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私は演劇に沼っている

2026.08.26 公開 ポスト

犬の都合私オム(脚本・演出家)

数ヶ月前から我が家に犬が一匹増えた。

妻がいる時は妻にばかりすり寄っていく先住犬だが、妻がいない時は執筆中の私の元に寄ってきて「おい、お前の嫁がいないぞ。パソコンばっか弄ってないで、あたしと遊べ」と圧をかけてくるので、どうしたものかと悩んでいた。

脚本を書く手を止め、先住犬の腹や顎下を掻くのだが、そんなまやかしでは満足せずに先住犬は私の足元に座り込んでジッと顔を見上げる。とんでもなく可愛いが、仕事が進まない。

私は友達が少なくひとり遊びの達人だが、先住犬はひとり遊びの楽しさが理解できないらしく、私がどうやってみても相手をしないと判断するとふて寝をする。

もしくは、ジッと私の顔を見上げるかのどちらか。そしてたまに大して興味のない絨毯を暇つぶしで噛んで怒られる、という暮らしを先住犬はしていた。

そんな難儀な犬生を送っている先住犬の遊び相手がいたらなあと考えていた矢先、一際輝く犬と出会った。連れていた先住犬も輝く犬に興味を示したので、その輝く犬を迎えることにしたのだった。

輝く犬が我が家へきたばかりの頃。先住犬より1歳下の輝く犬は、とてもヤンチャで家中を走り回りあらゆる物を破壊した。少し大人になっていた先住犬は破壊しまくる輝く犬に激しく引いており、輝く犬と距離をとって暮らしていた。

すぐに仲良くお友達になるとは思っていない。多頭飼いについて調べても、無理強いさせずに気長にゆっくりと慣らしていくことが大切だと書いてあった。

お気に入りのジーンズを噛み切られたり糞尿をあちこちで撒き散らされたりと、輝く犬がきたことによって今まで以上に仕事ができなくなってしまった私だが、いつかは落ち着き先住犬と仲良く遊んでくれる日がくると信じて、輝く犬をゆっくり大切に育てた。

(我が家に来たばかりの時の輝く犬)

そして数ヶ月経った現在。

先住犬と輝く犬は、2匹並んで執筆中の私の顔をジッと見上げている。

どうしてこうなってしまったのだろう。

仲良くはなってくれた。しかし、仲良く2匹で私の元に来てはダメじゃないか。

いや、ダメではないんだが。一切来なければ来ないで悲しくて仕事をするマインドになれないだろう。ある程度は私を欲してほしい。だが、私は2匹で遊んでおいてほしいのだ。「3匹で一緒に遊ぼー」じゃないのだ。

(数ヶ月経ち、距離を縮めた2匹)

うまくいかない。まあ当然である。

彼らはこちらの都合で生きていない。彼らには彼らのルールがあって、その日の気分があって瞬間瞬間を懸命に生きている。

私がするべきことは彼らの暮らしを安全に守ることだ。

守るために原稿を書きたいをしたいのだが……なんて考えるのもこちらの勝手な都合なのだろう。

犬と暮らすということは、犬のいぬになることだと知った。

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私は演劇に沼っている

脚本家、演出家として活動中の私オム(わたしおむ)。昨年末に行われた「演劇ドラフトグランプリ2023」では、脚本・演出を担当した「こいの壕」が優勝し、いま注目を集めている演劇人の一人である。

21歳で大阪から上京し、ふとしたきっかけで足を踏み入れた演劇の世界にどっぷりハマってしまった私オムが、執筆と舞台稽古漬けの日々を綴る新連載スタート!

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私オム 脚本・演出家

1989年生まれ。大阪府出身。代表作は女優の水野美紀氏との共同演出作品「されど、」や映画製作予定の「忘華~ぼけ~」や朗読劇「探偵ガリレオ」などがある。身近に感じる日常にドラマを生み出し、笑いを挟み込みながら会話劇で展開する作風は各テレビ局関係者からの評価も高い。また、10代の頃から国内や海外を放浪していた経験を持ち、様々な角度から人物を描き、人間の悩みや苦悩葛藤を経ての成長に至る描写を得意とする。近年では原作のある作品の脚本演出のオファーが相次いでいる中、自身のオリジナル作品の上演を定期的に行い、多くの関係者が観劇に訪れている。

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