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未来の稼ぎ方

2018.09.27 公開 ツイート

会社の寿命が10年の時代にどの業界でどう稼ぐか? 坂口孝則

AH86/iStock

これから儲かる業界とそのピーク、そして時代の本質を見極めるために大きな助けになる新書『未来の稼ぎ方 ビジネス年表2019-2038』(坂口孝則著)が9月27日に発売された。著者の坂口氏が提案する未来への態度とは――。

名経営者はたいしたことがない

私は、ある企業の部長から聞いた話を忘れられない。「ぼくらってね、いちばんカネが使える主任のときにバブルを迎えた。ほら、そのころって、取引先とよく飲みにいくでしょう。楽しかったなあ。いくらでもカネを使えたからね。そのあと、バブル崩壊のときには、部長になってね。日本が凋落した時代には、ぼくらもボケていたから、とくに寂しさもなかったんだよ」。

これを、ある世代の自慢譚ととらえることもできる。あるいは、良かった時代の残滓とも解釈できる。または、旧世代の戯言と考えてもいいかもしれない。

かつて企業の部長職は、ゆっくり出社して、そこから日経新聞をダラダラと読む余裕があった――と歴史は語る。しかし、いまでは、そんな余裕がある部長を、ほとんど見る機会はない。

むかしは、いちど身につけたスキルで、ずっと食っていけた。新入社員である会社に入れば、そこから業務知識と、一通りのスキルを手に入れれば、あとは人間関係があればまわしていけた。いわゆる牧歌的な時代だった。

以前、某出版社からの依頼で、かつての名経営者が語った言葉をつむいでいったことがある。戦後の焼け野原から出発し、世界的な大企業を築いた名経営者たちがいる。彼らのインタビューを読みながら、現代へ通じるヒントを得ようという企画だった。

しかし、残念ながら、この企画は頓挫することになる。

なぜか――というと、たぶん、お叱りを受けるだろうが、語っている内容を冷静に読むと、あまりに幼稚すぎたからだった。

正直にいえば、私は「え、このていどの含蓄しかないの」と驚いてしまったほどだった。右肩上がりの当時は、製品か商品を作れば売れた。もちろん、そんなに単純ではないものの、時代の風はたしかにあった。名経営者の言葉を聞くと、まるで、いまでは部門の課長から聞けるくらいの厚みしかない。

私が読む以上は、そこから、残念ながら「昔は良かった」という凡庸な結論しか引き出せそうになかった。いまでは、複雑系の世の中で、ふつうの管理職がむしろ難題を抱えている。たぶん、現在の管理職のほうが、かつての名経営者以上のスキルが要求されていると自信をもってもいいだろう。

それはどのような理由があるだろうか。世の中が複雑化している。そして、なによりもスピードの問題だろう。

ドラッカーは、会社の寿命が、個人の寿命よりも短くなったことを、悲観的ではなく、楽観的ではなく、ただただ指摘している。

「働く者、特に知識労働者の平均寿命と労働寿命が急速に伸びる一方において、雇用主たる組織の平均寿命が短くなった。今後、グローバル化と競争激化、急激なイノベーションと技術変化の波の中にあって、組織が繁栄を続けられる期間はさらに短くなっていく。これからは、ますます多くの人たち、特に知識労働者が、雇用主たる組織よりも長生きすることを覚悟しなければならない」(『プロフェッショナルの条件』)

短くなる企業の寿命と、長くなる個人の職業寿命

かつて、企業の寿命は30年だといわれた。それが、現在では10年といわれる。これは統計上の厳密な話というよりも、それくらいで思っておいたほうがいいという、姿勢の話だ。もっとも、現在では、一つの企業に在籍して10年にいたらずに転職を繰り返すケースは珍しくない。私の知人たちも、数年ごとに転職を繰り返している。さらに、それは、もはや当たり前の行動となっている。

くわえて、寿命100年時代がやってくるという。100÷10=10の仕事を習得せねばならない。実際の働く年数はもっと短いだろうが、一つの業界に10年も従業しないのであれば、この10という数字はリアリティをもつ。つまり、現在は、就職すると同時に、10ものプロフェッショナルを経験する覚悟をもたねばならないのだ。

ドラッカーは、前述の言葉とともに、私たちが長く働くようになって世の中の富を増やしているともいっている。この長くとは、一日の長時間労働を指すのではなく、生きるあいだの労働を指している。人間は生涯、労働に時間を費やすことで、社会への価値を生み、その結果、社会全体が富むようになった。

