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さりげなく思いやりが伝わる大和言葉

2016.10.07 更新 ツイート

場を和ませる大和言葉 上野誠

大和言葉には、「せつない」「よろしく」「さすが」といった、現代の会話でもよく使われる言葉から、「にぎにぎしく」「ややもすれば」「ことほどさように」など、耳なじみのない言葉もあります。親しみのある言葉も、そうでない言葉も、その語源や用法を知り、正しく使うことができれば、発言に重みが出てきます。

 美しく繊細な大和言葉を学ぶことができると好評の『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』から、一部を抜粋してご紹介いたします。第2回のテーマは「場をなごませるひと言を使いこなす」です。

* * *

  上を下への

  つい三十分前に、本社の社長がこの支店に寄るという電話が入った。慌てたのは言うまでもない。支店内は上を下への大騒ぎとなった。

  

 上のものが下になるのですから、ひどい混乱ぶりです。偉い人が突然やって来ると、下役の者は慌てますね。何もしなくてもよいと言われても、そういうわけにはゆきません。

  さて、年末の大掃除は、忙しい時期にいろいろな物を動かして掃除をします。これを、上を下への大掃除といってよいのでしょうか。――ここは微妙です。大掃除は物を動かして掃除をしますが、元に戻すことを前提としているのですから、そうはいいません。

  ただし、突然偉い人が来るので掃除をしなくてはならない、急な引っ越しであたふたと大掃除をしているというのなら、上を下への大掃除ということもあるかもしれません。

  ときたま、下位の者の力が、上位の力を上回る下剋上のことを、上を下への大騒ぎと言う人を見かけますが、それは明らかに誤りと言わねばなりません。言葉というものには歴史性がありますから、急に変わることはないのです。

 

* * *

 

  手締め

  本日は皆様方のおかげをもちまして、無事に総会も滞りなく相すみ、懇親会もおひらきが近づいております。ここで手締めを会長様より、お願い申し上げたく、存じます。

  

「手締め」とは、手を打ってものごとを祝うことです。宴の始まりや、宴の終わりになってけじめをつけるためにも、手締めは行います。手締めには、関東風、関西風、一本締めなど、さまざまなやり方があります。しかし、手を打って全員で心を一つにするということには違いはありません。

  では、「手打ち」と同じかというと、それは違います。「手打ちをする」は、それまでもめごとがあったけれども水に流して、これから仲よくするために手締めをすることをいいます。二つのグループが争っていたが、もうこれで争いはなくしましょうと言って、宴会をして、その場で一本締めなどをすると、「手打ち」になります。

  したがって「宴たけなわではございますが、手打ちをしましょう」は、間違いということになってしまいます。

 

 * * *

  

 末広がり

  今年に入って、支店が三つも開店したという。あの店はまさに今発展しているよね。本店から末広がりに、支店が広がっている。

  

 扇には元と末があります。軸となっているところが元で、広がるところが末です。扇が広がるように、末が広がるのが「末広がり」です。ですから、扇のことを「末広がり」ともいいます。

  扇が広がるわけですから、この形はものが大きくなり、発展していくことを表します。ですから、おめでたいことになるわけです。ここから屋号や演目に好んで、末広とか、末広がりの名が用いられるようになりました。

  例文は支店が広がっていくことを、「末広がり」といっています。商売繁盛を願って、商家は末広がりの形や末広がりという言葉を好みます。
 

 







 次回は、「心の機微を伝える言葉」、更新は11日(火)です。お楽しみに。 

関連書籍

上野誠『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉 常識として知っておきたい美しい日本語』

言葉は、それを使ってきた人の歴史を背負っています。 しかし日々言葉遣いが変化する現代において、もともとの日本の言葉=大和言葉のセンスを磨くことは簡単ではありません。 それぞれの状況にあった言葉を選んで、使いこなせるように常々心がけておくことを目指しましょう。 「常に新しい言葉を学ぼうとする人は、積極的な人生を歩むことができる!」 という万葉学者・上野誠による、大和言葉のセンスを磨くための、大人の学び直しの一冊です。

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さりげなく思いやりが伝わる大和言葉

大和言葉には、「せつない」「よろしく」「さすが」といった、現代の会話でもよく使われる言葉から、「にぎにぎしく」「ややもすれば」「ことほどさように」など、耳なじみのない言葉もあります。親しみのある言葉も、そうでない言葉も、その語源や用法を知り、正しく使うことができれば、発言に重みが出てきます。

美しく繊細な大和言葉を学ぶことができると好評の『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』から、一部を抜粋してご紹介いたします。

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上野誠

 1960年、福岡県生まれ。國學院大學大学院文学研究科博士課程後期単位取得満期退学。博士(文学)。現在、奈良大学文学部教授(国文学科)。国際日本文化研究センター研究部客員教授。万葉文化論を専攻。第12回日本民俗学会研究奨励賞、第15回上代文学会賞、第7回角川財団文学賞受賞。『万葉びとの宴』(講談社)、『日本人にとって聖なるものとは何か』(中央公論新社)など、著書多数。近年執筆したオペラや小説も好評を博している。

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