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さりげなく思いやりが伝わる大和言葉

2016.10.18 更新 ツイート

少し意識するだけで品性が保たれる大和言葉上野誠

  大和言葉には、「せつない」「よろしく」「さすが」といった、現代の会話でもよく使われる言葉から、「にぎにぎしく」「ややもすれば」「ことほどさように」など、耳なじみのない言葉もあります。親しみのある言葉も、そうでない言葉も、その語源や用法を知り、正しく使うことができれば、発言に重みが出てきます。

 美しく繊細な大和言葉を学ぶことができると好評の『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』から、一部を抜粋してご紹介いたします。第5回のテーマは「少し意識するだけで品性が保たれる」です。

 

 * * *

   

 妙(たえ)なる

  今日は雅楽公演に行ったのだが、ひちりきの妙なる響きを聴いていると、ふと古代がよみがえるようだった。

  

 現在、「妙なる」には二つの意味があります。

  一つは、人知を超えた霊妙(れいみょう)さがあるという意味です。例文はこの意味で使っています。美しさの中に見つけた聖なるものへのあこがれのようなものが「妙なる」です。どこか、厳(おごそ)かな美しさを感じさせます。

  もう一つは、極めて巧みなものをほめる時に使います。「華道だけでなく、茶道のほうも、それはもう妙なるお手前で、非の打ちどころがなかった」というのは、その道に通じていて優れていることを、たたえる言い方です。

  もちろん冒頭の雅楽の例文も、茶道の例文も、その音色や技術が優美であることを「妙なる」と言っているのは同じです。

 

 * * *

 

 さもしい

  政策も信念もなく、とにかくうまくやっていこうとするところが私は嫌いだ。そういうさもしい根性では人気も出るまいに。

 

 「さもしい」は、品性が下劣であること、心が卑しいことをいいます。もともとの意味は、衣服などが見苦しいことでしたが、今日では外見については、あまり使われなくなりました。また、身分が低いこともかつてはいいましたが、この使い方もなくなりました。現在では、もっぱら心のみすぼらしさについて言及する時に使います。

  例文の「さもしい」人は、どんな人でしょうか。一つは地位や名誉、お金を得ることだけを目指している人でしょう。目的のために手段を選ばない、信義がない人です。

  では、その反対の人はどんな人でしょうか。志ある人、信念を曲げない人ということになりましょうか。このような生き方は、ときとして、不器用な生き方かもしれません。すると、信義のない「さもしい」人は、世渡りのうまい人ともいえます。こういう人が長期的に成功するかどうかは別の話ですが。

 

 * * *

 

 奥ゆかしい

  同じお茶のお手前にしても、彼女の立ち居ふるまいは、奥ゆかしい。彼女は単に型を守るだけではなく、型の奥にある心を大切にしているのだろう。

 

 例文の「お茶」とは茶道のことです。その立ち居ふるまいが奥ゆかしいというからには、彼女の動作には、深い思いやりの心遣いが見えたのでしょう。普通にお茶を出すのにも、相手に心遣いをしているかどうか、それは動作に表れます。

 「奥ゆかしい」という言葉はもともと、「奥」が「ゆかし」でした。「ゆかし」は見たい、聞きたい、知りたいという時に使われる言葉なので、「奥がゆかし」は、もっと奥が知りたい、もっと聞きたい、もっと見たいという意味になります。つまり、奥を知りたいと思わせる魅力についていう言葉だったのです。

  そこから、「心遣いが奥にある」というほめ言葉となりました。奥ゆかしい人とは、自分の気遣いや、能力を見せびらかすような人ではありません。あくまでも内面に魅力のある人のことをいいます。

 

 

 

 

   

 次回は、「食にまつわる大和言葉」、更新は21日(金)です。お楽しみに。

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さりげなく思いやりが伝わる大和言葉

 大和言葉には、「せつない」「よろしく」「さすが」といった、現代の会話でもよく使われる言葉から、「にぎにぎしく」「ややもすれば」「ことほどさように」など、耳なじみのない言葉もあります。親しみのある言葉も、そうでない言葉も、その語源や用法を知り、正しく使うことができれば、発言に重みが出てきます。

 美しく繊細な大和言葉を学ぶことができると好評の『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』から、一部を抜粋してご紹介いたします。

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上野誠

 1960年、福岡県生まれ。國學院大學大学院文学研究科博士課程後期単位取得満期退学。博士(文学)。現在、奈良大学文学部教授(国文学科)。国際日本文化研究センター研究部客員教授。万葉文化論を専攻。第12回日本民俗学会研究奨励賞、第15回上代文学会賞、第7回角川財団文学賞受賞。『万葉びとの宴』(講談社)、『日本人にとって聖なるものとは何か』(中央公論新社)など、著書多数。近年執筆したオペラや小説も好評を博している。

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