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まわり道の愛し方

2026.09.04 公開 ポスト

マッチングアプリをやったことがない武田砂鉄さんに、2026年のマッチングアプリを説明してみたひらりさ(文筆家)

“たち”が嫌いな武田さんが「往復書簡」を読んだら

涼しい日が増えてきました。やかましかったセミの大合唱はいつの間にか消え、りーりー、と静かな鳴き声が聞こえます。アオマツムシなる虫だそうで。

8月、皆様はいかがお過ごしでしたでしょうか。

私はというと、急に思い立って、インテリアを大量に通販していました。

2年前に購入、フルリノベーションして入居した我が家(2LDK)。

引っ越し当初、ダイニングテーブル、椅子、ソファあたりは意気揚々と購入したのですが、日々の生活に追われて、それ以上のアップデートはできずにいました。

そこにこの夏は、新刊の宣伝ラッシュと、急な失恋が重なりまして。一年間「恋愛」について往復書簡をしていたというのに、まったく恋愛がうまくなっていない自分にびっくりだよ! マリアナ海溝のように深く落ち込んで、ゴミや食べ物を片付けられず、コバエが大量繁殖する事態に……。

 

殺しても殺しても湧いてくるコバエ。「一体どこで繁殖しているんだろう?」といぶかしみつつ、台所にかけたIKEAのハンドタオルで手を拭こうとしたとき、謎は解けました。青一色のはずのタオル生地に、びっしりと白いつぶつぶが付いていたのです。使いっぱなしで取り替えず微妙な湿り気を保ったタオルが、奴らの格好の繁殖スポットになっていたのでした。気を失うかと思った。

しかし。この光景は一周回って救いとなりました。

「どん底すぎる! あとは良くなるだけだな!」と、なんだか明るい気持ちになったのです。

そこからは、どうにかこうにかコバエを完全駆除することに成功。気になったインテリアをばかすか買い、あっちに置いたりこっちに置いたり……を繰り返しています。部屋の模様替えって、ここまでの沼だったのだなあ。これまでマッチングアプリをぽちぽちしていた時間を使って、動画編集アプリで、ひたすらルームツアー動画を作成しています。マチアプポチポチよりはるかにクリエイティブな作業! とうさん、これからは動画で食っていこうかな。


8月はもうひとつ、元気がもらえた出来事がありました。

三省堂書店神保町本店にて、ライターの武田砂鉄さんとお話ししたのです。

日本社会のあらゆることに鋭い洞察を加えてきた武田さん。『父ではありませんが』『マチズモを削り取れ』など、ジェンダーや家族をめぐる社会的抑圧に対しても、常に一歩引いた目線から、繊細かつユニークなアプローチを重ねられてきた方でもあります。

「未婚」や「子ナシ」という言葉は、「婚」や「子」が「未だ」「ナシ」を意味する。「やがて通過するべき行程が未だに行われていない状態」という意味だ。だからこそ、「意外にも幸せらしい」と言われる。どうして、そちらに、こちらの幸せの判断を握られなければいけないのだろう。このことを、しょっちゅう思う。でも、なかなか言えない。今、それを言って(書いて)、ちょっと緊張している。――『父ではありませんが 第三者として考える』(集英社文庫)

そんな武田さんが「当事者性」バリバリの本書を読んだらどんな気持ちになるのか? がとても気になっていました。

まず武田さんが切り出してくださったのは“たち”が嫌いだ、という話。

武田「若者たちがすごく苦手だなと思った時期があって。……若者が苦手というか、若者たちの“たち”が嫌いなんだと気づいたんですよ。若者“たち”、大人“たち”、男子“たち”、女子“たち”……集団でいて、そこで交わされる同意みたいなもの。」

ひらりさ「同質性みたいな」

武田「でも、往復書簡って”たち”じゃないじゃないですか。今回だったらひらりささんと鈴木さんという、個人と個人で話をしていく。だからこそ読んでいて面白かったです」

一方で、武田さんは「他に当事者がいる」恋愛という営みについて文章で書くということには、自分はとても慎重だとも語ります。

武田「僕は結婚しているんですけど、妻は表に出て書いているような人間ではないので、妻との話について、こっちで完全にコントロールできてしまうじゃないですか。だから、恋愛についての往復書簡を面白く読みつつも、個々が恋愛の話を赤裸々に語ることが本当にできるものなのか、という問いが常にあります。恋愛とか結婚もそうですけど、そこに書かれていることは本当なのかどうか、という疑いも常にあったりして。」

武田さんからの鋭い指摘に対して「その通りでございます……」と唸りまくったわたくし。本書はもちろん、そうした不均衡性を自覚しながら書きました。他者を面白おかしく観察する「レポ」的な描写は避け、あくまで恋愛で起きた「構造」や自分が抱いた「感情」について語るために必要最小限の現実を引用したつもりです。が、もちろん万全ではない。その辺りはぜひ、読者の方にも、批評的なまなざしで読んでほしいポイントです。ミステリで言うところの「信用できない語り手」というやつですね。


MBTIって、何でこんなに流行ってる?

トークはそこから、なぜか私のマッチングアプリ事情に突入。

というのも本書では(帯でも引用しているように!)マッチングアプリの話をちょこちょこ挟んでいたのですが、武田さんは2011年に結婚しており、それ以降に普及した存在であるマッチングアプリを使用したことがなかったのです。しかし、街ではよく、マチアプのアポに遭遇するらしい。

武田「僕はよく新宿の喫茶店に行って作業するんですけど、よくマッチングアプリで出会ったであろう人がいるんです。話を聞いていると、その日初めて会った人との会話の立ち上がりの悪さに、ゾクゾクしてしまう。『うまくいってないな』って、こそこそ聞いているんです。ああいう会話って、どう立ち上げるのが一番無難なんですか」

ひらりさ「いや〜、私も失敗ばかりですよ。『土日は何をしているんですか?』って聞いたら『Netflixを見ます』と言われたので、『どんなの見るんですか〜?』って深掘りしたら、『韓国映画だったと思うけど、タイトル覚えてないです』みたいな」

武田「そんなつまらない話をしているんですか?」

ひらりさ「はい……。私もあのときはつまらなすぎて殺意が湧きました。でも今話してて気づきました。『Netflixを見ています』というのは、『銃を持っていません』って意味だったのかも」

武田「『Netflixを見ている』と『銃を持っていない』がイコールになるんですか?」

ひらりさ「おそらく、変な趣味とかないです、無害です、ってことがまず大事なんですよね。ハンズアップのジェスチャーみたいなものかもしれないなと」

重要なことに気づいてしまった……とかなり興奮しながらしゃべったのですが、客席でも深く頷く雰囲気があって、ありがたかったです。

続いて、この1〜2年のマッチングアプリで特徴的な点として「MBTI(16分類の性格診断)でどのタイプかを書いている人がめちゃくちゃ増えている」ということを話すひらりさ。MBTIが苦手だという武田さんは、ゴーヤでも食べたような表情を見せてくれました。

武田「なんでしたっけ、16種類に分けるやつですよね。やったことないけど、あんなん信じたら終わりだとなんとなく思っています」

ひらりさ「外向型とか内向型かを問うような質問にいくつか答えると、自分のタイプが出るんですよね。本人が質問に回答しているからそりゃ一定当たるわけなんですけど。でも、診断で外向型と出たからって、あらゆる場面で外向的な行動をとるかというと人間は別にそうではないはずなんですけど、今、みんなそうということになっているんですよね。マッチングアプリやらSNSやらであらゆる人と出会えてしまうぶん、相対する人間の不確実性に耐えられなさに対処するために、活用されているんじゃないかと思います」

