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書くこと読むこと

2026.08.29 公開 ポスト

野宮有さん『殺し屋の出世術』:どういう状況が鳥井にとってピンチになるかを考えました。瀧井朝世

「書くこと読むこと」は、ライターの瀧井朝世さんが、今注目の作家さんに、「書くこと=新刊について」と「読むこと=好きな本の印象的なフレーズについて」の二つをおうかがいする連載です。

今回は、新刊『殺し屋の出世術』を刊行された、野宮有さんにお話をおうかがいしました。

(小説幻冬2026年9月号より転載)

*   *   *

野宮有:第25回電撃小説大賞で選考委員奨励賞を受賞してデビューしたのち、2025年に『殺し屋の営業術』で第71回江戸川乱歩賞を受賞。
 

凄腕の営業マンでありながら、生き甲斐もなく、満たされずにいる鳥井一樹。ある夜、殺し屋の殺人現場に居合わせ口封じのため消されそうになり、彼は咄嗟に商談で自分を売り込む。そして殺人請負会社〈極東コンサルティング〉の営業担当となるが、ノルマを達成しなければ命はない。絶体絶命のなか、やがて鳥井は覚醒する──。昨年、江戸川乱歩賞受賞作『殺し屋の営業術』が話題となり今年の本屋大賞にもノミネートされた野宮有さん。このたび続篇『殺し屋の出世術』が刊行された。

「前作を発売してちょっと経った頃、編集者さんに『続篇を書きませんか』とおっしゃっていただいて。続篇を考えていたわけではなかったので、そこから内容を考えていきました」

今作で鳥井は〈極東コンサルティング〉の社長の座を、鷹見という不気味な男と争わなくてはいけなくなる。つまり出世争いだ。

「どういう状況が鳥井にとってピンチになるかを考えました。前作でも書きましたが鳥井は社内政治や社内営業が苦手で、どの会社に入っても営業成績一位になるけれど、次第に疎まれて自ら会社を去っている。じゃあ、社内で出世しないと終わり、という状況は大きなピンチだなと考えました」

しかし鷹見は上部組織幹部の巣ヶ谷に可愛がられており、これは完全な出来レース。

「現実社会もそうですが、裏社会だとより理不尽な要素が多いだろうな、と。透明性はないし、事前に根回しされているし、争いに破れた場合のリスクも大きい」

前作では未知の世界に飛び込んだ鳥井の成長譚という読み心地があった。だが今作で鳥井はすっかり裏社会に馴染んでおり、コンサルとして営業技術の講義を開くなど、事業を拡げている。

「現実社会でも優秀な営業マンは、ノウハウがお金になるのでコンサルを始めるんですよ(笑)。鳥井はもう成長しているので、今回は別の人物に変化してもらおうと思いました。一作目でも鳥井以外の視点人物を置きましたが、第三者の視点があったほうが鳥井のいびつさが強調できるんですよね。それには敵側の視点がいいけれど、鷹見の視点にすると彼が考えている戦略を意図的に隠さないといけない。それで鷹見の側近、翼の視点にしました。そうすれば鷹見の得体の知れなさも演出できますし」

翼は銀髪の少女。超人的な身体能力を持つが、感情の起伏が乏しい印象だ。さらには前作にも登場したキャラクターも視点人物となり、意外な一面が判明する。

「前作を出した時、先輩作家が“もし続篇があるなら他のキャラクターの掘り下げも見たい”とおっしゃってくださって。今回は、翼とその人物が主人公みたいなものです。その二人が怪獣映画における主人公で、鳥井と鷹見はゴジラとキングギドラみたいなものですね(笑)」

前作も今作も、それなりに暴力シーンを描いたのには意図がある。

「読者にハラハラしてほしいというのもありますが、裏社会は本当に怖いんだ、ということが書きたくて。美化したくないんです。ただ、このシリーズに関しては過剰にならないようには気を付けています」

また、前作の読者はコンゲーム的展開になると予想&期待しているはず。そこを上回るのも難しかったのではないか。

「一回最後まで書いて、読み返しながら“ここは読者が気づくんじゃないか”と計算して改稿していきました。特殊設定があるわけでもないし、ロジックだけで組み立てていかないといけないので、そこはだいぶ苦労しました」

その苦労があったからこそ、読者は翻弄され、騙される快感をたっぷり味わうことができる。もちろん、第三弾を期待してしまうわけだが、

「今とりかかっています。タイトルに『〇〇術』というビジネス用語を入れるという制約がありますが、だいたい決めています」

好きな本の印象的なフレーズに選んだのは、高校時代に読んで文体などに影響を受けた作家、東山彰良さんの作品から。『ブラックライダー』の冒頭のインパクト抜群の一文だ。

フィッシュ葬儀社の三男坊が人を殺してその肉を食べたこと自体は、まあ、目くじらを立てるほどのことでもない。

――『ブラックライダー(上)』東山彰良著(新潮文庫)より

「小説の最初の一文はとても重要だと考えているのですが、高校時代にこの一文を読んで凄まじい衝撃を受けました。これはポストアポカリプスの世界が舞台なんですが、この一文で退廃的な世界観が伝わってきて、読み進めたい欲求を掻き立てられました。今でも、自分が『最初の一文』を書くときの一つの指標になっている作品ですね」

野宮有『殺し屋の出世術』講談社/2255円(税込)

殺人請負会社〈極東コンサルティング〉に入社して半年、順調に売り上げを伸ばしていた鳥井。だが、上部組織・巣ヶ谷一家の組長から、謎の男・鷹見と社長の座を争うように告げられる。負けたら待ち受けるのは死。圧倒的に不利な頭脳戦の行方は。

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ライターの瀧井朝世さんが、今注目の作家さんに、「書くこと=新刊について」と「読むこと=好きな本の印象的なフレーズについて」の二つをおうかがいする連載です。小説幻冬での人気連載が、幻冬舎plusにも登場です。

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瀧井朝世

フリーライター。多くの雑誌などで作家インタビュー、書評、対談企画などを担当。2009~13年にTBS系「王様のブランチ」ブックコーナーに出演。現在は同コーナーのブレーンを務める。著書に『偏愛読書トライアングル』(新潮社)、『あの人とあの本の話』(小学館)、『ほんのよもやま話 作家対談集』(文藝春秋)など。

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