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男尊女卑という病

2015.10.22 公開 ポスト

『男尊女卑という病』試し読み

単身赴任の夫が帰ってくるたびに
動悸や不安に襲われる妻の話〈第5回〉片田珠美(精神科医)

 男性が女性を軽んじてしまう様々なケースの分析から、男女が歩み寄る糸口を探る『男尊女卑という病』。静かに熱く注目される本書から、その一部を抜粋してお届けします。
 最終回は、夫が単身赴任から帰ってくるたびに動悸や不安に襲われてしまうという妻のケースです。なぜそうなるのか、奥さんもわかってなかったのですが、そこには意外な心理が潜んでいました。

 

 

 週末になると動悸や不安がとまらなくなる60代女性の例から
 たとえば、週末が近づくと不安になって仕方がない、夜も眠れないと訴えて受診した60代の専業主婦の次のようなケースである。

 子供はみな独立し、彼女は10歳年上の夫と2人で暮らしている。ただし、夫は数年前から仕事の都合で地方へ単身赴任をしていて、週末になると帰ってくる。そして週明けにまた赴任先へ戻るという生活である。

 日頃は離れて女1人で暮らしているので、夫が帰ってきて安心するのかと思いきや、そうではない。彼女は金曜日の夜が近づくと動悸(どうき)が激しくなり、睡眠薬を飲まないと眠れなくなるという。「主人が帰ってくると想像するだけで、不安で不安でたまらなくなるんです」と彼女は嘆いていた。

 というのも、その夫は潔癖症で、家に帰ってくるなり、「靴の並べ方が違う」などと怒り出し、靴箱の靴を全部取り出して並べ替えるのだという。さらに、彼女が毎日掃除しているにもかかわらず、夫は掃除機をかけなおし、物の置き方を納得のいくように変えてしまう。このような夫の行動は、妻の掃除や整理の仕方が悪いと暗にほのめかしているようなものである。

 子育てに夢中になっていた頃は見えないことも多く、経済力もないので、何かあっても感情を押し殺して耐えてきた。しかし2人暮らしになり、週末、夫が帰ってくるたびにこれまで以上の細かいダメ出しがあるので、彼女は気が休まる暇がない。夫はもともと真面目でおとなしい性格で、給料もきちんと持って帰ってくるタイプだ。浮気をするわけでもなく、とりたてて悪いところはない。しかし、強迫的とも言えるほど細部にこだわるアラ探しに、彼女はすっかり参っていた。

 この夫の行動が、単身赴任になって目立つようになったことから考えると、夫は自分より立場の弱い妻に「置き換え」をしている可能性がある。たとえば単身赴任先で不本意な仕事を任され、上司に嫌みを言われ、仕事ができない烙印(らくいん)を押されているのかもしれない。それで家に帰ってくるたびに、妻を攻撃してうっぷんを晴らしているとも考えられる。

 普段、おとなしく従順で抑圧されやすいタイプほど、「置き換え」のメカニズムは起こりやすい。

 この夫はまだ現役だが、定年になって家にずっといるようになった男性の心理は、さらに複雑だ。これまでは部下もいてそれなりの地位にあった人が、ある年齢を境に「あなたはもう会社に必要ありません」と宣告されるつらさ。頭では理解していても、感情がついてこない。人の上に立ちたいとか、支配したいという欲求も残っている。しかし言うことを聞かせられる相手は妻しかいない。

 そのため、仕事を奪われたことによる悔しさや怒りを「置き換え」によって妻に向けるしかなく、家事のアラを探し、遊びに行く妻を「いつ帰るんだ」と非難めいた口調で責めるようになるのである。

 こんな定年夫を抱えた妻たちが、体調を崩すケースは増えている。妻たちの不調は最近、「主人在宅ストレス症候群」と呼ばれているそうだ(黒川内科 黒川順夫院長)。出てくる症状は、じんま疹、高血圧、ぜんそくなど様々だという。

 こうした夫婦間の不幸な事例は、夫の職場での負荷や抑圧からくる「置き換え」がもたらすものだが、子供の頃から「男は男らしく」と言われ続けてきた人ほど、女性全体を見下すようになりやすい。

 

※様々なケースと解説が満載の『男尊女卑という病』、気になる続きはぜひ本書を手にとってご高覧ください。 

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片田珠美 精神科医

広島県生まれ。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学び、DEA(専門研究課程修了証書)取得。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて犯罪心理や心の病の構造を分析。精神分析的視点から、社会の根底に潜む構造的な問題も探究している。主な著書に、『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)、『他人の意見を聞かない人』(角川新書)などがある。最新刊は『被害者のふりをせずにはいられない人』(青春新書)。

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