1. Home
  2. 生き方
  3. 先生、俺またバグってます。
  4. 双極症と睡眠

先生、俺またバグってます。

2026.08.05 公開 ポスト

双極症と睡眠GASHIMA (WHITE JAM)

ラッパー・GASHIMAさんによる人気連載『先生、俺またバグってます。』。

今回は双極性障害の「睡眠」のお話。

「寝ないことがタフ」というHIPHOPの美学に、憧れを抱いていたGASHIMAさん。

しかし、双極性障害の症状は、ときにそれとは真逆の「過眠」を引き起こしてしまうこともあるのです。

*   *   *

 

ニューヨークを代表するレジェンドラッパー、
Nasはデビュー当初の楽曲で

「俺は眠らない。眠りは死の従兄弟だからだ。」

とラップしている。

油断して眠りについていたら、
誰かに命を奪われかねない。
彼が育ったストリートの
タフな環境を表現した一節だ。

「昨日、全然寝てへんわー。」という
「俺、寝てないマウント」の最上級を
Nasは94年に叩き出していた。

この一言は彼のキャリアを代表する
名パンチラインとして名高く、
その後のラッパー達にも大きな影響を与えた。

Nasに続いて、

「寝てる暇なんてあったら、
俺は金を稼ぐぜ!」

とか

「死んだ後に眠れるんだから、
今は寝ている暇はない。」

というラッパーがどんどん出て来て、
寝ないことが美学になっていった。

俺がヒップホップにハマった2000年代には
「寝ない=タフでイケてる。立派。」という
価値観があらゆる楽曲やインタビューに
蔓延していたように思う。

そのカルチャーに感銘を受けて
育った俺は今、どうなのか。

Nasの地元にいたら、
5回は死んでいるほどに
毎日、眠りこけている。

双極症のうつ状態、躁状態で
分かりやすく影響が出るのが睡眠時間だ。

基本的に躁状態の時は
睡眠時間が短くなる傾向にあり、
うつ状態になると不眠になる人もいれば、
逆に過眠になる人もいる。

俺は完全に過眠になってしまうタイプだ。
うつ状態を抜けた今、気分の落ち込みは
随分となくなったけど、この過眠だけは
なかなか治ってくれない。

鬱のピークの時には1日12~14時間ぐらい
寝てしまう日々が続いていた。
その頃に比べたら、まだマシにはなっているけど
それでも未だに平均9時間~10時間は寝てしまう。

不眠に比べたら、
過眠の方がまだマシなように
思えるかも知れないけど、
過眠も過眠で結構ツライ。

なんせ、物理的に1日の時間が
短くなってしまうから
こなせるタスクの量に限りが出てくる。

安定している時期の
睡眠時間は7時間半ぐらいなので、
その時と比べると1日が
2時間ぐらいは短い感覚だ。

2時間あれば、ラフなデモ曲ぐらいは作れるし、
事務作業なら2、3個は片付けることが出来る。
ジムに行けば、入念にトレーニングが出来るし、
このコラムだったら2本分ぐらいは
原稿を書くことが出来るだろう。

過眠のシーズンが始まってからは
目の前のタスクをこなしている内に
あっという間に夜が来てしまう感覚だ。

比べても仕方ないと分かっていながらも
安定期の自分と比べて、
生産性の低さに落ち込む。

健康な人たちはもっと動いているのに
自分は動けていないという
自己嫌悪にも陥ってしまう。

「人によって必要な睡眠時間は違いますから
あんまり重く考えずに、寝れるだけ寝て下さい。」

と精神科の先生は言ってくれるし、
俺も頭ではそれを理解出来る。

でも、一向に減らないTo Doリストを
眺めていると、そんな悠長なことを
言っていられない気持ちになってしまう。

そんな日々のフラストレーションを
友人の映像クリエイターに打ち明けると
彼から返って来たのは意外な言葉だった。

「俺も子どもいるから、そんなモンですよ。
幼稚園送ってから、お迎えの時間を考えると
ちゃんと集中して仕事出来てるのって
10時から15時ぐらいです。」

この一言は俺にとっては
かなり目からウロコだった。

双極症とかいうワケのわからない
疾患を抱えていると、
この病気に毎日ハンデを
背負わされている気持ちになる。

でも、健康体の人もそれぞれに
制約のある中で毎日、
働いているんじゃないか。

この友人のように、
子育てをしながら働いている人は
もちろん育児がある。
通勤時間が1時間ある人は
毎日、往復2時間を移動に費やす。
家族の介護をしている人もいるだろう。

勝手に自分一人がハンデを
背負わされている気になっていたけど、
人それぞれ、何らかの制約と戦いながら、
毎日を生きている。

そう考えると長く寝てしまうことに
対する罪悪感や焦りも
少しマシになった気がした。

焦らずに、また睡眠時間が
戻ってくる日を待とう。

物騒なニュースが増えてきたとは言え、
俺の住んでいる日本では
寝ていたせいで命を落とすことは
まだまだ稀な出来事だ。

そして、「元祖寝ないニキ」のNasも現在は52歳。
彼もそろそろ「睡眠不足こそ、死の従兄弟」と
思い始めているころなんじゃないだろうか?

そんなことを考えながら、
今夜は少しだけ罪悪感軽めで
長い眠りに就こうと思う。

皆さん、おやすみなさい。

{ この記事をシェアする }

先生、俺またバグってます。

3人組シンガーソングライター・グループ WHITE JAMのラッパーとして活躍するGASHIMA。

そんな彼はある日、「双極性障害」であると診断される。

思い返してみれば、昔から自分はちょっとバグってた。

日本とアメリカで経験した過去、生い立ちと音楽、メンタルヘルスの狭間で感じた「生きづらさ」をパーソナルかつリアルに綴るセルフドキュメンタリー連載。

目まぐるしく変わる環境に対するやり場のない怒り。

振り返ってみれば「若気の至り」だと思っていた破壊的衝動。

あれも、これも、もしかしたら躁状態だったのかも?

 

“ただの勢い”の裏にはちゃんと病理があった。

そう思えると、あの時の俺も少しだけ愛せるようになった。

バックナンバー

GASHIMA (WHITE JAM)

一橋大学卒。

十代を米国で過ごしたバイリンガル・ラッパー。

2014年、3人組シンガーソングライター・グループ、WHITE JAM のメンバーとしてメジャーデビュー。

日本語と英語を巧みに使いこなすリリックに定評のある作詞家として、グループだけでなく他アーティストへの作詞提供も多数。

代表作に、SixTONES「Telephone」「RAM-PAM-PAM」、Nissy「Liar」、Snow Man「HYPNOSIS」などがある。

海外での孤立体験、日本の音楽業界での挫折、双極性障害の診断など、複雑なバックグラウンドを持ち、近年はそうした内面を率直に発信。

精神疾患に対する偏見や「生きづらさ」への理解を広げる活動にも力を入れている。

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP