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男尊女卑という病

2017.06.10 更新 ツイート

なぜ親が子を殺すのか――福岡・母子殺害とレズニックの5つの動機片田珠美

 福岡小郡(おごおり)市で母と2人の子供が殺害された痛ましい事件。逮捕された容疑者が警察官の夫だったことで世間の注目を集めています。捜査は続いていますが、親が自分の子供に手をかける衝撃の事件はこれまで何度もありました。なぜ“子殺し”は起きるのか――。“母親による子殺し”と“父親による子殺し”では異なる背景もあるようです。精神科医の片田珠美先生にうかがいました。

 

 福岡県小郡市で発生した母子3人殺害事件で、逮捕された警察官の父親は、容疑を否認しているようだ。ただ、室内が荒らされておらず、外部から侵入された形跡もないことなどから、県警は容疑者以外の第三者が殺害に関与するのは困難と判断して、子供2人が死亡した経緯についても追及しているという。

 子殺しは一体どんな動機から行われるのだろうか?

 

 レズニックの5つの動機

 最初に子殺しの事例を集めて分類し、その精神病理を分析したのは、アメリカのレズニックである。レズニックは、131例の子殺し(88例が母親によるもの、43例が父親によるもの)を、動機にもとづいて次の5つに分類している。

 

 (1) 「利他的な」子殺し

 (2) 「急性精神病」状態における子殺し

 (3) 「望まぬ子供」の殺害

 (4) 「事故」の結果としての子殺し

 (5) 「配偶者への復讐」のための子殺し

 

 (1) 「利他的な」子殺しは、“愛”ゆえにわが子を殺したと、少なくとも親自身は思い込んでいる事例である。
「利他的な」子殺しを、レズニックは、(A)自殺と結びついた子殺しと、(B)「苦しみ」から救うための子殺しの二群に分けている。(A)自殺と結びついた子殺しは、いわゆる親子心中であり、母親による子殺し88例のうち37例(42%)、父親による子殺し43例中のうち13例(30%)を占めていた。

 母子心中が圧倒的に多かったのは、子供との一体感を母親のほうが抱きやすいからだろう。親子心中を図って生き残った親がしばしば「自殺するのに、子供を残して死ねなかった」と訴えるのも、子供との強い一体感ゆえと考えられる。

 (B)「苦しみ」から救うための子殺しは、子供を「苦しみ」から救済するためと親が信じて遂行する。子供が障害を抱えていたり、引きこもっていたりすると、起こりやすい。もっとも、この「苦しみ」は、親が妄想的に確信しているだけで、現実には存在しないこともある。たとえば、子供に悪魔が憑いていると信じて殺害するような場合が典型だろう。


 (2) 「急性精神病」状態における子殺しは、幻覚や妄想などの影響のもとにわが子を殺してしまう事例である。(1)(B)の「苦しみ」から救うための子殺しの中には、親が妄想的観念にもとづいて実行したと考えられる事例がかなりあり、(2)「急性精神病」状態における子殺しとの鑑別が難しい。


 (3) 「望まぬ子供」の殺害は、親に望まれずにこの世に生まれてきた、あるいはもはや望まれていない際に遂行される。
 未婚の母親が婚外子を殺害する事例が多い。子供が経済的に重荷になるとか、新しいパートナーとの関係に邪魔になると感じて、殺害する場合もあるようだ。


 (4) 「事故」の結果としての子殺しは、虐待の結果子供を死に至らしめる事例である。
 レズニックが「事故」と名づけているのは、殺害の意図はなかったのに、親が激しい怒りに駆られて殴ったり、お仕置きしたりした結果子供の命を奪うことが多いからである。


 (5) 「配偶者への復讐」のための子殺しは、配偶者もしくは元配偶者を苦しめるために意図的にわが子を殺害する事例である。
 2015年7月、大分県杵築(きつき)市で、自宅に放火して子供4人を死なせた自衛官の父親は、放火の動機について「単身赴任地へ発つとき妻が見送りをしなかったから」と供述しており、妻への復讐願望が引き金になった可能性が高い。また、今年4月、兵庫県伊丹市で、離婚後の面会交流中に父親が娘と無理心中を図ったが、この父子心中も元妻を困らせてやりたいという復讐願望から起こった可能性がある。

 

 福岡母子3人殺害事件の動機は?

 レズニックの分類にもとづいて、福岡母子3人殺害事件の動機を探ってみよう。

 まず、子殺しを実行したのが殺害された母親だとすれば、(1) (B)「苦しみ」から救うための「利他的な」子殺しだった可能性が高い。子供の発育をめぐって母親が悩みを抱えていたと報じられているからだ。子供2人に生まれつき周囲と接するのが苦手な面があったということだが、実際以上に深刻に母親が受け止めていた可能性も否定できない。

 もし子供を殺害したのが逮捕された父親だとすれば、(3)「望まぬ子供」の殺害、もしくは (5)「配偶者への復讐」のための子殺しである可能性が高い。父親は、事件前「子供が成人したら離婚する」と周囲に話していたうえ、「最近は妻と不仲だった」と供述しており、夫婦間に深刻な葛藤があったと推測されるからだ。離婚して新しい生活に踏み出そうとした父親が、それに反対した妻と邪魔になった子供を殺害した可能性もないわけではない。

 夫婦間の葛藤があって、もともとは配偶者に向けられていた攻撃性が、子供に向け変えられる「置き換え」の結果、子殺しが起こることは少なくない。今後の捜査の進展が待たれるところである。

 

 参考文献

 Resnick, P. J. : Child murder by parents : a psychiatric review of filicide. American Journal of Psychiatry. September 1969 ;126(3):325-334.

 

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片田珠美 精神科医

広島県生まれ。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学び、DEA(専門研究課程修了証書)取得。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて犯罪心理や心の病の構造を分析。精神分析的視点から、社会の根底に潜む構造的な問題も探究している。主な著書に、『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)、『他人の意見を聞かない人』(角川新書)などがある。最新刊は『被害者のふりをせずにはいられない人』(青春新書)。

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