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アルテイシアの熟女入門

2018.04.01 公開 ツイート

元サイレントブスのJJは「ブスと野獣」
「眠れる森のブス」に出演したい アルテイシア

「女は若い方が美しい」というのは、錯覚じゃないか。
特に「女子高生は人生で一番美しい時」というのは、完全に男の妄想だろう。JJ(熟女)たちは「JK時代が人生で一番ブスだった」と振り返る。

私もJK時代に比べると、42歳の現在の方がマシだ。当時は今より10キロ以上太っていて、顔も体もパンパンだった。おまけに麗子像なみに多毛&剛毛で、ドラゴンボールのヤジロベーに似ていた。
太っていると、体が重い。「年をとると体が重くなる」と言うが、私は今の方が身軽だ。ドラゴンボールのZ戦士が重い衣を脱ぎ捨ててビューンと飛ぶのがよくわかる。

私のように肥満じゃなくても「JK時代、数えたら顔にニキビが百個あった」「陰毛と区別がつかないほどのクセ毛だった」「脇毛はメッチャ生えるのに眉毛はなかった」と証言するJJは多い。

大人になればメイク・エステ・縮毛矯正等でカバーできるが、10代の頃はそんな金も技術もなかった。元の素材がよければ塩だけでもイケるが、素材がイマイチだと調理法が決め手になる。ゆえに女たちは一流シェフのように調理の腕を磨くのだ。

そもそも、元の素材がいい人間などごく一部。広瀬すずや橋本環奈は何万人に1人の逸材だからスターになれるのであり、私が広瀬すずや橋本環奈になるには8回ぐらい転生しないと無理だろう。私が若い時に戻ってもヤジロベーになるだけなので、絶対にタイムスリップとかしたくない。

宮沢りえを見ると月日の流れを感じる」はJJあるあるだ。我々の青春時代のスターは宮沢りえで、先日、森田剛との結婚のニュースを聞いて「ぶっとびー!」と叫んだ。
44歳の宮沢りえももちろん美しいが、ぶっとびー時代はえげつないほどの美少女だった。

かつて美少女だったJJはどうしても「老けたな」という印象になる。彼女らは大抵スリムで目がパッチリして彫りが深いので、しわもできやすい。が、それはそれで侘び寂びのある美で尊いし「だが、それがいい!」と私は思う。
一方、元が難アリだったJJは、同窓会で会うと「キレイになったね!!」と驚かれる。そして繰り返すが、ほとんどのJKは難アリなのだ。

連載中のTOFUFUの担当女子(二つ名はアサシン)も「私も女子校の同窓会に行くと、ほとんどの子が今の方がキレイです」と同意する。

かくいう本人も現在は長身のモデル体型だが、高校時代は今より15キロ太っていたらしい。巨漢の我々で極悪同盟(ダンプ&ブル)みたいなJKユニットを組みたかった。芸名はフォークリフト&油圧ショベルでどうだろう。

油圧ショベル担当のアサシン嬢は「高校時代は一時間目に早弁して、休み時間に食堂に走って唐揚げを買って食ってました。その後、昼休みに裏門から脱走してコンビニで唐揚げを買って食ってました」とのことで、唐揚げに対する熱意がすごい。

「それでも足りなくて、学校の畑から茄子を収穫して、理科室のアルコールランプで焼いて食ってました。あと裏山でノビルを摘んで食ってました」
まるで横井庄一さんのようなJKだ。この喩え、JJならわかってくれるだろう。

私も当時は異常な食欲で、一日五食に加えてミルキーを一袋一気食いとかしていた。それでも歯のかぶせがとれなかったので、歯と歯茎は丈夫だった。

それだけ食ってりゃ太って当然だが、べつにデブでも困らなかった
通学途中に男子集団から「見ろよ、あのデブ」と言われて傷ついたりしたが、女子校の中だと差別がなかったので、のびのびと過ごせた。文化祭ではデブ番付上位の同級生と、若貴兄弟のコスプレをして楽しんだ。

アサシン嬢も「私も女子校だからデブでも困らなかったし、自分の容姿に頓着してなかったです。共学の大学に進んで、男性からのジャッジを受けて『あれ?もしかして私デブでブス?』と気づきました」と語る。

女子校もいろいろだが、私の母校の生徒たちには「容姿で差別するとか、そんな低レベルなことやめようぜ」という共通認識があったと思う。まあJKはみんな多かれ少なかれブスなので、ブスの仲間意識もあったのかもしれない。

いずれにせよ、ブスでも日常生活に支障はなかった。自前のミートテック着用なので、めったに風邪をひかないなどのメリットもあった。

それが共学の大学に進むと、あからさまなブス差別を受けた。全員ではないが、一部の男子から容姿で値踏みされて「ブスがでしゃばるな」「ブスは引っこんでろ」「ブスだから笑いをとれ」「ブスらしく自虐しろ」と圧力をかけられた。
美人の同級生と比べて「おまえとあの子は同じ女だけど種類が違う」と直接言われたこともある。

それに対して、当時の私はサイレントブスだった。不当な扱いを受けても「ブスだからしかたない」と黙っていたし、「ブスの自分には価値がない」とまんまと自信を奪われていた。四半世紀前の話だが、いまだに思い出すと悔しい。

四十路の私なら「てめえらに価値を決められてたまるかコノヤロー!!」とアウトレイジするし、そいつらをフォークリフトで吊り上げて、油圧ショベルで掘った穴に埋めて、「ヒャッハー!!」と怒りのブスロードを爆走したい、バキュームカーで。

大学生の私は自分に自信をつけたくて、ダイエットやメイクやおしゃれに励んだ。その結果、ブス差別を受けることは減って、生きやすくなった。だからといって「ブスは努力しよう」なんて言う気はさらさらない。

そんなのはイジメられてる子に「イジメられないよう努力しろ」と言うようなもので、どう考えてもイジメる側が悪い。変わるべきは差別する側、差別を黙認・助長する社会だ。

女がルッキズム批判をすると「女だってイケメンが好きだろ!」とクソリプが飛んでくるが、私は昔からガルマよりもドズル派だった。という個人的な好みは置いといて、べつに美人を好きなことを批判しているわけじゃなく、ブスいじめやブスいじりをやめろと言っているのだ。
性別関係なく、容姿を理由に不当に扱われないのが、みんなが生きやすい社会だろう。

21世紀は多様性を認めようという時代だ。欧米のファッションブランドでは、さまざまな人種・体型・年齢・セクシャリティのモデルを起用している。グッチのコレクションにジオン軍の制服っぽいスーツが登場していたが、ドズル顔のモデルにランウェイを歩いてほしかった。
ディズニーにも映画「ブスと野獣」「眠れる森のブス」を作ってほしいし、なんなら自分が出演したい。野獣役でもオッケーだ。

ブスが石の裏に隠れている時代は終わったのだ。お笑い番組のブスいじりも古すぎて笑えないし、いい加減アップデートしてほしい。

過去の遺物のような価値観はまだ残っていて、たとえば世間は「ブスが美人を妬む」という構図を好む。だがブスの敵は美人じゃなく、ブスを差別する人間だ。

女を容姿でジャッジする人々は「ブスのくせに生意気だ」と抜かした口で「美人だからって調子に乗るな」とほざき、「あいつは美人だから仕事をもらえた」と女の実力を認めない。すなわち、美人にとっても敵なのだ。
ここはブスと美人でタッグを組み、糞尿を集めて出陣するしかないだろう、バキュームカーで。

