長年の人材育成の経験から多くの親子をサポートしてきた著者が、37のメッセージを通して子どもと関わるすべての人へ子育てに対する心の持ち方・向き合い方を伝える書籍『子育てが変わる親の心得37』。
本連載ではこの書籍の一部を全3回のダイジェストでお届けします。最終回は第4章「親の成長」から、親に必要な子どもとの向き合い方について。
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私が子育てをしていたころのこと。私は、ある会合に参加していました。同年輩の仕事をする人たちの集まりで、その日のゲストによる講演の後、いくつもの小さなグループに分かれてそれぞれに立ち話をしていました。私もそのなかの一つのグループで、会話に参加していました。たまたま、そのグループのなかの一人が「仕事をしながらの子育てが大変だ」という話をして、話題は仕事を離れて子育てに移っていきます。
その多くが苦労話です。子どもが言うことを聞かない、親が帰る前に宿題を終える約束が守られていないなど、詳しい内容は記憶にありませんが、よくある子育ての愚痴で盛り上がっていました。親、特に母親にとって、子育ての愚痴はある種ストレス発散のテーマでもあり、女性たちは楽しみ、男性たちは女性に押される感じで聞いていました。
話題が「子どものことがよくわからない」という話になったとき、一人の女性が言ったことに私は驚きました。
「私と息子は互いに大変よく理解し合っている。息子は、自分のことをなんでも包み隠さず話してくれるので、私は息子のことをなんでも知っている」
息子のことを、なんでも知っていると言い放つその自信に、私は圧倒されました。
もし、子どものことをなんでも知りたいと思う親がいたら、私は「そんな無理は言わないほうがいい」と言います。もし、自分は子どものことをすべて知っているという親がいたら、私は「それは幻想だ」と言います。
「私はあなたのすべてを知っている」というような傲慢な思いを、子どもに対して持たないほうがいいでしょう。「知っている」「わかり合えるはず」という幻想に基づいた親子関係は、最終的に双方に大きなストレスをもたらすことになります。それはどんな人間関係においても同じかもしれませんが、特に親子関係においては重要なのです。
あるお母さんが、「出来のいい娘が豹変した」と、涙ながらに語ってくれたことがあります。そのお母さんは、自慢の娘が突然暴力をふるうようになったと涙をこぼしました。中学受験をすることになった娘に対し、お母さんはずっと付き添って娘の成績が伸びるのを楽しんだようです。やればやるほど娘の成績は伸びました。もっともっとと娘を励まし、娘も親の期待に沿ってよく頑張ったようです。ところがある日突然、娘は暴力をふるい始めます。
「なぜお嬢さんは、そうしたと思いますか?」と聞くと、お母さんはよくわかっていました。親の期待が重すぎて、どうにもならなくなったのではないかと。娘は母親に、「いや!」と言えなかったのではないかと。「娘のことはよくわかっているつもりでした」と彼女は言いました。一人娘を大切に育て、娘が受験したいと言った(言わせた?)ときには、「二人で頑張ろう」と誓い合ったそうです。「でも、私は本当の娘をわかっていなかったんですね」。
子どものことがわかっているという思い込みは、「子どもが本当はどう思うのか」を知ることに興味を示しません。たとえばこの親子のように、子どもが受験すると言ったときも、じつは親が言わせているのかもしれません。ところが親は、自分は子どもの気持ちがわかっていると思っているため、子どもが親を喜ばせようとして言っていることに気づかないまま、子どもに無理をさせてしまいます。こういうことが続けば、子どもは爆発してしまいます。
親子といえども別人格。さまざまに学んで理解しようと努力はしても、すべてわかっているという錯覚には陥らないように、常に相手を知ろうとする好奇心を持ち続けたほうがよいのです。
親子といえば、一世代は離れています。20~30歳は違うのです。それだけ違うと、生きている社会背景が違います。すると、使う言葉も考え方も違うものです。娘夫婦と出かけると、運転席と助手席にいる二人の話に、私は参加できません。もちろん日本語ですから、理解できないわけはないのですが、本当にわかるとはいえないのです。
それでもわかり合えると思えるのは、子どもが私に話を合わせてくれているからです。それをわかり合えていると誤解して、自分は子どものことはなんでも知っていると言い切るのは、大いなる幻想です。
わかっている、知っているという幻想を手放して、相手に興味を持ってみましょう。興味を持って、子どもがどう思っているか、どう感じているかに耳を傾けてみましょう。
相手が何に興味を持ち、何を考えているかを知りたいという気持ちが、相手をよりよく知るきっかけになります。
「私はあなたを知っている」は、
子どもを深く理解しようとしない
傲慢な思い込み。
常に知ろうとする好奇心を。
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