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脳が冴え続ける最強メソッド

2018.05.31 公開 ポスト

運動と脳の意外な関係。筋トレやジョギングで、脳がもっと賢くなる寒竹泉美(サイエンス・ライター)

世界のビジネスエリートたちは、肉体をメンテナンスするのと同じように、脳のケアにも投資を始めています。日本でも昨年、認知症を予防するための脳トレーニングジム「ブレインフィットネス®」の誕生が話題に。5月にはこの脳トレーニングジムのプロデューサー髙山雅行氏と脳科学者の杉浦理砂氏の共著『ブレインフィットネスバイブル 脳が冴え続ける最強メソッド』も刊行されます。
 今回は脳と運動の意外な関係について。書籍の内容の一端をご紹介するコラムシリーズです。

運動は脳を育てる

 子供に対して「遊んでばかりいないで勉強しなさい」と言うことはあっても、「勉強ばかりしてないで外で遊びなさい」と言う親は少ないかもしれません。でも、運動が脳を育てるという事実がもっと広まれば、親の声かけも後者のように変わってくるかもしれません。

 脳のパフォーマンスは運動の有無に大きく影響されます。適度な運動をすることは体の健康に良いだけでなく、脳の健康にも良いのです。さらに、運動をすると脳のネットワークを担う「ニューロン」が成長しやすい状態になります。知識や経験を吸収しやすくなり、学習効果が高まることが期待できます。

 書籍『ブレインフィットネスバイブル 脳が冴え続ける最強メソッド』(幻冬舎)には、運動が脳に良い理由が次のように説明されています。

(1)脳血流が増加する

(2)脳の情報伝達を担う神経伝達物質やホルモンが増加する

(3)ニューロンの栄養になる脳由来神経栄養因子(BDNF)が増加する

(4)記憶を司る脳の領域「海馬」の体積が増加し記憶力の維持・向上が期待できる

(5)ビジネス遂行に必要な脳の部位「前頭前野」の機能維持や向上が期待できる

 このように、さまざまな面から運動は脳に好影響を与えます。

 運動が大切なのは育ち盛りの子供の脳だけではありません。20代の頃の運動が中年期の脳のパフォーマンスに影響することを示した研究を紹介します。

 米国ミネソタ大学の研究チームが18~30歳(平均25歳)の2747人の健康な人々を対象に、ランニングマシン上を走る体力測定を行いました。その20年後、この中の1957人に同じ体力測定を受けてもらいました。最初の測定から20年経っていますから、若者だった参加者は38~50歳という中年と呼ばれる年代になっています。体力測定の結果は当然20年前よりも成績が落ちていました。

 2回目の測定が終わってからさらに5年後、同じ人たちに認知機能検査を受けてもらいました。その結果、若いときの体力測定で成績が良かった人ほど、25年後の認知機能検査の成績が良いことが明らかになりました。

 この結果を知って、もっと若い時に運動しておけばよかったと後悔している人もご安心ください。翌年、同じ研究チームは、健康な中年期の男女565人(平均45.5歳)について、同様の研究を行いました。その結果、中年期の人でも身体的な健康度を保っている人ほど、5年後の脳の劣化が少ないという結果が出たのです。脳の健康に取り組むのは何歳からでも遅くはないのです。

脳に運動は大事。でも運動中毒には要注意

 運動が脳によいという話を聞いて、すでに運動を始めている人は「やっぱりそうか」と、すぐに納得したかもしれません。体を動かして汗を流すと、モヤモヤして重かった脳がクリアに晴れて、気持ちも明るくなり、疲れがとれたような気分になるからです。激しい運動ほど、その感覚は強くなります。このおかげで「脳に良い」と信じて、仕事で疲れきったときに、激しく運動する習慣のある人もいるかもしれません。

 しかし、疲れたときに激しい運動を行うことは、脳のためにはおすすめできません。運動は脳を疲れさせます。手足を動かすのも、呼吸や心拍数や汗をこまめに調節するのもすべて脳の役割だからです。睡眠不足や仕事でくたくたになっているところに激しい運動を行うのは、脳を酷使し、ダメージを与えることでしかないからです。

 運動すると脳がすっきりするのは、脳内に「エンドルフィン」というホルモンが分泌されるからです。エンドルフィンが脳内に分泌されると、痛みや苦しさや恐怖の感覚が薄れ、幸福な気持ちになります。まるで麻薬を使ったような状態ですが、エンドルフィンは脳内麻薬と呼ばれることもあり、麻薬のモルヒネと同様の作用を示します。

 モルヒネは痛みや苦しみを感じにくくするだけで、体の疲労やケガを治してくれるわけではありません。それと同様に、エンドルフィンも脳の疲労を回復させるわけではありません。むしろ、疲労を感じにくくさせ、ますます無理をさせてしまうのです。

 これは、命の危険が迫った非常事態に、逃げて生き延びるための脳の知恵なのです。私たちの脳は、普段は、かなりの慎重派です。私たちに無理をさせないように見張り続け、無理だと判断したら「痛み」や「疲労」を感じさせる物質を放出し、それ以上の激しい行動を起こさせないように私たちを制御します。野生状態では、体の一部分が壊れてたり、エネルギー切れで動けなくなったりしたら一巻の終わりだからです。

 でも、命の危険が迫った時は例外です。捕食者に追われたときは、たとえ、無理をして体の一部が壊れてでも、走り続けなくては、すぐに死んでしまいます。痛みや疲労でうずくまっている場合ではないのです。脳は私たちが活動し続けられるように、麻薬物質を放出し、一時的に痛みや疲労を忘れさせるのです。

 でも、その非常事態を常に発動させていれば、体も脳もボロボロになってしまいます。このような脳の性質を知れば、疲れ切ったときに激しい運動をすることが、脳のためにはならないことが理解できると思います。原始時代のままの感覚でいる脳を賢く制御できるのは、脳の持ち主であるあなただけなのです。

 

『ブレインフィットネスバイブル』(幻冬舎)には、脳を鍛えるための方法のひとつとして「運動」が大きく取り上げられています。筋トレや有酸素運動などの運動がなぜ脳によいのかということや、どのくらいの運動強度で行えばいいか、また、認知症と運動の関係を示すエビデンスなども紹介されています。

 運動不足が健康に悪いと知りながらも重い腰を上げられなかった人も多いと思いますが、冴えた脳でい続けるための最初の一歩として、ブレインフィットネスを始めてみてはいかがでしょうか。

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