1. Home
  2. 生き方
  3. 私は演劇に沼っている
  4. 呑みの場に誘われない理由を、優しさのせい...

私は演劇に沼っている

2026.02.26 公開 ポスト

呑みの場に誘われない理由を、優しさのせいにする私オム(脚本・演出家)

最近、誰にも呑みに誘われなくなった。

2026年に呑みに誘われたのは新年会などの特別な会を除けば0回である。

いま「0」という文字を打って改めて自分の出不精さを実感する。あ、いや、私が出不精だから「0」ではないのか。誘われないから「0」なのか。

悲しいというより、呑みの場に必要とされていなさすぎて笑ける。

どうしてこんなにも誘われなくなってしまったのだろう。昔はもう少し誘われていた。2ヶ月の間も「0」ということはなかった。

誘われない理由を考えてみた。すぐに帰るとかやんわり断るという私の性格からくる理由は除外するので、こういう理由であってほしいという願望になる。

 

まず、犬を飼い始めたからかもしれない。

演劇人の呑み会は時間が長い。18時から呑み始めて翌朝の4時や5時まで呑んでいることはざらである。そんなに長い時間もなにを話をしているのかを改めて考えてみたが、思い出せない。はっきりと記憶に残らない、残っていなくても大して問題のない会話をしているのだ。会話の内容よりも共に朝方まで時間を過ごしたということが大切なのだと思う。

とにかく、演劇人との呑み会は日付が変わるまでに帰宅できれば早い方なのだ。

そんなに遅くまで家を離れてしまっては犬に餌をあげられない。餌あげを理由に誘いを断ったことはないが、きっと周りは「あいつは犬に餌をあげなきゃいけないからな」と気にしてくれているはずだ。

周りの人たちの優しさで私は呑みに誘われないのだ。これが誘われないひとつ目の理由。

次に考えられる理由は、いつも飲んでいるメンバーがおじさんになり始めたということだ。よく呑んでいたメンバーは30歳中盤から40歳中盤ぐらいになった。

知り合った20代の頃には毎日のように朝まで呑んでいたが、みんな歳を取り始めてアルコールを体に入れると翌日のパフォーマンスに影響するようになったのだ。老化の始まりを我々は感じている。言い方を変えれば、翌日にやり遂げなければならない仕事をより意識高く取り組むようになったということだ。素晴らしい。

老いと意識の向上によって私は呑み会に誘われなくなったのだ。これがふたつ目の理由。

最後に考えられる理由は、私が結婚をしたということだ。

私を強引に誘うことや遅くまで引き止めることは、私とその人(誘ってくれた人)だけの問題ではなくなる。妻にまで影響を与える。別に今までも強引に誘われたこともないし、妻から呑みに行くなと言われたことは一切ないが、新婚の私を周囲は気遣ってくれているのであろう。多くの人たちの心遣いによって、私は家で妻と犬と円満に過ごせている。

(いつも呑みにいく店のオーナーが昨年上演した「許溶のとき」と書いた一升瓶を打ち上げの時にくれた)

いろいろと自分勝手に、何も私に非がないように書いたが、本当の理由はわかっている。

私が帰りたい空気を出すようになったからだ。どれだけ楽しく呑んでいても、翌日にやらなければならない仕事や妻の顔が頭をよぎったり、犬に会いたくなったりすると無性に帰りたくなるのだ。いや、帰らねばならないと思うようになってしまったのだ。

その場を共に楽しんでいる人たちのことを考えると、とてもよろしくない。変えなければならない私のダメなところだ。

周りの優しさに甘えようとしたり老いのせいにしたり気遣いを理由にしたりしようとする思考に難がある私を、これまでたくさん呑みに誘ってくれた仲間たちのありがたさを改めて感じた。

誘われない理由を周りのせいにして面白おかしく書こうと思ったが、書いているうちに自分の未熟さに気づくことになり、これまでの生き方を反省することになってしまった。

辛い。

呑みに誘われずに、妻の言うことしか聞かない犬を横目にしながら部屋の隅っこでこの記事を書いている。きっと私が家にいなくてもこの家は穏やかなのだろうと思う。

とても呑みに行きたい気分だ。

 

{ この記事をシェアする }

私は演劇に沼っている

脚本家、演出家として活動中の私オム(わたしおむ)。昨年末に行われた「演劇ドラフトグランプリ2023」では、脚本・演出を担当した「こいの壕」が優勝し、いま注目を集めている演劇人の一人である。

21歳で大阪から上京し、ふとしたきっかけで足を踏み入れた演劇の世界にどっぷりハマってしまった私オムが、執筆と舞台稽古漬けの日々を綴る新連載スタート!

バックナンバー

私オム 脚本・演出家

1989年生まれ。大阪府出身。代表作は女優の水野美紀氏との共同演出作品「されど、」や映画製作予定の「忘華~ぼけ~」や朗読劇「探偵ガリレオ」などがある。身近に感じる日常にドラマを生み出し、笑いを挟み込みながら会話劇で展開する作風は各テレビ局関係者からの評価も高い。また、10代の頃から国内や海外を放浪していた経験を持ち、様々な角度から人物を描き、人間の悩みや苦悩葛藤を経ての成長に至る描写を得意とする。近年では原作のある作品の脚本演出のオファーが相次いでいる中、自身のオリジナル作品の上演を定期的に行い、多くの関係者が観劇に訪れている。

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP