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文豪未満

2026.02.14 公開 ポスト

第26回

あなたの書店で1万円使わせてください ~BUNKITSU TOKYO~岩井圭也(作家)

書店員さん個人の賞は、全国で繰り広げられている。

数多くの例があるが、たとえば、先月の取材先である佐賀之書店の本間悠さんは「ほんま大賞」を毎年発表している。岩井も以前、『横浜ネイバーズ』(ハルキ文庫)で「ユウハル賞」を受賞したことがある。(もし他にも受賞していたら岩井の見落としです。申し訳ありません。)

そして昨年末、『サバイブ!』(祥伝社)が新たに賞をいただいた。BUNKITSU TOKYOの成生隆倫さんによる成生賞である。

実際の展開の様子。

こちらのお店、BUNKITSU TOKYOは2025年9月にオープンしたニュウマン高輪にある。注目度は非常に高く、さまざまな媒体で取材されている。(私もTBSの朝の番組で、安住紳一郎さんと堺雅人さんが訪問しているのを見た。)

「文喫」といえば、「入場料のある書店」として有名である。六本木、福岡天神、栄に3店舗を展開しているが、このBUNKITSU TOKYOは最大規模の面積を誇る新旗艦店だという。店舗面積は1000坪超

この企画では、過去に「文喫 六本木」を訪れたことがある。居心地のいい素敵なお店だった。

https://www.gentosha.jp/article/27061/

オープン以来、BUNKITSU TOKYOのことは気になっていた。文喫を訪れた時の静謐な印象と、「店舗面積1000坪超」のインパクトをどのように両立しているのだろうか。成生賞のお礼の挨拶を兼ねて、「あなたの書店で1万円使わせてください」の取材をお願いしたところ、快諾いただいた。

というわけで、第26回の舞台はニュウマン高輪のBUNKITSU TOKYO。唯一無二すぎる売り場を、ぜひご覧いただきたい。

*   *   *

12月の強風の日、生まれて初めて高輪ゲートウェイ駅に降り立った。

改札を抜けると、すぐ目の前にニュウマン高輪が現れる。そのSouth 5階フロアに広がるのが、BUNKITSU TOKYOである。出版社の皆さんと合流して、5階を目指す。開店前の時間帯のため、スタッフの方に店舗まで案内していただいた。

冒頭に掲載してますが本当は中盤に撮りました。

本企画のルールは「(できるだけ)1万円プラスマイナス千円の範囲内で購入する」という一点のみ。さっそく自腹(ここ重要)の1万円を準備して、買い物スタート。

案内図を見るとわかりやすいが、このお店は割と長細い構造になっている。書店と有料カフェラウンジが共存しているところが、文喫ならではである。

縦長。

会議室やパノラマ ラウンジのある北側から、順に巡っていくことに。

眺めのいいパノラマ ラウンジは人気スポットだそうで、この日も駅前の晴れやかな光景を見下ろすことができた。

12月にはクリスマスツリーが見える。

有料のミーティングルームもある。

普通に使ってみたい。

このフロアに来た瞬間に思ったことだが、全体的に清潔な落ち着きが漂っている。もちろん、開業から間もないからということもある。しかしそれだけでなく、店舗内デザインに統一感があることも、落ち着きの演出に貢献しているのではないか。

開店前のためシャッターが閉まっています。

有料カフェラウンジ「カフェ アンサンブル」では、棚に入っている本を自由に読み購入することができる。追加料金なしで楽しめるドリンクも。

有料の軽食・ドリンクも販売している。

このカフェラウンジの本棚は、売り場とは違って少し雑然とした印象を受ける。本が表紙を向けて置かれたり、平らに積まれたり、上部の隙間に差し込まれていたりする。まるで、友達の家の本棚を覗いているようだ。これは「あえて」のことで、棚を眺めている時の視覚的な引っかかりを生むためだという。

続いて、有料カフェラウンジ「ブック ビオトープ」へ。

壁がかわいい。

ここはビオトープ(生き物がくらす場所)の名が示すように、さまざまな本がゆるやかなつながりに従って並んでいる。まるで本が生き物のように、互いに寄り添い、謙虚に縄張りを主張しながら生きているようだ。

ここの本も買えます。

集中できる半個室もあり、コンセントもほぼ全座席に用意されている。

黒幕感。

ここからいよいよ売り場へ。

入ってすぐの「odoriba」には、小学館の文芸誌『GOAT』がずらり。ちょうど、第3号が刊行された直後だった。

GOATのれんは特注だそう。

その真横には成生賞の作品が展開されていた。第4回受賞作の『サバイブ!』はひと際目立つ場所でどーんと展開されている。ありがとうございます。

成生さんと1枚。

成生賞には各部門があり、恋愛小説部門、特別部門、ベストホラー部門の作品もそれぞれ並んでいた。

『楽園の真下』の表紙の迫力。

なかでも目を引かれたのが、恋愛部門の小手鞠るい『ガラスの森/はだしで海へ』(ハヤカワ文庫JA)。『ガラスの森』は小手鞠さんのデビュー作だそうで、同じシリーズの『はだしで海へ』と合本で復刊されたそう。

