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いつまで自分でせいいっぱい?

2026.03.19 公開 ポスト

#99

今を見て。佐津川愛美

最近、生き急いでいる。本業のクランクインと、いくつもの締切。

プロデュースしている子ども映画ワークショップの撮影も近づき、準備も佳境に入っている。そこに確定申告まで重なっているのだから(これは早くやらなかった私が悪い)なかなかの混み具合である。

昔からテトリススケジュールには慣れているし、むしろ暇な方が苦手なため、苦ではなく、きたきたこの時期ーーーー!っという気持ちなのだが、忙しないモードが発令されると、気付くと戦闘体制になっている。そう。私が嫌いな私になりやすい。
頭の中では常に「次はこれ」「その次はあれ」と、やることのリストが更新され続けている。ひとつ終わると、ほっとする間もなく次のことを考えている。立ち止まる余白が、いつの間にかなくなっている。

そんな日々の中でも、どうしても譲れない予定があった。

 

大好きな映画『ウィキッド』の続編を初日に観ること。公開日がわかった瞬間にスケジュールに書き込み、忙しくても、この日だけは守ろうと決めていた。

劇場の暗闇の中で、物語に没頭する時間。

映画を観ているあいだだけは、頭の中のTO DOも、返信しなければいけない連絡も、すべてが遠くなる。

映画『ウィキッド』は、誰かに「悪い魔女」と呼ばれた人の物語だ。でも物語を追っていくと、その人の見え方は少しずつ変わっていく。

誰かの視点に立った瞬間、それまで当たり前だと思っていた世界が、違う顔を見せる。

人は、どこから世界を見るかで、物語が変わる。

エンドロールが流れ、劇場の明かりがついた。

余韻を抱えたまま外に出て、スマホを開く。

LINEが83件。

楽しみにしていた映画だったのに、少し後悔した。

返信が必要そうなメッセージを確認していくうちに、頭はすぐに仕事モードに戻ってしまう。さっきまで胸の中にあった映画の余韻は、どこかへ消えてしまった。やっぱり、すぐにスマホを開かなければよかった。

そう思ったのは、その日の夜だった。

預けていた荷物を取りに、姪っ子たちの家へ。ドアを開けた瞬間ぴょんぴょんして、嬉しそうに走って駆け寄ってくる。

「愛ー!」

くっついてきて、チューしてくれて、腕を引っ張られる。そのまま積み木をして、パズルをして、なかなか食べないごはんを私の膝に座ってきた瞬間に口に導く。でんぐり返し大会になったり何故かサッカーまで始まる。

子どもたちといる時間は不思議だ。

さっきまで頭の中を占めていたTO DOや連絡が、いつの間にか遠くなる。スマホを触ろうとすると
「愛ー!みてー!」攻撃に負ける。

姪っ子がソファからジャンプしてポーズを決める。

またジャンプしてポーズ。

またジャンプしてポーズ。

何回も何回も、同じことを見せてくれる。

「見てるよー!」

そう言いながら、ちゃんと見る。

ちゃんと見ると、どんどん嬉しそう加減は増えていく。

子どもたちは、褒められたことを繰り返すのか、同じことをする面白さを見てほしいのか、小さな変化を見てほしいのか。その瞬間、ふと思う。

私は今日、どれだけ「今」を見ていただろう。

壁に貼られたポストイットは減ったかと思えば増え、スマホの画面を見て、次の予定を組んで、こなして。

でも、今この瞬間を見ていた時間は、どれくらいあっただろう。

『ウィキッド』は「悪い魔女」と呼ばれた人の視点に立ったとき、世界の見え方が変わる話だった。

見る場所が変わるだけで、世界はまったく違う顔になる。

忙しい日々の中で、私はいつも「次」を見ている。

でも子どもたちは、「今」を差し出してくる。

「愛ー!みてー!」

その声は、まっすぐすぎるぐらいまっすぐだ。

未来でも過去でもなく、今この瞬間を見てほしいという声。何回も何回も言われるたびに、私は答える。

「見てるよー!」

今を見る。ちゃんと見る。世界の見え方は、どこを見るかで変わる。先を見ても、後ろをみても、何も変わらない。今、何を選択するかだ。

基本的に、いつ何が起こるかわからないから、「毎日を後悔せずに生きる」が私のモットーだけれど。それがゆらぐことも普通にある。

だから私は、ときどき立ち止まって考えなければいけない。

今日、私はどこから世界を見ていたのだろう。

明日、私はどこから世界を見るのだろう。

【嬉】感動を通り越すと
人は心臓がふるふるするんだ

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いつまで自分でせいいっぱい?

自分と向き合ったり向き合えなかったり、ここまで頑張って生きてきた。30歳を過ぎてだいぶ楽にはなったけど、いまだに自分との付き合い方に悩む日もある。なるべく自分に優しくと思い始めた、役者、独身、女、一人が好き、でも人も好きな、リアルな日常を綴る。

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佐津川愛美

1988年8月20日生まれ、静岡県出身。女優。
Instagram http://instagram.com/aimi_satsukawa

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