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『弱いつながり』紀伊國屋じんぶん大賞1位記念対談「観光を考える」

2015.02.27 更新

後編

『弱いつながり』は「コンビニ的日本からの脱出」がテーマだった!東浩紀/瀬口盛正

コンビニ・ホスピリティが日本をダメにする

 今日話していることと対極的な事例になりますが、日本でコンビニエンスストアに買い物に行くたびに驚きます。バイトの人がすごい種類の仕事をしている。物を売るだけじゃなくて、公的なお金の支払いを受け付けたり、からあげやおでんを作ったり、宅急便も受け取っている。日本は、あれだけの仕事をバイトがつつがなくこなすことを前提としている国なんです。たいへんすごいことだけど、最近は、逆にこれをやっているからこの国はダメなんだという気もするんです。コンビニでは奇跡のような便利さが低コストで実現できている。だから消費者の要求もどんどん高くなっていく。都会のコンビニでは、3時間後に雨が降るという予報が出ると、トラックが傘を持ってやってきて、雨が去るとまたトラックが来て傘が撤去されると聞きます。つまり、今のコンビニは、バックヤードがなくって、ちょっと商品がなくなるとトラックがすぐに来て納品する。まったく無駄がないのだけど、そこまでやる必要があるのかとも思うんですよね。

瀬口 NYだと雨が降ると急に傘売りが出てくるんですけどね。

 本当はそれで十分ですよね。そのぶん傘の単価も高いんでしょうが、別にそれでもいいのではないか。日本では使い捨ての傘は500円を切ってきているけど、それは本当に人々が求めているものだったのか。逆に、リゾートホテルはコンビニの対極みたいなところがあって、だから日本人からすると過ごしにくいところでもあります。ルームサービスを使えば夜中でもコーヒーが飲めるけど、日本人の常識では、むしろ自動販売機や二四時間営業のショップが欲しい。海外のリゾートでは、爪切りが欲しいとフロントに電話しないといけなかったりする。

瀬口 必要なときだけ呼ぶスタイルですからね。

 でもそれがホスピタリティだったりするんですね。一時「おもてなし」という言葉がはやりましたが、日本人がイメージしているのはコンビニのホスピタリティであって、世界の人が求めているホスピタリティと違うのかもしれない。

瀬口 海外は「ほっといてくれ」というホスピタリティですね。

  たとえ効率が悪くても、スタッフが誠意を持って動いてくれるのがホスピタリティだったりする。他方で、日本人はボタンを押すとストレスなく規格品がぱっと出てくるのがホスピタリティだと思っているところがある。コンビニはいまや日本では社会のインフラそのもので、あそこには日本社会のいいところと悪いところが集約しているように思います。

瀬口 いまアジアでもどんどん増えていますよね。

 リゾートホテルにコンビニができるようになったら終わりですね(笑)。

瀬口 便利さをどこまで適えてあげるかというのは悩みどころです。

 『弱いつながり』は「コンビニ的日本からの脱出」というテーマの本でもある。

瀬口 日本人はアメニティへの要求も高いですし、虫を好まないお客様も多くいらっしゃいます。でも、南国での虫は、防ぎようがありません。それがスタッフたちにはネガティブな経験としてストレスになることもあります。『弱いつながり』を読むとそれを解放できるというかホッとすると思います。

 僕は観光業というのは、世の中において公共的な意味を持っていると思います。単なる消費だと思われているが、そうではない。

瀬口 私も『弱いつながり』を読んで、観光が公共的であることをあらためて知った思いです。希望を与えられました。

 世界平和は観光が作るのかもしれない。国と国はケンカしていても、個人が行き来しているという現実が非常に大事だと思っています。
(了)
 

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東浩紀

一九七一年東京都生まれ。作家、思想家。株式会社ゲンロン代表取締役。『思想地図β』編集長。東京大学教養学部教養学科卒、同大学院総合文化研究科博士課程修了。一九九三年「ソルジェニーツィン試論」で批評家としてデビュー。一九九九年『存在論的、郵便的』(新潮社)で第二十一回サントリー学芸賞、二〇一〇年『クォンタム・ファミリーズ』(河出文庫)で第二十三回三島由紀夫賞を受賞。他の著書に『動物化するポストモダン』『ゲーム的リアリズムの誕生』(以上、講談社現代新書)、『一般意志2.0』(講談社)、「東浩紀アーカイブス」(河出文庫)、『クリュセの魚』(河出書房新社)、『セカイからもっと近くに』(東京創元社)など多数。また、自らが発行人となって『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』『福島第一観光地化計画』「ゲンロン」(以上、ゲンロン)なども刊行。

瀬口盛正

株式会社クラブメッド代表取締役社長。1965年生まれ。米国ニューヨーク大学歴史学部卒。スイスIMD経営修士号修了。15歳の時にバックパッカーとしてヨーロッパ一人旅に出る。米国、スイス、メキシコで20年近い海外生活の後、現在は東京をベースに年間120日出張で各国の現場に赴く。2000年に㈱博報堂を退社。欧州に渡りMBAを修了した後、オランダ系多国籍企業に就職し日本やメキシコの社長を務める。2011年より現職。http://moriseguchi.com/

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