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クロスロード凡説

2026.06.10 公開 ポスト

働いたことない叔母さん辻皓平(ニッポンの社長)(お笑い芸人)

働いたことない叔母さんがいた。

 

 

今は知らない。働いているのかもしれない。遠くに住んでるから現状はあまり知らない。

 

それに気付いたのは一緒にショッピングモールを歩いた時だ。僕は24~25歳くらいだっただろうか。母親と、従兄弟が一緒にいたと思う。

 

目当ての物があった。誰のかは覚えてないが、これを買いたいという目的があった。

 

そういう場合、皆さんならどうするだろう。

 

 

多くの人の場合、まず何階にそれがありそうかを調べる。まぁ、エレベーターの上の方に「家電」とか「婦人服」「レストラン」みたいに、ジャンル別に書いてたりする。

 

まず働いたことない叔母さんは、一階のインフォメーションに直行する。

 

いや、悪いことではない。ただ、働いたことがないのではないかと疑われる行為ではある。

 

案内するのはインフォメーションの人たちの仕事ではあるのだが、他にも仕事はある。落とし物があったりとか、他にインフォメーションではないとできない仕事がある。

 

例えば『これは何階にありますか?』という質問を全員がしてきたらどうだろう? インフォメーションに長蛇の列ができる。他の仕事はできなくなる。だから僕は聞かない。目的の物に「近付けるところまでは自力で近付こう」と習慣的にしている。

 

だが働いたことない叔母さんは違う。そんなことは考えない。働いている人の事情は考えない。考えられないのだ。

 

そのインフォメーションで階数のヒントを手に入れた働いたことない叔母さん一行はエレベーターに乗り、その物がある階数に到着する。

 

そして、働いたことない叔母さんはエレベーターから降りるとすぐに目の前の店員さんに声を掛ける。

 

 

 

『○○はどこにありますか?』

 

 

 

と。

 

ショッピングモールなのでその店員さんは違う店の店員さんだったのだろう。少し戸惑いを見せながら、教えてくれる。『ここを曲がって真っ直ぐ行ったところに売り場があります』と。

 

働いたことない叔母さんは分からない。自分の店の物じゃないことを尋ねられる店員の心境は。

 

正直、少し仕事の範疇を半分はみ出しているような仕事ではある。ショッピングモールなので全体を盛り上げていきましょうの精神もあるにはあるだろうが、別の店、別の売上に計上される案件だ。

 

ただ働いたことない叔母さんはそんなことはお構いなし。教えてもらった道を進む。

 

いや、悪いことではない。けっして。けっして何も悪いことではないが、ただ、ただただ、働いたことない叔母さんの確率がグッと上がるのだ。それだけの話である。

 

 

 

そして売り場に辿り着いて、やることは一つ。

 

最初に見つけた店員さんに

 

 

 

『○○ってどこにありますか?』

 

 

 

 

 

そう、働いたことない叔母さん確定なのだ。

 

パチスロだったら、【働いたことない叔母さん】という文字が金色で出てくるくらい確定である。

 

 

 

自分で探すという楽しさも知らないのかもしれない。自分で探して見つけた時の嬉しさも知ってほしかったのか、僕は途中で一回言ったのだ。

 

『ちょっと自分で探してから聞いたら?』

 

と。

 

すると働いたことない叔母さんはこう言った。

 

 

 

『え? そんなん時間もったいないわ』

 

 

 

これは、働いたことない叔母さんの鳴き声のようなものだ。

 

時間もったいないと言いつつ、人の時間をたんまり奪っているのだ。

 

『働いてはるんやから仕事するの当たり前やん』

 

と言う人もいるだろう。

 

やはりそんなあなたも、あまり働いてないのかもしれない。

 

 

 

 

久々に働いたことない叔母さんと話してみたくなった。

 

 

 

 

5分で良いけど。

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クロスロード凡説

「ネタにはしてこなかった。でも、なぜか心に引っかかっていた。」
そんな出来事を、リアルとフィクションの間で、書き起こす。

始まりはリアル、着地はフィクションの新感覚エッセイ。
“日常のひっかかり”から、縦横無尽にフィクションがクロスしていく。

「コント」や「漫才」では収まらない深掘りと、妄想・言い訳・勝手な解釈が加わった「凡」説は、二転三転の末、伝説のストーリーへ……!?

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辻皓平(ニッポンの社長) お笑い芸人

1986年、京都府生まれ。

お笑いコンビ「ニッポンの社長」として、コントと漫才の“二刀流”で独自の笑いを追求。
漫才&コント二刀流No.1決定戦「ダブルインパクト」初代王者。
コント日本一を決める「キングオブコント」では、2020年から5年連続で決勝進出を果たす。

本コラムでは、日常の出来事に自由な解釈や言い訳、妄想を重ねながら、舞台とはまた違った角度で物語を綴る。
コントと漫才、どちらのネタも手がける著者が、言葉を操る“三刀流”として、文章の世界に挑む。

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