私は、社会保障制度、とりわけ年金が存続するか、崩壊するかについて、さほど興味をもっていない。というのも、年金があろうがなかろうが、無事な状況をつくるほうが現実的に重要だろうと思うからだ。そして、そのためには、長く働くしかない。

40歳のひとであれば、これまでは、残り20年間のキャリアを考えればよかった。しかし、これからは、残り60年間のキャリアを考える必要がある。そして実際に、健康寿命は延びている。30歳であれば、残り70年だ。もっとも、先に論じた、10のキャリアとはいいすぎかもしれない。ただ、それでも、3か5かは別にして、複数の業界や分野で通じる人材にならねばならない。

経験(強み)×異分野(挑戦)で仕事の幅を広げる

しかし、とはいえ、自分を活かすためにはシンプルに考えるほうがいいだろう。

二軸があるとする。一つの軸は、自分が経験した仕事か、自分が経験していない仕事か。そして、もう一軸は、自分が経験した業界か、自分が経験していない業界か。

たとえば、独立するとして、もっともやりやすい仕事は、自分が経験した仕事を、自分が経験した業界でやることだ。しかし、それは、競争相手も多い。

逆に、自分が経験したこともない仕事を、さらに自分が経験していない業界でやるのはどうだろう。これはあまりに不利だ。しかし、この無謀な闘いをするひとは多い。たとえば、会社を辞めて、社会保険労務士の資格をとったあとに、中小企業向けに営業をはじめるひとのいかに多いことか。

となると、答えは、自分が経験した仕事で、自分の経験していない業界――かつ、自分のノウハウが意味をもつ業界ならばいいだろう。個人的な話をすると、私は、ずっと企業で調達・購買業務に従業していた。調達・購買とは、製造業で、材料や部品を仕入れたり、価格管理をしたりする部門だ。製造業は1円単位で、それを管理する。

しかし、建設業やサービス業では、それほどでもない。そこで、私は、製造業で培ったノウハウを、異業界で提供しようとした。もちろん、道のりは平坦ではなかったものの、方針は間違っていなかった。そして、そのために、異分野の状況と弱みについて、学び続けた。

事実をもとに未来の明るさを信じる

ところで、個人的な話をしたい。

以前、仕事がまったくうまくいかず、売上がまったくなく、生活をどうしようか悩み続けていた時期があった。当時、結婚したばかりの妻から、病院に連れて行かれた。精神病院ではなく、産婦人科だった。

医師はしばらくすると、私たちふたりを見つめ、「おめでとうございます」といった。お会計のとき、その診断料すら財布に入っていないと気づいた。そこから走ってコンビニエンスストアのATMに向かっているとき、世界がまったく違って見えたことを覚えている。

「ああ、ぼくはいったい何を悩んでいたんだろう」

そのときの、現状は最悪だけれど、きっと未来には希望しかない――といった奇妙な感覚を、この文章を通じて、うまく伝えられるかわからない。それは、「子どもができたのだから、しっかりしなきゃいけない」とか「ちゃんと稼がねばならない」といった義務感を伴うものというよりも、なぜか無条件に未来への肯定感を与えてくれた瞬間だった。

私はいっさいの宗教を信じていない。ただ「感情的になったり、ただただ悩んだりするのではなく、事実を集めて何ができるか考えよう。それだけ考えぬいたら、まあ神様が見てくれているだろう」と思うにいたった。

現在の日本は、製造業が世界を制覇したころの記憶と、そして米中に後塵を拝するようになった現代の墜落が、鋭い明暗の対立となってそそり立っているように感じられる。日本では「失われた20年」「失われた30年」といわれ続け、もはやそういった言説に慣れすぎであるほどだ。

しかし、栄華が過ぎ去った日本こそ、ひたむきに運命を切り開こうとする姿勢が輝く季節であるだろう。企業は衰退に直面して、これまでのビジネスモデルを見直し、試行錯誤の過渡期をさ迷い、ようやく成功体験を「捨てる」覚悟を決める。

そして、それは未来の明るさを信じることと、事実やデータを元に考えることからはじまると、私は思う。

『未来の稼ぎ方』発売によせて

このたび『未来の稼ぎ方』を上梓することになった。同書は、2019年から2038年までの20年間で、何が起きるのか、コンビニ、自動車、中国、インド、音楽、アフリカ、宇宙、AI、農業、インフラ……と、それぞれの業界を一つずつ取り上げ、統計やデータから読み解ける未来予想を語ったものだ。

