1. Home
  2. 生き方
  3. 山野海の渡世日記
  4. 勇者ヨシヒコと男はつらいよ

山野海の渡世日記

2025.12.25 公開 ポスト

勇者ヨシヒコと男はつらいよ山野海(女優、劇作家、脚本家)

気がつけば師走。

毎年のことながら時の早さに驚きつつ、日々仕事をしている毎日。

寒かったり暖かかったりで体調の管理も大変。

皆さまは元気でお過ごしでしょうか?

 

 

さて、私はと言えば

一月本番の舞台の稽古真っ最中。

そしてありがたい事に、一月期の連ドラのレギュラーも決まって

舞台の稽古と撮影でドタバタしていて、まさに幸せな師走を体感している。

 

先日、舞台稽古の休憩時間に、演出部の同世代の男性と雑談していた。

その男性に「年末年始はどうするんですか?」と尋ねると

「義母が今年亡くなったので、諸々を整理しに妻の実家に行きます」と答えた。

「50代60代はそういうお年頃なんですよね」と私が答えて休憩が終わった。

 

その日の稽古場からの帰り道、私は思い出していた。

身内が三年立て続けに亡くなった時のことを。

5年前に母が。4年前に伯母が。そして3年前に夫が。

時薬というのは本当の事で、今ではだいぶ立ち直っているが、そりゃあ人が亡くなるというのは、なんとも切なくて辛いもので、当時はずいぶん落ち込んで、親しい友人たちにとても救われた。

 

それでふと思い出したことがある。

 

今も当時も、何があっても仕事は休めないし、大人なんだから気丈に振る舞うのは当たり前のこと。

仕事場では変わらず明るく元気なよく笑うおばさんとして、立ち回っていた。

休みの日は休みの日で、親しき友人たちが私を一人にしないように、食事に連れ出してくれていた。

それでも、たまに一人になりたくなる時があった。

そんな時は犬猫と遊びながら、映画や昔のドラマを見ていた。

頭の中に違う情報を入れないと、亡くなった人たちのことで後悔が押し寄せてくるから。

ただ映画やドラマは人が亡くなるシーンが多い。

いや、私だってそういうシーンを演じた事が数えきれないほどあるし、物語の重要なシーンであることも分かっている。だからそういうシーンを否定しているわけではない。

とにかく当時の私は、たとえ物語でもそれを見るのが辛かった。

でも、何か見たい。

そんな時、その状況の私が唯一見られた作品が

「男はつらいよ」と「勇者ヨシヒコ」である。

「男はつらいよ」に関してはもう40年も前から見続けている映画で

なんならセリフを覚えてしまっているシーンがいくつもある。

それでも、登場人物たちの底抜けに明るく、元気な姿を見て私も少し元気になった。

寅さんの一挙手一投足に笑って泣いた。

でも、寅さんが恋をしてフラれるシーンは早送りにしていた。

物語とはいえ、人が辛い気持ちでいるのを、当時の私は見ていられなかったから。

だから面白いシーンだけをかき集めて見続けた。

 

そして「勇者ヨシヒコ」

実は私もその昔、ワンシーンだけ出演したことのあるドラマ。

このドラマ、とにかくバカバカし過ぎて、割とキツい状況にあった私でも、何度も大笑いをした。

前に見ているから全部知ってる話なのに、その都度新鮮に笑った。

 

気がつくと私の心は、不思議と少しだけ軽くなっていた。

 

いや、当時はそれさえも自覚する余裕がなかったが、今思い返せば

「男はつらいよ」と「勇者ヨシヒコ」を一人で見ていた時間は、確かに私の心に活力と元気と笑いをくれたのだ。

私は強く思う。

笑いは人の心も救うし、世界平和に繋がるのだ! と。

 

その「勇者ヨシヒコ」の監督でもある福田雄一さん脚本・監督の映画

「新解釈幕末伝」が只今絶賛公開中です。私も旅館の女将役で出演してます。

私も試写を見せていただきましたが、涙流すほど笑いました。

色んなものを笑いで吹き飛ばしたい方にぜひおすすめです!

 

さて、結局今年も笑いの話で締めくくる事になりました。

今年も読んでくださった皆さま、ありがとうございました。

来年が皆さんにとって笑ってばっかりの一年でありますように。

私のオールアップの時

 

{ この記事をシェアする }

山野海の渡世日記

4歳(1969年)から子役としてデビュー後、バイプレーヤーとして生き延びてきた山野海。70年代からの熱き舞台カルチャーを幼心にも全身で受けてきた軌跡と、現在とを綴る。

バックナンバー

山野海 女優、劇作家、脚本家

1965年生まれ。東京新橋で生まれ育ち、映画女優の祖母の勧めで児童劇団に入り、4歳から子役として活動。19歳で小劇場の世界へ。1999年、劇団ふくふくやを立ち上げ、全公演に出演。作家「竹田新」としてふくふくや全作品の脚本を手がける。好評の書き下ろし脚本『最高のおもてなし!』『向こうの果て』は小説としても書籍化(ともに幻冬舎)。

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP