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さりげなく思いやりが伝わる大和言葉

2016.10.04 更新 ツイート

感謝の気持ちをさりげなく伝える大和言葉 上野誠

  大和言葉には、「せつない」「よろしく」「さすが」といった、現代の会話でもよく使われる言葉から、「にぎにぎしく」「ややもすれば」「ことほどさように」など、耳なじみのない言葉もあります。親しみのある言葉も、そうでない言葉も、その語源や用法を知り、正しく使うことができれば、発言に重みが出てきます。

 美しく繊細な大和言葉を学ぶことができると好評の『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』から、一部を抜粋してご紹介いたします。第1回のテーマは「感謝の気持ちをさりげなく伝える」です。

 

* * *

 

    もったいない

  あんなに安い傘を返しに来られるなんて驚きました。それも昨日の今日に。降り続く雨の中、わざわざお越しいただき、もったいないことです。

 

「もったいない」は形容詞で、現在ではまだまだ使える物が捨てられてしまう時に、惜しい気持ちを表す言葉として使われています。 

 本来は、あるべき形から大きく外れて不都合なことを表す言葉でした。「もってのほか」と同じだったのです。そこから、あるべき程度を過ぎてかたじけないという使い方も生まれました。例文のように、相手がした行動があまりにも恐れ多いという時にも使います。 

 ただ、例文のような使い方をする人は減ってきているようで、こんな言い方をすると、幾分大仰(おおぎょう)にも感じられます。けれども、感謝の気持ちを相手に表すためには、むしろ大仰、大げさに言うほうがよいのです。 

 私なんかのために、わざわざ指定席、それも特等席のチケットを取ってくれたのですか。もったいないですよ。ありがとうございます。

 

* * *

 

  いたみいる

  あんなに安い傘を返しに来られるなんて驚きました。それも昨日の今日なのに。降り続く雨の中、わざわざ来ていただき、いたみいります

  

「いたみいる」は歴史上、さまざまな使い方がありましたが、今日では例文のような使い方が一般的です。相手の行いに対して、自分は心の痛みを感じてしまうほどに恐縮するとか、恐れ入るということです。

  では、どんな場合に日本人はいたみいるのでしょうか。相手の親切が心にしみる時、相手の行為が心にしみる時、驚くほどのよい待遇を受けた時などでしょう。

  例文は安いビニール傘を貸した日の翌日に返却に来た時の対応です。しかも翌日も雨は降り続いているにもかかわらず、です。こういった場合、「いたみいる」が合っています。

  一方、相手の言動があまりにもすばらしかったり、反対に厚かましくてやられたという感情を表す時にも使います。茶化した言い方ですが、マイナス評価になります。

  傘を貸してもお礼の言葉の一つもない、これにはいたみいったよ。やつの根性にはね。

 

 * * *

 

  かねがね

  かねがね、君に会ってお礼も言わなくてはならないし、結果も報告しなくてはならないと思っていたんだよ。今日はこんなところで立ち話もなんだから、後日また改めてね……。

  

「かねがね」とは、「前々から」「以前から」「あらかじめ」という意味をもちますが、それらの言葉とは、微妙に異なるところもあります。

  というのは、「かねがね」は、その件については前々から気にかけてはいたのだが、今になってしまって申し訳ないという気持ちを表すからです。

  例文は、「もっと早くにお礼を言わなくてはならないのに、今になってしまった。申し訳ない。会ってしまったので簡単にお話ししたが、それではよくないから出直すよ」と言っているのです。

  だから、例えば「かねがねあなた様のお噂は、たくさんの人から聞いておりました」と言えば、会ってみたいと思っておりました、という気持ちが伝わります。
 


次回は、「場をなごませるひと言」、更新は7日(金)です。お楽しみに。 

 

関連書籍

上野誠『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉 常識として知っておきたい美しい日本語』

言葉は、それを使ってきた人の歴史を背負っています。 しかし日々言葉遣いが変化する現代において、もともとの日本の言葉=大和言葉のセンスを磨くことは簡単ではありません。 それぞれの状況にあった言葉を選んで、使いこなせるように常々心がけておくことを目指しましょう。 「常に新しい言葉を学ぼうとする人は、積極的な人生を歩むことができる!」 という万葉学者・上野誠による、大和言葉のセンスを磨くための、大人の学び直しの一冊です。

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さりげなく思いやりが伝わる大和言葉

大和言葉には、「せつない」「よろしく」「さすが」といった、現代の会話でもよく使われる言葉から、「にぎにぎしく」「ややもすれば」「ことほどさように」など、耳なじみのない言葉もあります。親しみのある言葉も、そうでない言葉も、その語源や用法を知り、正しく使うことができれば、発言に重みが出てきます。

美しく繊細な大和言葉を学ぶことができると好評の『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』から、一部を抜粋してご紹介いたします。

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上野誠

 1960年、福岡県生まれ。國學院大學大学院文学研究科博士課程後期単位取得満期退学。博士(文学)。現在、奈良大学文学部教授(国文学科)。国際日本文化研究センター研究部客員教授。万葉文化論を専攻。第12回日本民俗学会研究奨励賞、第15回上代文学会賞、第7回角川財団文学賞受賞。『万葉びとの宴』(講談社)、『日本人にとって聖なるものとは何か』(中央公論新社)など、著書多数。近年執筆したオペラや小説も好評を博している。

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