佐原ひかりさんの最新長編『夜の海をゆく人よ』。通り魔から妊婦をかばって亡くなった婚約者の死を引きずるむつみのもとに、婚約者の弟が転がり込んでくるところから始まる今作は、利他の周辺に取り残されているものを丁寧に描いた意欲作です。作家生活5周年作品でもある今作の刊行を記念して、9月5日に渋谷の大盛堂書店で行われた佐原さんのトークショーから、抜粋してお届けします。聞き手は編集担当の黒川が務めました。
第一回は、佐原さんによる幻冬舎のご紹介、佐原さんのお手紙のこと、装丁のことなどをお話ししています。

* * *
幻冬舎に最初はドキドキしていた
佐原:佐原ひかりと申します。皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。よろしくお願いいたします。
――編集を担当しました、幻冬舎の黒川と申します。よろしくお願いいたします。
佐原:いや、晴れましたね! 良かった、本当に。
――台風で、新幹線がどうなることかと思いましたもんね。
佐原:そうなんですよ。私、結構そのパターン多くて、前も、新幹線動くかなって感じだったけどギリギリ来られたってことがありました。ちなみに恒例の質問なんですけど、今日ちょっと遠めから来てるよという方いらっしゃいますか? ……あ、どちらから?
(来場者:大阪です)
佐原:大阪! じゃあ京都から来た私よりも遠いかもしれない。ありがとうございます、わざわざ来ていただいて。
私、こういう場ではいつも大体、この「どこから来られましたか」っていうのと、担当さんと出版社のご紹介をさせていただいてまして。今回は、幻冬舎さん。幻の、冬の、舎弟の舎。あ、舎弟じゃない、校舎の舎です(笑)。
――舎弟なんて怖いこと言わないでください……!(笑)
佐原:ご存知の方もいると思うんですけど、見城さんという、名物社長っていうんですかね、編集者から幻冬舎の代表になった方がいらっしゃって。黒川さんに言ったことなかったんですけど、最初ちょっと私、ドキドキしてました(笑)。
――あ、そうですか、そうなんですね(笑)。
佐原:幻冬舎ってどういう会社なんだろう、みたいな感じでドキドキしてたんです。何度か会社の中にも入らせてもらったんですけど、出版社とはこうあってほしい! みたいな面白いところが結構あって。先日、この作品の取材のために幻冬舎にうかがった時に、黒川さんが窓から外を見ながら「あ、今日は亀がいますね~」みたいなことをおっしゃって。ちっちゃい亀を飼ってるのかな、と思って見に行ったら、めっちゃでかいリクガメが隣のビルのベランダを歩いてて(笑)。あれ、飼われてるんですか?
――あれは幻冬舎ではなくて、グループ会社が飼っている亀なんです。大きな亀がベランダでたまに日光浴をしてまして、取材によく使う部屋からちょうど見えるんですよ。
佐原:あとは、SNSにも写真を上げたんですけど、墨字で「正面突破」って書かれためちゃくちゃでかい額が社長室の前に飾ってあって。面白い!と思って、一緒に写真を撮りました(笑)。
――面白がってくださったから良かったです。あれを見て「あ……」って思う方もいらっしゃるので(笑)。でも、良い写真でしたよね、ぜひ佐原さんのSNSでご覧ください。
そして念願の「正面突破」(幻冬舎社長室前)
— 佐原ひかり (@sahara_hikari) August 29, 2026
写真撮りたくてウズウズしており、サイン本書いた後に撮ってもらいました pic.twitter.com/HGezN42PG1
佐原:そして編集担当が黒川さんです。実は今日もお越しいただいているんですけど、小説家の真下みことさんと蝉谷めぐ実さんも同じ担当さんなんです。
――たまたまなのですが、皆さんにお世話になっています。
佐原:真下さんの作品も幻冬舎さんから出されてて、同じ担当さんでお世話になっているという。何か推したい作品とかありますか? 最近の幻冬舎さんだと……。
――いや、まずは、『夜の海をゆく人よ』です!
佐原:そうですよね、最近出たばっかりですので。あ、でも9月末に今村翔吾さんの新刊も出ますよね。『未だ本能寺にあり』。すごく面白そうです。あと今年は、吉田修一さんも。
――はい。『タイム・アフター・タイム』も、春に出たばかりで。二冊とも私が担当しているわけではないのですが、幻冬舎、色々出しておりますので、よろしくお願いいたします。
筆まめ佐原さんのお手紙を公開!
佐原:というわけで、実は今日、しゃべることをそんなに決めてないんです。というのも、『夜の海をゆく人よ』が9月3日発売で、今日が9月5日なので、まだ出てから2日しか経っていないんですよ。ネタバレがどこまでできるかっていう問題がありまして。一応聞くんですけど、「もう読んだよ」っていう方はどのくらいいらっしゃいますか? あ、すごい! 意外といらっしゃる、ありがとうございます! とはいえ塩梅が難しくて、ミステリーではないんですけど、結構大きなネタバレがひとつあるので、なるべくそこは触らないように行こうというところで。何を喋りましょうかね、今日は。
――なので、この本の成り立ちというか、内容に触れないところをお話できればと思って、佐原さんとのやり取りなどを振り返ってきたんですけど……。
佐原:そうなんです、黒川さんが私とのヒストリーをまとめてくださってて(笑)。メールとか印刷して持ってきてくれて。
――あとは、佐原さんからゲラを送っていただいたときのお手紙も持ってきました。佐原さん、いつも可愛いメモでくださるので、それを。

