先日、下北沢のB&Bで行われた『この星の忘れられない本屋の話』(ポプラ社)の刊行記念トークイベントに出演しました。トークのなかで、「本屋に来た、ある本の著者が、棚に並べられていた自分の著作を、(目立つように)他の本の上に勝手に置いた」という本文中のエピソードが話題にのぼりましたが、これはTitleでも実際にあった話です。本屋の立場からすれば、気持ちはわからなくもないですが、本を売る仕事に介入されたという複雑な気持ちになります(なおこの本では、同じ出来事が著者側からの視点で書かれており、別な結論になっています。面白いのでご一読ください)。
もちろんそのようなことは滅多に起こるわけではなく、開店以来多くの本の著者が店を訪れましたが、印象深い記憶がいくつもありました。「本を書いたので、時間があれば読んでください」「わたしの本を〇〇で紹介していただき、ありがとうございました」ということは多いですし、本屋に行くこと自体が好きで、一度Titleに来てみたかったという人もいました。なかには「たまたま入ったけど、自分の本が置いていたので嬉しくなり、少し話をしてみたくなった」と打ち明けた人もいます。
本を書く人と実際に会ってお話しすることは、その人の本を売ることに対して、見えない力になっていると感じます。新しい本が出れば、それを紹介する文章にも力が入りますし、その人の佇まいや言葉などから、ふさわしい本の置き場所や紹介の仕方が何となく見えてきます。そしてその本を買ってくれる人がいれば、〈手渡した〉という実感が他の本よりも強く残るので、店とその著者との関係が更に深まっていくように感じられます。そうした関係の著者が多いほど、その店は見えない力に守られていくようで、強くなるでしょう。
また、店に来るのは生きている著者だけではありません。亡くなった著者のご遺族が、店に訪れることもありました。直接知っている訳ではなく、もう亡くなった人物のことを書くときは、どこか距離のある抽象的な文章にもなりがちですが、ご遺族との出会いは、その著者との見えない縁を結んでくれるようで、店を続けるうえでの励みとなります。一冊の本を紹介すること、手渡すことの重みを感じた瞬間でした。
今回のおすすめ本

『はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす』(武蔵野市立吉祥寺美術館)
吉祥寺の人気者だった、「ゾウのはな子」。この不思議な本は、はな子永眠ののち、市民から提供された「はな子と一緒に撮影した写真」と、「撮影日当日の飼育日誌」が、時系列で構成されている。ページに直接貼られた写真をめくると、また別の写真が出現し、イメージの反復や裏切りが楽しめる、アートを感じさせる一冊でもある。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2026年1月10日(土)~ 2026年2月2日(月) Title2階ギャラリー
本屋Titleは、2026年1月10日に10周年を迎えました。同日より2階のギャラリーでは、それを記念した展示「本のある風景」を開催。店にゆかりのある十名の作家に「本のある風景」という言葉から連想する作品を描いていただきました。それぞれの個性が表れた作品は販売も行います。本のある空間で、様々に描かれた〈本〉をご堪能ください。
【『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』が発売中です】
本屋Titleは2026年1月10日で10周年を迎えました。この度10年の記録をまとめたアニバーサリーブック『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』が発売になりました。
各年ごとのエッセイに、展示やイベント、店で起こった出来事を詳細にまとめた年表、10年分の「毎日のほん」から1000冊を収録した保存版。
Titleゆかりの方々による寄稿や作品、店主夫妻へのインタビューも。Titleのみでの販売となります。ぜひこの機会に店までお越しください。
■書誌情報
『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』
Title=編 / 発行・発売 株式会社タイトル企画
256頁 /A5変形判ソフトカバー/ 2026年1月10日発売 / 800部限定 1,980円(税込)
◯【寄稿】
店は残っていた 辻山良雄
webちくま「本は本屋にある リレーエッセイ」(2025年6月6日更新)
◯【お知らせ】NEW!!
養生としての〈わたし〉語り|〈わたし〉になるための読書(8)
「MySCUE(マイスキュー)」 辻山良雄
今回は、話すこと、そしてそれを通じて自分自身を考えさせられる3冊の本を紹介します。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

本屋Title10周年記念展「本のある風景」