本書の構成は、それぞれの年ごとに、現状分析をし、環境変化を書き、それに対する業界の対応、そして考えられる未来像を書いた。さらに、私が考える、その業界におけるこれからの商品やサービス予想も追加した。

言葉を替えれば、平成が終わって、新元号になって20年の、「日本の歴史・ビジネス未来編」ともいえる。

執筆を開始したのが2017年の夏ごろで、実に1年以上を費やした。突飛な予想ではなく、あくまでも事実を起点にした内容となっている。異分野に転職したり、あるいはビジネスが他業界にわたったりする現在、ヒントを与えられれば幸いだ。

ところで、私は職業柄、ビジネス上の成功者に出会う機会が多い。すると、奇妙な感覚にとらわれる。多くは、「未来なんてわからない。だから、現在を必死に生きるしかない」という。しかし、同時に、矛盾するかのように、その発言の端々に「未来はこうなるはずだ」と断言にも似た預言にあふれている。

この矛盾をどう解決したらいいだろう――。私はこれを考え続けていた。

きっと、こういうことだと思う。

徹底的に情報を収集する。そして、仮説を立てる。しかし、複雑系の世の中で、予想通りに世界が進むはずはない。ちょっとしたノイズや変化で、世界はまったく予想もしなかった方向に流れていく。だから未来予想はむなしい。ただし、それでもなお、自分なりの仮説がなければ、「なぜ間違ったのか」もわからない。

そこで、「未来は予想しつつも、間違うことを前提に、ただただ現在を生き、そして試行錯誤するしかない」という態度に行き着く。しかし、その矛盾した態度こそ、私は現代に必要な姿勢のように思われる。

『未来の稼ぎ方』ができること

私の好きな言葉に「同じことをやり続けて、違う結果を求めるのは精神異常者だ」がある。変化を求めるならば、ちがう何かを行動せねばならない。そして、何かをする、というとき、どんなに才能があるひとであっても、斜陽業界に身を委ねるよりも、伸び盛りの業界に置いたほうがいい。

いや、そんな難しいことばかりが狙いではない。私は、20業界の趨勢を、できるだけ明瞭に、そして意外なフレーズをからめて書いておいた。

●経営者には世界とビジネスの俯瞰図として
●ビジネスパーソンには他業界の状況を知るための情報源として

そのなかでも
●企業の新規事業開発担当者にはアイディアの詰まった本として

そして
●一般読者にも面白い読み物として

お読みいただければ幸いだ。

私は会社勤めから偶然が重なり独立し、知人らと会社をつくって、自らビジネスを作らねばならない深い森のなかに迷い込んだ。そこには、道標もなく、私は手探りでその森のなかをいかに歩んでいくか試行錯誤を始めた。誘蛾灯のような薄い光のみを頼りにしながら。

学ぶほど、知るほど、行動するほど、その森の奥が深いとわかり、その知識と仕事の喜びの深さを知りたいと、ずっと思っていた。

現代、ビジネスパーソンは社会環境の変化に対応し、追随し、さらにその一歩先を読まねばならない宿命を背負っている。仕事とは、生きる、と同義だから、読者が起業家や役員や社長やフリーランスでなくても、どんな立場のひとであってすら、仕事の充実は生の充実をももたらすに違いない。

なんらかの仕事に関わるすべての人へ刺激となることを期待して。

**
<イベントのお知らせ>
坂口孝則×竹村優子
「短命化する仕事とDIY化する人生のなかでどう稼ぐか?」
日時:2018年10月29日20時~22時(19:30開場)
場所 :本屋B&B(東京都世田谷区北沢2-5-2 ビッグベンB1F)
入場料:■前売1,500yen + 1 drink ■当日店頭2,000yen + 1 drink
詳細、お申込みはこちら

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坂口孝則

1978年生まれ。調達・購買コンサルタント、未来調達研究所株式会社所属、講演家。大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買に従業。現在は、製造業を中心としたコンサルティングを行う。著書に『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『1円家電のカラクリ 0円iPhoneの正体』『仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。』『稼ぐ人は思い込みを捨てる。』(小社刊)、『製造業の現場バイヤーが教える調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。

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