大事な本番で緊張してしまう。頑張っているのに結果が出ない――その原因は、気づかないうちに心と体に生じた「力み」にあるかもしれません。心身統一合氣道会会長・藤平信一が、姿勢・呼吸・意識を整え、本来の力を120%引き出す心得を伝える『力を抜く練習 動じない自分の養い方』が2026年4月22日に発売されました。
ロサンゼルス・ドジャースの若手選手指導でも実践された知見をもとに、緊張に負けない心身の整え方を解説した本書から、一部をご紹介します。
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「自覚できない力み」が、あなたを硬くしている
「力を抜く」ということは、実は簡単なことではありません。自分ではリラックスしているつもりでも、実際には無意識に力が入ってしまっているものだからです。
力みには、自分ですぐに気づける「自覚のある力み」と、自分では気づいていない「自覚のない力み」の二種類があります。自覚のある力みであれば、意識することで簡単にリセットすることができます。
問題は、後者の「自覚のない力み」です。
「特別なことをしたわけではないのに、夕方になるとヘトヘトに疲れている」というときは、体のあちこちに無意識の力みが生じているサインかもしれません。たとえば、考え事をして眉間にシワを寄せているだけでも、顔や首には強い力みが生じています。

それでは、この厄介な「自覚のない力み」に、どう対処すればいいのでしょうか。そのためにはまず、力みがどこからやってくるのか、その「発生源」を知ることが大切です。
実は、自覚のない力みというのは、心と体の両面から発生しています。
まずは、体の面から見ていきましょう。自分では力を入れているつもりがないのに、体に力が入ってしまう。この無意識の力みの大きな原因は、あなたの「姿勢」にあります。
自然な姿勢であれば、体は最小限の力で安定します。しかし、姿勢が不自然だと体は不安定になり、バランスを保とうとして、本来は必要のない力を無意識のうちに使い続けてしまいます。常に力みが生じていると、体はそれを通常の状態だと覚えてしまい、それが慢性的な「硬さ」となって表れます。
最も厄介なのは、本人がその力みに全く気づいていないことです。不自然な姿勢のまま体の緊張を解こうとしても、今度はバランスが取れなくなってしまうため、体は力を緩めるに緩められない状態に陥ります。こうした余計な力が入った状態が続くと、肩こりや腰痛などの不調を招き、怪我や故障の原因にもなりかねません。
これを防ぐには、まずは「自然な姿勢」を確認し、バランスの取れた状態を取り戻すことが大切です。体が正しく安定すれば、余計な力を使う必要がなくなり、無意識の力みは自然と消えていきます(※自然な姿勢を確認する方法は、第三章の『検証 あなたの体は、わずかな力で崩れてしまう』から具体的に説明します)。
次に、心の面から考えてみましょう。たとえば、道を歩いていて、向こうから不審な動きをする人が現れたら警戒しますよね。このとき、心に「ギュッ」と力みが生じると、体も連動して固まってしまいます。心の状態は体のコンディションに大きな影響を与えているのです。

心が体を動かす──。これは当たり前のことのようですが、多くの人は目に見える「体」のことは意識しても、目に見えない「心」の状態はつい忘れてしまいがちです。だからこそ、「心の力み」という観点を持つことが非常に重要です。
たとえば、考え方が頑なになっているときや、自分のことしか考えられないようなとき、心には強い力みが生じています。また、相手を自分の思い通りにしたい、コントロールしたいと思うときも同様です。
こうした心の力みは、必ず体の力みとなって表れます。この場合、体の表面だけにアプローチしても、根本的な解決にはなりません。
まずは、力みには自覚の「あるもの」と「ないもの」があること。そして、自覚のない力みの背景には、「体を起因としたもの」と「心を起因としたもの」の二つがあることを、ぜひ覚えていただきたいと思います。
力みがあるほど、外からの影響を受けやすくなる
私たちは日常的に「頑張る」という言葉を使います。現代では「困難に耐えて努力する」「あきらめずにやり遂げる」といった前向きな意味で捉えられることが多いですが、その語源の一つは「我を張る」だと言われています。つまり、「自分の意見を押し通す」ことや「融通が利かない状態」を指す言葉でもあったのです。
この語源に照らし合わせると、頑張りすぎているときほど、心身には強い力みが生じやすくなります。そして、力みが強ければ強いほど、実は心も体も「外からの影響」をまともに受けてしまうようになります。体に力が入っているときに何かにぶつかると衝撃を強く感じます。また、心に力みがあるとき、つまり過度に頑張っているときほど、周囲の言動や出来事に動揺し、大きなダメージを受けてしまうのです。