主人公は天才フィギュアスケーター・佐藤可南子で、中三の夏に渡良瀬流とペアを組んで滑ることになる。コーチの山岸純子や流との関係、そして可南子の成長が描かれる物語のようだ。

スポーツ小説は数多いが、フィギュアスケートを扱った作品は多くない。あらすじから伝わるみずみずしさにも惹かれる。同じ成生賞の受賞作という縁も感じ、今日最初の1冊はこちらに決定。

表紙からもキラキラ感が伝わる。

しかし広い。什器も特注のものが多いそうで、唯一無二の雰囲気を醸し出している。

引いて撮るとこんな感じ。

続いて児童書コーナー「ときどきやま」へ。

その名の通り、なんとこの一角には「ほんのやま」がある。子どもなら、上らずにはいられないのではないか。私も実際に上ってみた。

はしゃぐおじさん。

児童書のコーナーではあるが、棚の本には硬派なタイトルも並び、大人も子どもも同じ本棚で同じテーマの本を探す楽しみを提供している。いい意味で読者を「子ども扱い」していない証拠だろう。

大人も見ごたえ十分。

そんななかで思わず手に取ったのが、森田真生『偶然の散歩』(ミシマ社)。森田さんは独立研究者で、歯ごたえのある論考も出しているが、こちらはエッセイ本。パラパラとめくってみると、お子さんとの話が豊富に収載されているようだ。

最近、エッセイを書く難しさを痛感していることもあり、いろいろな人のエッセイを読みたいと思っていたところだ。森田さんの本を読んで、勉強させてもらおうと思う。

買ってすぐに読みました。

グッズも販売している。

バッグは買うかどうかちょっと本気で悩んだ。

雑誌の一角で発見したのが、ずらりと並んだNewton別冊。理工書好きとしては見逃せない。

異様な空気を放っている。

『宇宙の未解決問題』『SFは実現可能か?』もいいけど、特に気になったのがNewton別冊『死とは何か』(ニュートンプレス)。なかでも「不老不死にどこまで近づけるのか」という一節が興味深い。

小説すばるで昨年まで連載していた小説「風車と巨人」(鋭意、刊行準備中)では、老化研究を専門とする研究者を登場させた。そのため「不老不死」という言葉には自動的に反応してしまう。

この作品に限らず、「死」は私の作品にも通底するテーマである。読まないわけにはいかない。こちらも購入決定。

この企画で雑誌を買うのは珍しい。

ライフスタイル本のコーナー「ノマドマド」と名付けられている。少し奥まった場所に、小部屋のような空間が設けられていた。

ここをくぐると……。

壁面裏には、お店を訪れた作家たちのサインがあった。僭越ながら、岩井も書かせてもらった。

小川哲さんの横に。

レジ前には文庫の棚が。こちらでは「700円」「600円」などの値段ごとに、おすすめの文庫が並んでいる。

値段ごとに分けるのは、ありそうでなかったかも。

なんとなく眺めていると、山極寿一、小川洋子『ゴリラの森、言葉の海』(新潮文庫)のタイトルが飛びこんできた。霊長類学者と作家による対談集のようだ。固定の二人による対談だけが収められた1冊というのは、意外とあまり見ない。

山極さんの対談本と言えば、鈴木俊貴さんとの『動物たちは何をしゃべっているのか?』がある。この本は、人間以外の動物のコミュニケーションを考えるうえでとても興味深かった。『ゴリラの森~』でも面白い洞察が読めそうだ。これも購入。

税込み693円。

さらに進むと、ドーム状の何かを発見。

なんだあれは。

これは「tomarigi」という本棚。人が集まる止まり木をイメージしたものである。

作者別に文庫・単行本が並んでいる。

ビジネス書や新書は、「ろじ」というエリアに並んでいる。本棚に挟まれた空間は、ちょっとした迷路のようになっている。

面白いのが、本棚に空いた「穴」だ。

本棚には1冊でも多くの本を並べたいと思うのが普通であり、棚の真ん中に穴が空いているなんて前代未聞である。しかし、「ろじ」には穴の空いた本棚がある。しかも1つではない。ドミノのように並んだ本棚の同じ場所に、四角い穴があるのだ。おかげで、はるか向こうの光景が穴越しに覗ける。

妻にこの写真を見せたら「どういうこと?」と言われました。

遊び心に溢れた売り場は、やはり他の店では見たことがないつくりだ。

くねくね。

ぎょっとしたのが、難波優輝『なぜ人は締め切りを守れないのか』(堀之内出版)というタイトル。

自分で言うのも何だが、私はほぼ締め切りを破ったことがない(どうしても間に合わなくて、渡していた原稿を分割掲載してもらったことはある。あの時はすみませんでした)。しかしこれまで締め切りを守れたからといって、これからも守れるとは限らない。本書は幸せな締め切りライフを過ごすための一助となるかもしれない。気合いとともに、買い物カゴに入れた。

締め切りを守るぞ!!