私は30歳で物書きになったが、デビュー当時はほとんど顔出ししてないのに、ネットで「どうせブスなんだろ」「ブスのくせに恋愛コラムなんか書きやがって」とディスられた。
しかし現在は、容姿について言及されなくなった。女の容姿をディスる人々は「アラフォーのババアとかどうでもいい」と興味がないのだ。
そういう面でも、JJになると楽になる。若い女子はやたら注目されて大変だが、いずれ解放される日が来るので、負けないでほしい。

世間は「ババアが若い女を妬む」という構図も好むが、これも男の妄想だろう。少なくとも、私の周りにそんなJJはいない。みんな「若い女子を見てると昔の自分を思い出して、守ってあげたいし、応援したくなる」と口をそろえる。

アサシン嬢も「『ババアの妬み乙www』みたいなクソリプをよく見るけど、そういう『年をとるのは怖いこと』という呪いから守ってあげたいです。実際は年をとるほど楽になるし、女性は『若く見られたい』とは思っても『若くなりたい』とは思ってないですよね」と話す。

そう、女は若くなりたいわけじゃない。酒の席でオッサンに説教されたり、キャバ嬢的なサービスを求められるのは真っ平だ。男目線で「年をとると男に相手されなくなるから、若い女を妬む」と妄想するのだろうが、「男の相手なんかしたくない」がJJたちの本音だ。

オッサン芸人が「いつまで男にモテたいねん」と美魔女をディスっていたが、彼は美STを読んだことがないのだろう。美STとLEONでは、ベクトルが違う。LEONは「いかに女にモテるか」がテーマの高齢者版ホットドッグプレスだが、美STにモテの二文字はない。

美魔女が追及するのはモテじゃなく、あくまで自分の満足感。「見た目が美しい方が自分に自信を持てて、自分が快適に生きられる」という、自分目線を貫いている。そんな彼女らに男目線を押しつけたら「てめえがモテたいからって女もそうだと思うなよ!」とボツリヌス菌を注射されても文句は言えない。

美魔女はしわを目立たなくするために、ボトックス注射でボツリヌス菌を注入する。「目的のために体内に毒を入れる」など殺し屋の発想だし、ナメたことを抜かしたら一撃で始末されて、死体も残らないだろう。そういう意味では、むしろ美魔女の方がレオンっぽい。

最近のLEONでは、モテるテクニックとして「チーフがパンティ」を紹介していた。ポケットチーフの代わりに、女性用の下着を挿すモデルの写真を掲載して「セクシーなおふざけはサラッとやるのがモテる親父の作法」と解説していたが、それはちょいワルじゃなく下着泥棒だろう。ネットでも「ドン引き」「普通にキモい」と酷評されていた。

LEONのWEBサイトを覗くと「老眼鏡でモテる3つのテクニック」が載っていた。
「老化現象すら逆手にとって、モテへと昇華させるのもオトナの手練手管」だそうで「薄暗いレストラン。出されたメニューの文字も小さい。そんなとき、胸ポケットからおもむろに取り出すだけでも絵になる」「女性の胸を打つこと間違いありません」とあったが、「間違いだぞ♡」とメガネを尻で粉々に叩き割りたい。

舘ひろしのハズキルーペのCMも「実の娘?それとも若い愛人?」と妄想させるのが狙いなのだろうが、まあ普通にキモい。高齢男性が夢を見るのは自由だが、老害認定されないよう気をつけよう。
そもそも「若い女を好きな男」を好きな女はいない、若い女もいずれ年をとるからだ。

そして年をとると、言いたいことを何でも言える逆ポイズン状態になる。もし過去にタイムスリップしたら、サイレントブスだった自分に「だから大丈夫、安心して年をとれよ」と教えてあげたい。

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アルテイシアの熟女入門

大人気コラムニスト・アルテイシアがジェンダー、政治、毒親、日々のモヤモヤ…などをぶっちゃけトーク!笑って学べて元気になれる連載です。

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アルテイシア

神戸生まれ。ジェンダー、フェミニズム、恋愛、家族問題などについて執筆、講演や授業も多数行う。2005年『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。
著書に『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』他多数。

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