心身統一合氣道の創始者である藤平光一は、「頑張ってはいけない」と説き、どのようにすれば余分な力みを手放せるかを具体的に教えました。そのことを体感するための、次のような稽古があります。
まず、二人一組で向かい合い木剣を構えます。一人が、相手の構えている木剣を横から力いっぱい振り払おうとします。このとき、剣を構えている側に少しでも力みがあると、払おうとする力の影響をそのまま受け、姿勢が大きく崩れてしまいます。「影響を受けまい」と踏ん張れば踏ん張るほど、かえって相手の力に翻弄されてしまうのです。姿勢が崩れると、相手の次の動きに対応することはできません。
それでは、どうすれば外からの影響を最小限に抑えられるのでしょうか。そこで重要になるのが、力みのない「自然な姿勢」です。構えに力みがなく、ゆったりと落ち着いた状態でいると、相手がどれほど力任せに振り払おうとしても、こちらの姿勢は崩れなくなります。
ここで注意したいのは、「虚脱状態」にならないことです。虚脱状態と「リラックス」は似ているようで全く異なる性質のものです。この二つを混同しているために、うまく力を抜くことができない人が多いのです。
先ほどお伝えしたように、自然な姿勢であれば、何もしなくてもバランスが取れているため、安心して体の力を抜いていくことができます。しかし、不自然な姿勢でバランスが悪いまま力を抜こうとすると、体を支えられなくなってしまいます。これが「虚脱状態(ただ力が抜けてしまっただけの状態)」です。いわば「骨抜き」のような状態で、体の支えが失われていることを意味します。
これに対し、本来のリラックスとは、バランスの取れた姿勢を保ちながら、積極的に「余分な力みを手放す」ことです。

近年、スポーツ科学などの進歩により、リラックスの重要性が注目されています。しかし、正しい方法を知らないために、単に力が抜けただけの「虚脱状態」になってしまう選手も見受けられます。虚脱状態ではパワーもスピードも発揮できません。そればかりか、怪我や故障を招く原因にもなります。
持っている力を存分に発揮するためには、まず土台となる「バランスの取れた自然な姿勢」が不可欠です。その安定した土台の上で正しく力を抜くことで、初めて本来の力がスムーズに引き出されるようになるのです。
頑張っているだけでは成果は上がらない
仕事、勉強、スポーツ。どんな分野であれ、一所懸命に打ち込むことは尊いことです。しかし、ただ「頑張る」という意識だけでは、思うような成果に結びつかないことがあります。ひたむきに努力しているはずなのに、なぜか空回りしてしまう。その背景には、必ずといっていいほど「力み」が潜んでいます。
力みが生じると、私たちは外から受ける影響に対して、ひどく脆くなります。肉体的な力みは、滞りや疲労として表れるため、まだ自覚しやすいものです。しかし、精神的な力み、すなわち「心の力み」は、より深く私たちの本来の力を奪ってしまいます。
普段なら気にならないような他人の些細な言動に、心が波立ち、傷ついたり、憤ったりすることはないでしょうか。こうしたとき、心は柔軟性を失い、まるで硬い壁のように外からの衝撃を正面から受けてしまっています。特に「頑張らねば」と強く意気込んでいるときほど、心は容易に力み、周囲の状況に翻弄されやすくなるのです。
それでは、どうすればこの状態を打破できるのでしょうか。ただ「頑張るのをやめなさい」と言われても、具体的な拠り所がなければ、かえって不安になってしまうかもしれません。
その鍵は「心を静める」ことにあります。「そんなことは、特別な修行をした人にしかできない」と思われるかもしれませんが、決してそうではありません。誰にでも心を静めることは可能です。あなたがそれを難しく感じるとしたら、心を静めるための「具体的な方法」を知る機会がなかっただけなのです。

心身ともに安定し、持てる力を最大限に発揮できているとき、意識は常に下腹にあります。正確には、下腹の中でも、決して力の入らない「一点」に心が静まっているのです。
おへそのすぐ下のあたりを意識すると、そこには力が入る感覚があるはずです。「臍下丹田」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、丹田という「面」として捉えると、どうしても下腹に物理的な力みが生まれやすくなります。力みが生じるということは、外からの力とぶつかってしまうことを意味します。
そこで大切にしていただきたいのが、「臍下の一点」です。これは形のない、無限に小さな「点」として捉えます。無限に小さいがゆえに、そこに力を込めることは不可能です。力が入らないからこそ、外からのいかなる影響にも動じず、しなやかでいられるのです。意識がこの「一点」に深く落ち着いている状態を「心が静まっている」といいます。
逆に、心に力みがあるとき、人の意識は上半身や頭へと浮き上がっています。この状態を「心が上ずっている」といいます。怒り、苛立ち、焦り、緊張。こうした感情に揺れ動くとき、心は必ず上ずっています。それは過度に「頑張っている」ときも同じです。
臍下の一点に心を静める。この習慣によって、私たちはいつでも、力んでしまった自分を本来の健やかな状態へとリセットすることができるのです。なお、臍下の一点については第三章の『「臍下の一点」と「丹田」の決定的な違い』で詳しくお伝えします。
力を抜く練習

「大事な本番で緊張してしまう」「頑張っているのに結果が出ない」
――その原因は、気づかないうちに心と体に生じた「力み」にある。
「力を入れればパワーが出る」「頑張れば報われる」と考えられがちだが、実際には、力めば力むほど本来の能力を発揮できなくなることも少なくない。
本書は、合氣道の思想と体の使い方をベースに、姿勢・呼吸・意識を整えながら、余分な力を抜いて本来の力を最大限に引き出す方法をわかりやすく解説。
アスリートや経営者だけでなく、日々の仕事や人間関係のなかで、しなやかに結果を出したいすべての人に役立つ一冊。