佐原:私も自分で何使ったか忘れてたんですけど、こういうミッフィーちゃんのメモとか。これは西淑さんかな、多分。これは柊有花さん、『ネバーランドの向こう側』の装画を描いてくださった方の一筆メモ。これもミッフィーちゃんかな。
――ミッフィー率が高いです。
佐原:これは、あ! なんと、後ろがミッフィー(笑)。これはくらはしれいさんですね、大好きなイラストレーターさん。これもあれかな、柊さんの……。何書いてるんですかね、これは……「夜の海6話、再校ゲラをお返しします。いやー、終わりましたね! 何とかなって良かったです!」(笑)。「毎回締め切り等ご融通していただきありがとうございました」って。
こっちは単行本のゲラを送ったときのものですね。「お世話になっております、佐原です。『夜の海をゆく人よ』初校ゲラをお返しいたします。我ながら何と余裕のあるスケジューリング」(笑)。
――本当にそうなんですよね。
佐原:私、進行に関して優等生なので(笑)。これはコジコジのメモで、「神様は心の中をうろうろしているので、この辺をうろうろしていません」と、ちょっと深そうなことをコジコジが言ってるやつを使いましたね。こっちは中原淳一かな。結構私色々書いてますね。ありがとうございます、こんな取っておいていただいて。
――いやいや、毎回嬉しくて。でも良かったです。今日皆さんにお披露目できて。
佐原:これ何のメモだろう?「昨日一昨日問題、地味に難問ですけど」って書いてある。
――あ、それはオールしたときに前日をどう呼ぶか問題で、オールしたから日付は変わっているけど……。
佐原:感覚的には寝てないから「昨日」なのか「一昨日」なのか、どっちの表記にした方が良いんだろうか、って悩んでいた時ですね。難しくないですか? 例えば、夜中の3時に「明日」という言い方をするか、それとももう「今日」なのか。
――そうなんですよね。この時は、夜が明けたら変わってる、というところに落ち着いたんですよね。
佐原:こっちには「当初の想定よりどんどんシリアスになっており、書きながらドキドキしています。(うまく終わるのか)」みたいなことを書いてるんですが、あの、シリアスの「ス」を間違えて「シリアシ」って書いてます。よっぽどしんどかったんですね、これ書いてた時(笑)。

佐原:……あ、この時に私、鈴木久美さんに装丁お願いできたら嬉しいって言ってますね。
――そうなんです。連載を4話まで書き終えた時点で。
佐原:今回、ブックデザインを鈴木久美さんにお願いしたんですけど、いつかお願いしたかったデザイナーさんだったんです。
――装丁、これまでの佐原さんの作品と雰囲気が違いますよね。
佐原:そうですね。基本的に私の作品は、顔バーン!系か、綺麗めイラストという感じだったんですけど、今回は結構最初のころから、もしかしたらイラストではないかもねって話してましたよね。それで今回は、西浦裕太さんという方の彫刻作品を使わせていただいて。

――帯を取ると、鍵とか出てきて、ちょっと意味がありそうで。
佐原:読んだ人は、感じることがあるかもしれない。天使が鍵を持っていて、後ろのガラスに映っていて、二人が背中合わせになっているようにも見えて……というような装丁ですね。ある読者さんから「小川洋子さんみを感じました」っていうご感想をいただいたんですけど、それは実は正解で、小川さんの作品にも西浦裕太さんの作品が使われているので。
あとカバーを外した表紙のところは、星座の春の大三角をつなげたデザインにしてくださっています。今回、春の大三角がポイントにもなってくるので、それを描いてくださいました。
(続く)
夜の海をゆく人よ

佐原ひかりさんの長編小説『夜の海をゆく人よ』に関する記事をご紹介します。











