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男だけど、カワイイものが大好きだ。

2015.11.06 公開 ツイート

第5回

〈京都〉カワイイの宝石箱やで……(前) ワクサカソウヘイ

現在、コラムニストとしてだけではなく、コント作家、脚本家、舞台のプロデューサーなど、多方面で活躍中のワクサカソウヘイさん。

そのワクサカさんの新刊『男だけど、』が、とにかく笑える、共感できると好評発売中です。刊行を記念して、本の読みどころを一部ご紹介します。

第5回は、カワイイ雑貨や喫茶店が大好きの人にとって楽園のような場所、京都・前編。自分の中の“女の子ちゃん”をくすぐる京都の魔法と、なぜか滋賀県を比較しながら、「京都」のブランド力について考えます。

 

*  *  *

さあそろそろ旅に出ようとなった際、この「カワイイ・センサー」に旅行先の決定をゆだねることが多い。

男のひとり旅。下北半島までしょっつる鍋を食べに行こうか、とか、やっぱり東尋坊に断崖絶壁でも観に行くか、とか、山口県の鍾乳洞探索なんて手もあるぞ、などと男心を騒がせながら旅行先の算段を組んでいると決まって“女の子ちゃん”が登場、(ダメ! しょっつる鍋なんて塩辛いだけ! 東尋坊は自殺の名所! 鍾乳洞はただのでかい穴でしかない!)と候補地を次々と偏見で総括、すぐさま「カワイイ・センサー」の作動スイッチを押し、(それよりもカワイイものを巡る旅をしようよ~)などと囁いてくる。

で、気がついたら、京都一泊二日の小旅行に向かっている自分がいたりする。

 

カワイイ食べ物好き、カワイイ雑貨好きの者にとって、京都は楽園のようなところである。

老舗の名店から、ニューカマーの話題の店まで、京都には“女の子ちゃん”をくすぐる数々の喫茶店・カフェが入り乱れている。多くの店に「カワイイ名物」があり、それはカキ氷だったり抹茶大福だったりする。京町家づくり調の小さな喫茶店内でそれらを口にする瞬間、それは“女の子ちゃん”にとって至福の瞬間でもある。

同じカキ氷をたとえば京都のお隣である滋賀県で食べた場合、それほど「カワイイ!」とはならないかもしれない。しかし、京都でそれを食べると「カワイイ」指数は何倍にも膨れ上がる。あえて叫び声で表現するなら、「ギィィィィッ! カワイイィィィ! ギリギリギリィッ(歯ぎしり)」といった感じである。悶絶だ。

また、京都には「カワイイ・センサー」をぐいぐいと刺激してくる雑貨ショップが散在している。こちらも、同じ取り揃えのものを滋賀県で買ったとしても、きっと「カワイイ!」の興奮値は低いであろう。だが京都でそれを眺めていると、それだけで「ヒィィィィッ! アレも、コレも、カワイイィィィ! アバババババ……(口から泡を吹いている)」となるのである。

なぜ京都ではこのような魔法がかかるのか。思うに、京都とは街自体が大きなブランドなのである。「京都」という一大ブランドの庇護の下で、ありとあらゆるものが「カワイイ」の付加価値を与えられているのである。

「京都」というフィルターを通せば、森羅万象、どんなものでも良質なものへと変化する。

たとえば「滋賀造形芸術大学」と聞いても、なんか粘土を四六時中べちょべちょこねているイメージしか湧かないが、「京都造形芸術大学」と聞くとそれだけでハイセンスな学生たちが集まってスタバのタンブラーを片手に彫刻デッサンに取り組む姿がイメージとして湧いてくる。

さらに、たとえば「滋賀FM」と聞いても、なんか「オードリ屁ップバーン」とか「お~いクソお茶」などといったしょうもないラジオネームのリスナーから寄せられた「地域のちょっとしたお役立ち情報」が流れてくるイメージしか湧かないが、「京都FM」ともなると小粋なジャズが外国人DJの軽快なお喋りの合間に流れてくるイメージが容易に湧いてくる。

さらにさらに、たとえば「滋賀洗濯機」と聞くと、すすぎも十分でなく何を洗っても生乾きの臭いがする……といったイメージしか湧かないが、「京都洗濯機」は清流のようなすすぎのパワーでそのうえどの衣類もお香を焚き染めたような匂いが……というイメージがすぐに湧いてくる。

そろそろ滋賀県の人に怒られそうなのでここらで比較は止めておくが、「京都」とはそれほどまでに他所にはない強いブランド力を有しているのである。

もっと突き詰めて言うと、自分自身もがその「京都」という大きなブランドの中に取り込まれている、という状況に人は特殊な恍惚感を見るのである。食べ物や雑貨、それをいま自分はあの「京都」で眺めているのだなあ……という、この強力なシチュエーションが人に恍惚感を与え、京都にあるものをなんでもかんでも「素敵なもの」「情緒のあるもの」「カワイイもの」に見せてしまうのである。普段は食べもしないポップコーンが、ディズニーランドに行くと急に食べたくなる。それと同じことが京都全体で起きているわけだ。

おそるべし、「京都」のブランド力。

 

さて、ここで話は唐突に変わるが、僕は男である。

いくら“女の子ちゃん”を宿している身であったとしても、基本は、男である。

なので、「カワイイ・センサー」は一般の女子に比べて、どうしても精度が劣る。

「今回の旅行先では、カワイイものに魂を売るぞ!」と意気込んでも、男としてのカワイイものに対する鼻の効かなさが災いし、オシャレなカフェかと思って入ったらなんか店の一番目立つところに大きなスズメバチの巣が展示してある老夫婦経営の店だったり、センスの良い小物が充実している雑貨屋かと思いきや木彫りの河童や石に変な模様を描いたものを売っている民芸品店だったりする。

“女の子ちゃん”男子にとって、カワイイを巡る旅というのは、一筋縄ではいかないのである。

いかにして、男としての感覚の鈍さに足を引っ張られることなく、カワイイものを見つけられるか。

旅の中で、たくさんの「カワイイ!」に出会えれば勝ちで、それを上回る「カワイクナイ!」に出会ってしまったら、負け。これは、真剣勝負なのである。

ではどのような真剣勝負を内面で行っているのか、ある日の京都旅行を例に説明してみる。たとえ、あらゆるものが「カワイイ!」に見える京都だからと言って、気は抜けない。

*  *  *

次回は11月8日(日)更新予定です。

 

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男だけど、カワイイものが大好きだ。

「カワイイ」は、女子だけのものじゃない! 新進気鋭のコラムニスト・ワクサカソウヘイによる、カワイイを巡る紀行。

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ワクサカソウヘイ 文筆家

1983年生まれ。小説からコラム、脚本までその執筆活動は多岐にわたる。またコント作家・芸人として、コントカンパニー「ミラクルパッションズ」にも参加。主な著書に、『今日もひとり、ディズニーランドで』(イースト・プレス)などがある。

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