? 人間はどれだけ深く潜れるの? 津波はなぜ起こるの? 火星に海はあるの? そんな素朴な疑問にこたえてくれる一冊が、世界中の海を調査してきた京都大学准教授、後藤忠徳先生の『海の授業』。文章はきわめてやさしく、子どもさんへのプレゼントにもピッタリかもしれません。そんな本書から、一部を抜粋して公開します。

海には謎の生物てんこ盛り

 他にも謎の生物はたくさんいます。「ダイオウイカ」もその一つです。ダイオウイカは体長が6~10メートル以上、体重は100キロを超える巨大生物で、普通のイカの数百匹分のサイズ。まさにイカの大王であるとともに「背骨を持たない生物」としては地球上で最大級の大きさです。

iStock.com/abadonian

 この生物、その存在は古くから知られているのですが、普段は深海で生活しているらしく、発見例はとても限られています。しかもその多くは、海岸に打ち上げられた死んだ姿。生きたダイオウイカの姿を見た人はほとんどおらず、海の中での暮らしぶりは想像するしかありませんでした

 例えば死んだダイオウイカの胃の中を調べると、白身魚や小さなイカをエサにしていることは分かりましたが、どうやって捕っているのかは分かりませんでした。体が大きいので、きっと海中を漂うようにゆっくりと泳いでいて、たまたま出会った獲物をパクリと食べていたのでは? うーむ、まるで殺人事件を推理する探偵の気分です。

 やはり、ダイオウイカの生きている姿を見たい、捕まえたい。世界で初めてダイオウイカの撮影に成功したのは、これまた日本の研究者でした。エサと小型の深海カメラを下ろして、ダイオウイカを追い求めた場所は、マッコウクジラがたくさんいることで知られている小笠原諸島の沖合の海。ダイオウイカを探しているのに、なぜクジラ? 実はマッコウクジラはダイオウイカが大好物なのです。

 ならば小笠原諸島の沖合にはダイオウイカもたくさんいるのではないか?

 予想は的中しました。2004年、ついに世界で初めて、ダイオウイカが水深900メートルでエサを捕る姿が写真に収められました。驚いたことに、全長8メートル(推定)のダイオウイカはゆっくり泳いではおらず、腕を大きく広げてエサを機敏に包み込んでいました

 ダイオウイカの素早さがもっとはっきりしたのは2006年。同じく小笠原諸島沖で、今度はダイオウイカを捕まえるのに成功しました。この時の様子は、船の上からビデオ撮影されていましたが、釣り上げられたダイオウイカは海の上で長い腕を盛んに振り回し、漏斗から海水を激しく噴射して逃げようとしたのです。残念ながら、このダイオウイカは輸送中に死んでしまいました。

 こうなったら深海を泳ぐダイオウイカをこの目で見たい。研究者の執念は2012年に実ります。日米の合同調査隊は特殊な潜水艦を用いて、真っ黒な深海からエサに飛びかかるダイオウイカの様子を目撃することに成功したのです。ダイオウイカは鋭い眼光で潜水艦の中の研究者とカメラを見つめていました。イカというよりも、ヒョウやトラなどの猛獣に似た眼の輝きがNHKで放送されて話題になりましたね。

 同時に、金魚鉢みたいな全天周コクピットを持つ潜水艦も印象的でした。乗船者は全方位を広い視野で観察できるのです。最近噂される次世代深海調査船に採用されたりして?

ダイオウイカ vs クジラ!

 ダイオウイカはクラゲのようにゆっくり漂って生活しているのではなく、深海でも素早く泳げることが分かりました。ということは、深海ではマッコウクジラとダイオウイカの壮絶な戦いが日夜繰り広げられているのかもしれません。

iStock.com/MR1805

 好物のダイオウイカを丸呑みにしようとするクジラ。そうはいくかと吸盤をクジラの体に食い込ませて必死に抵抗するダイオウイカ。しかしクジラの大きさには敵いません。ダイオウイカ、負けそう。そこでダイオウイカは鋭いくちばしで、クジラの弱点である目を狙います……と、こんな想像もできますね。

 事実、クジラの皮膚にはダイオウイカの吸盤によるものと思われる丸い傷跡が残っている場合があります。また2009年には、死んだダイオウイカをくわえて泳ぐマッコウクジラがダイバーによって撮影されています(親子のクジラでした。このあと静かな場所でゆっくりお食事?)。しかし、この二大巨大生物の戦いをライブで見た人はまだいません。

 ダイオウイカの謎はまだまだあります。海にはたくさんいるのか、少ないのか? なぜクジラの大好物なのか(クジラにとっては浅いところにもっとたくさんエサがあるでしょうに)? そしてどれくらいまで大きく育つのか?

 実は昔、クジラの漁がまだ盛んだった頃、クジラと一緒にダイオウイカが捕れることがあったそうです。私も以前、クジラ漁船に乗ったことがある船員さんからダイオウイカの写真を見せてもらって驚きました。船の上に横たわるダイオウイカの胴体に、若かりし日の船員さんがまたがっていますが、足が床についていません。胴体の直径は1メートルを超えていたと思います。船員さんも「クジラと同じくらいの大きさだった」とおっしゃっていたので、体長は20メートルを超えていたのではないでしょうか?(大型バス2台分の長さです!)

 世界のあちこちで同じような報告例はありますが、きちんと見つかったものはいません。いずれあっと驚く大物が見つかる気がします。

 このように世界の海には不思議な生き物がたくさんいます。しかもある調査によれば、世界中のすべての海の生物のうち、15パーセントほどの種類が日本付近の海で暮らしているそうです。世界の国々と比較しても、日本の周りにはいろんな海の生物がいるために、日本周辺で次々と新しい発見がなされたのです。ということは、今度はあなたが大発見をする番かもしれませんね。

関連書籍

後藤忠徳『海の授業』

海はいつどのようにできた? 波はどのようにできる? 深海では何が起きている? なぜ人は船酔いするの? 調査船で世界の海を探査してきた海洋学者が、海の神秘を分かりやすく解説。大人も子供も必読。電子書籍版限定で「調査船」から撮影した写真も収録!

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海の授業

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後藤忠徳

大阪府生まれ。京都大学大学院工学研究科准教授。1993年神戸大学大学院修士課程修了(理学研究科地球科学専攻)。97年京都大学博士(理学)学位取得。東京大学地震研究所、愛知教育大学総合科学課程地球環境科学領域助手、海洋科学技術センター深海研究部研究員、海洋研究開発機構技術研究主任などを経て現職。光の届かない海底を、電磁探査を使って照らしだし、巨大地震発生域のイメージ化、石油・天然ガス・メタンハイドレート・熱水金属鉱床などの海底資源の探査、地下環境変動のモニタリング技術の開発などを行っている。海や陸の調査観測だけではなく、数値シミュレーションなどの開発にも力を入れている。

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