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海の授業

2018.11.11 公開 ポスト

あの映画監督も憧れた世界最深「チャレンジャー海淵」後藤忠徳

 海にはどんな謎の生物がいるの? 人間はどれだけ深く潜れるの? 津波はなぜ起こるの? 火星に海はあるの? そんな素朴な疑問にこたえてくれる一冊が、世界中の海を調査してきた京都大学准教授、後藤忠徳先生の『海の授業』。文章はきわめてやさしく、子どもさんへのプレゼントにもピッタリかもしれません。そんな本書から、一部を抜粋して公開します。

世界一深い海に潜った男たち

 こうして世界中の海の深さを測った結果、世界中の海で一番深い場所は、日本のはるか南方に位置する、マリアナ海溝だと分かりました。イギリス海軍の測量船「チャレンジャー8世号」がマリアナ海溝の深さを超音波の往復時間で調査したところ、その最深部は約1万900メートル(1951年当時)でした。そのため、この場所は特に「チャレンジャー海淵」と呼ばれるようになりました。

iStock.com/creativesunday2016

 その後、測深装置の精度の向上と度重なる調査の結果、1984年に日本の海上保安庁の測量船が測った1万920メートルプラスマイナス10メートルが、現在の国際的な公式記録となりました。世界で一番高い山エベレストは標高8848メートルなので、それよりもずっと深いのです。

 なるほどねぇ……と思ったら、2010年にはアメリカの調査船がさらに深い1万994メートルを弾きだしたとか。ほんとかなぁ? 論争も技術開発もまだまだ終わっていないようですが、そうはいっても世界で一番深い海はマリアナ海溝で間違いはないでしょう。

 このマリアナ海溝には潜水調査船しんかい6500でも蛟竜でも潜れませんが、人類史上、そこにたどり着いた人達がいます。最初に成功したのはジャック・ピカールとドン・ウォルシュ。

 ピカールはスイスの海洋学者、ウォルシュはアメリカ海軍の軍人。二人はアメリカの支援のもと、二人乗りの潜水艇「トリエステ号」で、マリアナ海溝最深部に挑みました。時は1960年。その当時、アメリカは何かにつけてソ連(いまのロシア)と競争をしていました。

 人工衛星の打ち上げはソ連が先(1957年)、有人宇宙飛行もソ連に後れを取りました(1961年)。

 一方で、深海底への到達競争も静かに繰り広げられていたのです。彼らはトリエステ号の金属の球殻の中に乗り込んで、海底まで行きました。

 ただ、現在の潜水調査船とは違い、トリエステ号は海底を右へ左へと動くことはできませんでした。ただ真下に降りていって、上がってくるだけ。実はジャック・ピカールのお父さん、物理学者で気球の専門家だったオーギュスト・ピカールが、気球の原理を応用してトリエステ号を発明したのです。

 トリエステ号は空気ではなく(水よりも軽い)ガソリンタンクを風船代わりにした潜水艇だったので、気球と同じく海底を自由には動き回れなかったのです。海底にいた時間もたった20分だとか。これでは満足な深海調査はできませんが、史上初の大冒険には違いありません。

日本にも新しい潜水艦を

 それから50年以上が経った2012年3月、ビッグニュースが世界を駆け巡りました。映画「タイタニック」の監督として有名な、ジェームズ・キャメロン氏が自ら、潜水艇「ディープシー・チャレンジャー(深海への挑戦者)」に乗り込んで、チャレンジャー海淵に到達したのです。

iStock.com/12qwerty

 この潜水艇はトリエステ号とは違って、海底である程度自由に移動できるタイプでした。海底には3時間滞在し、その間に泥を採取し、映像を撮ったそうです(これはまた映画になるみたい)。史上3人目の快挙ですが、探検するのには短い時間でした。

 さて中国は水深7000メートル級の潜水調査船を完成させました。アメリカは潜水艇「ディープシー・チャレンジャー」とは別に、水深6500メートル級の潜水調査船を作っています(従来からある潜水船アルビンを大改造中です)。

 じゃあ日本は? しんかい6500も建造から20年を超えて、ちょっとずつ「おばあちゃん」になっています(「おじいちゃん」ではありません。船の場合は女性にたとえることが多いです)。しんかい1万1000を作る! という話は長い間ありませんでしたが、最近現実味を帯びてきました

 その一方「お金がかかる潜水調査船はもういらないのでは?」「それよりも安くすむ深海探査ロボットをたくさん作ったほうが良いのでは?」と言う研究者もいます。はてさて、どちらが良いのでしょうか? あなたならどう思いますか?

関連書籍

後藤忠徳『海の授業』

海はいつどのようにできた? 波はどのようにできる? 深海では何が起きている? なぜ人は船酔いするの? 調査船で世界の海を探査してきた海洋学者が、海の神秘を分かりやすく解説。大人も子供も必読。電子書籍版限定で「調査船」から撮影した写真も収録!

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海の授業

海にはどんな謎の生物がいるの? 人間はどれだけ深く潜れるの? 津波はなぜ起こるの? 火星に海はあるの? そんな素朴な疑問にこたえてくれる一冊が、世界中の海を調査してきた京都大学准教授、後藤忠徳先生の『海の授業』。文章はきわめてやさしく、子どもさんへのプレゼントにもピッタリかもしれません。そんな本書から、一部を抜粋して公開します。

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後藤忠徳

大阪府生まれ。京都大学大学院工学研究科准教授。1993年神戸大学大学院修士課程修了(理学研究科地球科学専攻)。97年京都大学博士(理学)学位取得。東京大学地震研究所、愛知教育大学総合科学課程地球環境科学領域助手、海洋科学技術センター深海研究部研究員、海洋研究開発機構技術研究主任などを経て現職。光の届かない海底を、電磁探査を使って照らしだし、巨大地震発生域のイメージ化、石油・天然ガス・メタンハイドレート・熱水金属鉱床などの海底資源の探査、地下環境変動のモニタリング技術の開発などを行っている。海や陸の調査観測だけではなく、数値シミュレーションなどの開発にも力を入れている。

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