武田「でも、恋愛の醍醐味は不確実性にあるとか、瀬戸内寂聴さんとかが言っていませんでしたっけ。全く知らないけど。不確実性こそ恋愛じゃないんですか」

ひらりさ「違うんですよ、令和ではもう、違うんです」

「文化系男性が急に売れてモテたときの有害性」など、リアルイベントならではのここだけの話も満載でお送りした本イベントの最後。

武田さんが、長年一緒にいるご結婚相手とのこんなエピソードを話してくれました。

武田「この人と一緒にいてよかったなって思ったエピソードが一つあって、この間、Mrs. GREEN APPLEが1ヶ月休むと宣言していたじゃないですか。ずっと忙しくされていたでしょうし、休んだほうがいいと思いますが、その声明に『皆さまの街で見かけられても、十分なご配慮を何卒お願いいたします』とわざわざ書かれていたんですね。それを2人で見ていたときに、2人とも、テレビの前で固まって、そんなこと書かれたら、むしろ声をかけたくなったよねって2人でボソボソ盛り上がって、あのとき、これはいい人と暮らしてるなあと思いました」

ひらりさ「MBTIでは測れない気の合い方……!」

あまりにも「武田砂鉄」らしいエピソードに会場ともども爆笑しながら、イベントは終了しました。いやーーー「家系ラーメン」でも食べたような、特濃の時間でした。

ここまで、綾とのトークイベント、武田さんとのトークイベントと重ねてきましたが、話す相手やタイミングが変わると全然違う話が展開するのが、本書の面白いところだなと思います。

9月12日にも、実は「読書会」という形式で『いつか終わる恋愛の、人生への影響について』のイベントが控えています。こちらのイベントでは会場からの「恋バナ」をたくさん募る予定です。身近な方とは恋愛の話ってしづらいという方、マッチングアプリで知り合った人のエピソードをお焚き上げしたいという方、ぜひぜひ会場にお越しください! オンライン配信もありますよ。

そういえば今回の本のイベントで、カップルでお越しくださった方もいたんです!

さらにここから、『いつか終わる恋愛の、人生への影響について』がきっかけで友達・パートナーと仲良くなりました、って人が現れてくれたらいいなあ。

【読書会のお知らせ】

9月12日(土)16時~
ひらりさ×鈴木綾『いつか終わる恋愛の、人生への影響について』読書会~知らない人とだから話せることがある~

見るだけ、聴くだけの参加も大歓迎です。詳細は、幻冬舎カルチャーのページをご覧ください。

【ひらりさと鈴木綾のポッドキャスト番組】

まわり道の愛し方(Spotifyへ)

関連書籍

鈴木綾/ひらりさ『いつか終わる恋愛の、人生への影響について』

マッチングアプリのずっと前から わたしたちは『商品』だったよね? 30代後半、ともに独身。 ロンドンと東京の会社員兼文筆家が 恋愛を考えるために往復書簡を始めた 「新年早々、失恋で寝込んだわたしが往復書簡を始める意味」(ひらりさ) 「恋愛に失敗なんてあるのかな?」(綾) 「わたしの恋愛には『人からどう見えるか』がいつもつきまとう」(ひらりさ) 「わかりやすい『性的魅力』にいいことはない」(綾) 「わたしの恋愛は、傷つけるほどの距離にならない」(ひらりさ) 「誰も教えてくれなかった愛するときに必要な『地味な仕事』」(綾) 恋愛で受ける傷、対等さへのこだわり、出産への迷い―― 他者と自分を愛する可能性を探った1年間の記録。

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まわり道の愛し方

ひらりさ×鈴木綾によるポッドキャスト番組「まわり道の愛し方」連動連載エッセイ。

アイコンイラスト:WAKICO/題字:ニョグ

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ひらりさ 文筆家

1989年、東京生まれの文筆家。「劇団雌猫」メンバーとして、『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―』(小学館)でデビュー。女オタク文化からフェミニズムまで、女性と現代社会にまつわる文章を執筆。個人名義の著書に『沼で溺れてみたけれど』(講談社)、『それでも女をやっていく』(ワニブックス)、『友達じゃないかもしれない』(上坂あゆ美との共著/中央公論新社)、『まだまだ大人になれません』(大和書房)がある。

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