なんとなく、あと1冊くらいは買えそうな気がする。「tomarigi」に戻って物色してみることに。

何がいいかしら。

話題の本が並ぶコーナーで見つけたのが、伏尾美紀『百年の時効』(幻冬舎)

実は取材の直前、岩井の著書『汽水域』(双葉社)が、第28回大藪春彦賞にノミネートされたことが発表された。その候補5作品のなかに、『百年の時効』も入っていたのだ。選考会は1月23日。この時点では受賞作は決まっていない。(追記:その後、第28回大藪春彦賞は『百年の時効』に決定しました。伏尾さん、おめでとうございます!)

刊行直後から「『百年の時効』が面白い」という話は聞いていたため、いつか読もうと思っていた。しかし同じ賞の候補となったからには、「いつか読もう」では済まない。ライバルの視察は必須だ。(今さら著者にできることは、何もないのだが……。)

同じ回で候補になったのも何かの縁。今日最後の1冊はこちらに決定。

負けないぞ!!

今回買ったのは6冊。小説、エッセイ、評論、雑誌と多様な顔ぶれになった。

読むのが楽しみ。

いざレジへ。お会計はもちろん成生さん

お願いします。

若干オーバー気味な気もするが、果たして総額いくらになるのか。結果はこちら。

危なかった。

10626円。まあ、まあ……プラス千円の範囲内なのでセーフでしょう。

素敵なブックカバーは2種類。私は1冊ずつカバーをかけてもらった。

左はyasuo-rangeさんの描きおろし。

*   *   *

BUNKITSU TOKYOは文喫の新旗艦店だけあって、見どころ盛りだくさんの店舗であった。充実したカフェラウンジ、唯一無二の体験ができる売り場、そしてスタッフの皆さんによって整備された本棚。いずれの要素からも「リアル書店でしかできない体験」へのこだわりが滲んでいる。そして、文喫の他店舗を訪れた時に感じた居心地のよさと、大規模店ならではの迫力、その両方を感じることができた。

オリジナルの什器などハード面に目がいきがちだが、注目すべきはソフト面、すなわち選書だ。ベストセラーや話題書、定番だけでなく、「ここでしか会えない」本たちと出会えるのは大きな魅力である。今回購入した本のなかにも、他のお店ではなかなか遭遇できないだろうタイトルが含まれている。

「入れ物」を変えるには時間も手間もかかるが、「中身」は絶え間なく変化させることができる。選書は人の営みであり、そこに書店の魂が宿るはずだ。自然界では、環境変化に適応した個体が生き残る。同じように、BUNKITSU TOKYOも時代とともに変わり続けることで、輝きを保ち続けるだろう。

 

それでは、次回また!

 

【今回買った本】

・小手鞠るい『ガラスの森/はだしで海へ』(ハヤカワ文庫JA)

・森田真生『偶然の散歩』(ミシマ社)

・Newton別冊『死とは何か』(ニュートンプレス)

・山極寿一、小川洋子『ゴリラの森、言葉の海』(新潮文庫)

・難波優輝『なぜ人は締め切りを守れないのか』(堀之内出版)

・伏尾美紀『百年の時効』(幻冬舎)

関連書籍

岩井圭也『夜更けより静かな場所』

”人生は簡単じゃない。でも、後悔できるのは、自分で決断した人だけだ” 古書店で開かれる深夜の読書会で、男女6名の運命が動きだす。直木賞(2024年上半期)候補、最注目作家が贈る「読書へのラブレター」!一冊の本が、人生を変える勇気をくれた。珠玉の連作短編集!

岩井圭也『プリズン・ドクター』

奨学金免除のため、しぶしぶ、刑務所の医者になった是永史郎(これなが しろう)。患者たちにはバカにされ、ベテランの助手に毎日怒られ、憂鬱な日々を送る。そんなある日の夜、自殺を予告した受刑者が、変死した。胸をかきむしった痕、覚せい剤の使用歴……これは自殺か、病死か?「朝までに死因を特定せよ!」所長命令を受け、史郎は美人研究員・有島に検査を依頼するが――手に汗握る、青春×医療ミステリ!

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文豪未満

デビューしてから4年経った2022年夏。私は10年勤めた会社を辞めて専業作家になっ(てしまっ)た。妻も子どももいる。死に物狂いで書き続けるしかない。

そんな一作家が、七転八倒の日々の中で(願わくば)成長していくさまをお届けできればと思う。

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岩井圭也 作家

1987年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。2018年「永遠についての証明」で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュ ー。著書に『夏の陰』( KADOKAWA)、『文身』(祥伝社)、『最後の鑑定人』(KADOKAWA)、『付き添う人』(ポプラ社)等がある。

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