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片見里足立アフェクション

2026.05.19 公開 ポスト

インタビュー 新米編集者から小野寺史宜さんへ

全く異なる人たちを、どうしてこんなに解像度高く書けるんですか? 入社4ヶ月の新米編集者がインタビュー小野寺史宜

小野寺史宜さんの『片見里足立アフェクション』が発売になりました。「片見里」シリーズ3冊目となる本作。この1月に幻冬舎編集者となった新米編集者Iが、作家生活約20年の小野寺さんに初めての著者インタビューを行い原稿にまとめました。時々、幻冬舎生活31年目の担当編集Kも登場します。

“会話”はいくらでも書ける

新米I 350ページ超の本作。本当に面白くて、2時間ほどで読み終えてしまいました。なんといっても“会話”が面白い!

小野寺 僕、そもそも会話が多いんです。本当にずっと喋ってますよね。「2ページで一個も地の文ねえよ!」みたいな感想を言われたりすることもありますね。

新米I 女子会シーンの「彼氏ワンがなかったね。」「いや、私はツーの方がなかった」というくだり。女子会の雰囲気がすごい出ていて、どうしてこんなに分かるんだろうと驚きました。会話のモデルなどがあったりするのですか。

小野寺 モデルはないです。けど、僕、会話はいくらでも書けると思いますよ。もうずっとこうです。ただ、今回は特に多い。でも、編集者さんによっては多分削ろうとする人もいるんですよ。

担当K まあストーリーに関係ないっちゃない。だけど「こういうことを言う人」だという、人物描写としては最高じゃないですか。

小野寺 僕はそういう脂身的な部分は全部残したいんです。けど、編集者さんによっては「削りましょう」っていう人もいます。それも別に全然間違いだと思わないんですけど。でも今回は、「Kさんだから大丈夫かな」と思って書いたというようなところも多いです。

登場人物は自動で動くようになる

新米I 本作は2人の姉弟が主人公。中でも私は、姉の洋が大好きになりました。最初はただの明るい人という印象でしたが、読めば読むほど“いい女”だなと感じてきました。

小野寺 それは僕も本当に思っています。ダメだけど、この感じならどうにか女性にも嫌われないでいてくれるんじゃないかな、というのは常に考えていました。読んでいくうちにだんだん魅力が出てくるな、という気はしますね。

新米I 1作目から本作まで登場するお坊さん・徳弥も凄く魅力的な人でした。小野寺さんの描く人物は、“人間臭さ”が溢れていて、思わず好きになってしまいます。登場人物にモデルはいますか?

小野寺 モデルはいないです。基本何を書く時でもモデルは作らないようにしているので。もちろん、いろんなとこで僕自身がちょっと出てたりとかっていうのはあるんですけど、完全にこの人だという、具体的なモデルを作ることは、むしろしないようにしてます。

新米I 頭の中で作り上げているんですね。

小野寺 そうですね。書いてしばらくすると、この人はこういう状況だったら、何を喋ってどう行動するのかというのが、ある程度は自動で動くようになってきてくれます。ちゃんと、僕の中でその人を把握すればですけど。徳弥も本当にそうです。書いてても徳弥が出てくる場面は嬉しいし、読み返しても徳弥が出てくるとちょっと嬉しい。華やかな人ですよね。

あえて取材しない理由

新米I 1作目は二代目のお坊さん。2作目は、卒論を出し損ねて留年し絶望にくれる大学生。今作では恋愛を焦る35歳女性。全く異なる人たちを、こんなにも解像度高く書けることに驚きました。

小野寺 自分でも不思議ですけど、もう女性を描くことに全く違和感を感じていないです。あとは無理しないようにもしています。例えば、僕が女性を描きたいからって、お化粧の仕方とかを調べるとかは、ちょっと違うなと思う。そういうことを無理に調べて描いて出しても、多分「そんなの男が知るわけないじゃん」と思われて終わりだと思います。

担当K 確かにそうですよね。異性を描こうとすると、何か言われがちになる。「いや、こんなのないよ」みたいに。

小野寺 そういうふうに思われちゃうのは分かるので、なるべく思われないようにしています。変に女性の女性的なところには踏み込まない、というふうに。

担当K 小野寺さんが描く女性って本当に違和感がない。『タクジョ!』でも、女性タクシードライバー特有の心配事などがすごくリアルに描かれていて。あれは、取材をされたんですか?

小野寺 一応女性タクシードライバーさんにはお会いはしてますけど、細かいことを聞いてるわけではないです。こういう、お仕事のことを調べなきゃいという時は取材をしますけど、逆にしなくていい取材はむしろしない方がいいと思っています。本当はもっと、僕の想像が許されていいところもあるのに、そのお店を取材しちゃったから、その人が言うことしか書けなくなっちゃうとかがあるので。自分で見極めることが大事だと思っています。

結末は後から決まった

新米I 洋が2人の男性を天秤にかけて選ぶシーンがありました。その決め手となった理由が面白かったです。弟・央の結末とも重なる部分がありましたが、その終着の仕方も決めていたんですか。

小野寺 最初は考えていなかったです。初めに洋が片方の男性をすぐに好きになっちゃうというのは思い付きました。だけど、最後はどうしようかなと。でも途中から考えているうちに「あれ、このもう一人の男、結構いいな」と思ってきて。そこから、洋の結末も決まり、最終のプロットが完成しました。

担当K 私、洋はあの結末ですごく良かったと思います。

名前がすぐに漢字で書かれることの違和感

新米I ちなみに、書き出しにもある姉・洋の名前。これは、吉田羊さんから洋にしたのか、それとも洋から、吉田羊さんのくだりを思いついたのか、どちらですか。

小野寺 洋を決めて、吉田羊さんのくだりを思いつきました。で、さらに、大泉洋さんも同じだなと気づいて書きました。

新米I 小野寺さんの作品は、名前の由来や呼び方をすごく丁寧書かれているなと感じます。

小野寺 これはインタビューの度に言いたいんですけど、僕、名前の漢字の説明を結構するんです。よく「こんなに名前の説明いる?」という感想をいただくこともあります。けど、これにはちゃんとした理由があって、それは、僕はほぼ全部“一人称で書いてるから”なんです。一人称で書いてると、例えば、キクチさんが初めて登場して、「キクチです」と言った時に、その一瞬で“菊地”か“菊池”か、分かるわけないじゃないですか。だから書けないんですよ。漢字で書いたら絶対おかしいんです。そこは著者権限で書いちゃってもいいはずなんだけど。でも、それはズルだなって僕は思ってるので。だから、“キクチさん”って聞いた時に、カタカナで書いてから、漢字の説明を本人にさせたり、漢字の何らかの説明があったっていうことで「菊池さんだそうだ」というふうに地の文で書いたりしてます。だから、名前の説明でわざわざもったいぶったりとか、かっこつけたりとかしてるわけではないんです。一人称だから、という理由がある。これはちょっと分かってほしいです。

担当K 一人称でいきなり漢字出てこないだろう、と。

小野寺 僕は小説を書く時に制約がある方が好きなんです。例えば。一晩の話とか、一つの場所の話とか。制約がある方が、むしろ書き方が決まってくるから。一人称も同じで、三人称にしちゃうと、結局何でもありになっちゃうじゃないですか。極端なこと言えば、ミステリーで、「犯人は山田さんだったわけですが」と急に言うことができてしまう。

担当K 小野寺さんは最初に本当にしっかりと視点を決めますよね。私は編集者になって最初に「まず視点を意識する」というふうに習ったから、視点がぶれたら良くない、というのはすごくあるんです。だから小野寺さんの作品は読んでいて本当に気持ちが良い。視点がきっぱりして絶対ブレないから。

“何も起きない”中で起きること

小野寺 小説はいろんなことができるんですよね。映像だと一人称ができないじゃないですか。内面は絶対映せないから。だから僕の小説が映像化しづらいのかなとも、ちょっと思っています。映像は基本出来事しか描けないですが、僕の小説ってほぼ何も起きないので。

新米I 小野寺さんの小説、何にも起きないのに、なんでこんな面白いんだろうと思います。

小野寺 僕の小説の感想「本当に大きなことは何も起こらない」というものが5割です。でも、小さいことはすごくいっぱい起きてるんです。

新米I 今回は、いろいろ小さいこと起こっている中で、一つちょっとした事件? が発生していましたね。

小野寺「片見里シリーズ」は僕の作品の中では動きが多いものだと思います。今回も何かは起こります!

新米I とても勉強になりました。ありがとうございました!

関連書籍

小野寺史宜『片見里足立アフェクション』

小さき人生を送る全ての人に、乾杯! 生き方がバカで男運がない姉・洋。 何でもそつないエリートな弟・央。 マチアプと合コンで、それぞれ恋人ができたはいいけれど――。 不器用な二人の“不穏な”恋の行方は? 大切な人を想い合う無骨な情緒が沁みる、長編小説。

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片見里足立アフェクション

小さき人生を送る全ての人に、乾杯!

 

生き方がバカで男運がない姉・洋。

何でもそつないエリートな弟・央。

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小野寺史宜

1968年千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」で第86回オール読物新人賞を受賞。2008年『ROCKER』で第3回ポプラ社小説大賞優秀賞を受賞し同作で単行本デビュー。著書に「みつばの郵便屋さん」シリーズ、『片見里、二代目坊主と草食男子の不器用リベンジ』『片見里荒川コネクション』『ひと』『食っちゃ寝て書いて』『タクジョ!』『今夜』『天使と悪魔のシネマ』『僕は刑事です』『あなたが僕の父』『言問ラプソディ』などがある。

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