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食らすぞ、きさんッ!北九州グルメ伝説

2018.05.06 公開 ポスト

第7回

カレーの龍【リバイバル掲載】福澤徹三

初夏です。暑くなったらカレーの季節。食都・福岡県でいちばんディープな街、北九州の「安くて旨い」を紹介した人気コラムから、とっておきをご紹介します。

 今年の夏は、記録的な猛暑だった。

 都心では三十五度を超える連続猛暑日が八日間も続き、1875年の観測開始以降、最長を記録したという。53歳の個人的な実感としては、夏は年々暑くなっている気がする。

 ところが実際の観測データからすると、平均気温は30年前と大差ないらしい。そういわれても、体感温度はあきらかに暑い。

 わたしが子どもの頃はエアコンなどなく、夏場は窓を開けて、網戸から吹く風で涼んでいたが、いまそんな暴挙にでたら熱中症になってしまう。

 ともあれ、昔もいまも暑いときに食べたくなるのはカレーである。

 作家であり料理の達人でもあった檀一雄さんは、その著書のなかで「暑いときには、暑い国の料理がよろしい」と書いていた。わたしはその意見に従って、毎年夏はやたらとカレーを食べる。そもそも暑い日には、体がカレーを欲しがっている。

 

 あらためて書くまでもないが、カレーに用いられるスパイスは、漢方薬と成分がほとんどおなじである。ターメリックは肝機能を強化するウコン、クミンは消化を促進する馬ゼリ、クローブは鎮痛解熱に効く丁字(チョウジ)、カルダモンは強壮作用のある小豆蔲(ショウズク)、ショウガやニンニクの薬効については、読者がご承知のとおりである。

 コショウは食欲増進や健胃などに効果があり、唐辛子はカプサイシンの発汗作用で体を冷やす。辛いカレーを食べて汗をかいても、あとから涼しくなるのはそのせいだ。

 まさにカレーは薬膳というべきで、体が欲しがるのも当然だが、問題はどんなカレーを食べるかである。スパイスの香りが鮮烈なインド風のカレー、ワインやブイヨンで煮込んだ欧風のカレー、近年人気のスープカレーもいい。

 けれども、ときおり無性に食べたくなるのが、個人経営の食堂や専門店のカレーである。特にそんな衝動に駆られるのは、取材やイベントで他県にいったときだ。

 前述の檀一雄さんは「どこかの町に出かけていって、その町の食堂に腰をおろしながら、ラードでまんべんなくまぶしつくしたような、カレーライスを食べるのは、旅の楽しみの一つでさえある」とも書いている。

 そういう店は、最近めっきりすくなくなった。全国チェーンのカレーも嫌いではないが、あれはどこでも食べられる。旅先で食べたいのは、その町にしかないカレーである。

 

Photo by punch

 

 わたしにとって地元のカレーで、いちばんなじみ深いのは「カレーの龍」である。はじめて店を訪れたのは、わたしが高校一年か二年のときだから、四十年近く前だった。それ以来、いまだに足を運んでいるが、創業は昭和三十八年だという。

 店があるのは駅前の細い路地で、店内は八人掛けのカウンターとテーブル席がひとつ。わたしがしょっちゅう通っていた頃は、威勢のいい大将とおかみさんが夫婦で切り盛りしていた。

 

Photo by punch
Photo by punch

 

 メニューはカレーのみで、普通と大盛りが選べる。したがって常連客は店に入ると「ふつう」か「大盛り」としかいわない。カウンターの丸椅子にかけて待っていると、二分と経たないうちに白い皿に盛られたカレーがでてくる。

 カレーの色は黒っぽく、とろりとやわらかい大きめの肉がいくつか入っている。それ以外の具は溶けきって、原型をとどめていない。

 

 

Photo by punch

 

 その味を表現するのは、極めてむずかしい。たしかにカレーではあるものの、一般的なカレーの味とはまったくちがう。ほどよい辛さのなかに、濃厚な旨味とコクがある。

 香りはそれほど強くないが、ルーに溶けこんだ具材とスパイスが複雑にからみあって、独特の味わいを生みだしている。意図して作ったのではなく、何十年も店を続けるうちに、こうなったという印象だ。

 ライスの炊きかげんはふっくらして、やや汁気が多めのルーと相性がいい。付合せは福神漬とラッキョウで、カウンターの瓶から各自で皿にとる。

 注文したカレーがでてきたら、ひたすら食べる。食べ終えたら、最後に冷たい水を一杯。店に入ってから十分とかからない。だらだら食べずに、ささッとかきこむのが、こういう店の醍醐味である。

 

 大将は客の前では愛想がよかったが、カレーの出来が悪いと店を開けなかったらしい。マスコミの取材も大嫌いとあって、店に電話を置かなかった。

 わたしは四十年近く通っていながら、大将ともおかみさんとも必要最低限しか言葉を交わしたことがない。しかし勝手に身内のような親しみをおぼえている。

 かつては若い男性客が多く、彼らのあいだで都市伝説めいた噂があった。

「大将は某高校野球部の大ファンで、その野球部をほめるとタダになる」

「反対にその野球部をけなすと、大将は激怒して、金はいらないから帰れという」

 真偽のほどはさだかでないが、いずれにしてもタダになるのが大将らしい。店以外では近所のパチンコ屋でよく見かけたから、おかみさんの苦労がしのばれる。

 残念ながら大将は数年前に他界して、現在はおかみさんひとりになった。けれども味は昔と変わらない。おかみさんも高齢だけに無理はいえないが、末永く店を続けてほしい。こういうカレーこそ、食遺産として後世に残すべきだろう。

Photo by punch

 

本家カレーの店 龍 小倉本店
電話 093-521-8766
住所 福岡県北九州市小倉北区京町2-5-4
営業時間 11:00~19:00(月曜定休)

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食らすぞ、きさんッ!北九州グルメ伝説

食都・福岡県でいちばんディープな街、北九州。「安くて旨い」なら「北九州最強」説をとなえる作家、福澤徹三が地元の味を紹介する激旨コラム。

キタキューの食いもんが、いっちゃん旨いけん。

なんちかんち言わんでええけ、いっぺん食うてみりっちゃ!

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福澤徹三

1962年、福岡県北九州市生まれ。デザイナー、コピーライター、専門学校講師を経て、作家活動に入る。2008年『すじぼり』で第10回大藪春彦賞を受賞。14年には『東京難民』が映画化され話題に。小説作品以外にも、『自分に適した仕事がないと思ったら読む本 落ちこぼれの就職・転職術』など、仕事や就職をテーマにした新書も発表している。

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