齢五十も過ぎて、人生初の「推し」ができ、老化する一方の身で西へ東へ遠征する。心は軽いが身体は重い。ままならぬことばかりの50代オタ活考察記!
8年ぶりに会った従兄の子どもたちに、「50歳すぎてからオタクになったよ」とカミングアウトしてみたら…!?
今月、母の故郷に帰省し、約八年ぶりに従兄の子どもたちに会った。小学生だった次女は来年二十歳を迎え、高校の合格発表を一緒に見に行った長女は就職して家を出ているという。
会わずにいた歳月の間に高校や大学に入ったり出たり、車の免許を取って運転するようになったり、恋人が出来たり、結婚を考えたりと、大人の階段を駆け上がった彼女たちに「香織ちゃんは? 何かあった?」と聞かれた。
いやー香織ちゃんは、特に大きな変化はないなあ。四十代から五十代になったけど、むしろ人生の階段は下ってるし。恋人とかできないし? あ、変形性膝関節症になったよー。あと前歯をインプラントにしようとしてる! それがすんごいお金かかってさあ……と勢いづきかけたところで、違う違う訊ねられている「何か」とは、そういうことではなかろう、と気が付いた。
違う違う違うのは分かる。でもじゃあこの場での正解は何? 病気や体調や物価の変化による不安や不満は、八年ぶりに会った十九歳&二十三歳の女子を相手に相応しい話題ではないだろう。でも、じゃあどんな話なら誰もしらけず、呆れず、ムカつかず、「いい感じ」にこの場をやり過ごせる?
いやいや「やり過ごす」などと言っては語弊がある。なんというか、私としては、上は九十歳から下は二歳まで、めったに会うことのない親戚一同が集うこの場が、朗らな軽く盛り上がるふわっと明るい空気に包まれることを望んでいるのだ。誰も傷つかず、傷つけず、和やかな雰囲気を。それに相応しい話題とは……と十秒考えてハッ! と閃いた。
「香織ちゃんはねぇ、五十歳過ぎてからオタクになったよ!」
どうだ! なかなかインパクトのある話題じゃなかろうか。少なくとも白内障の手術予定を聞かされるよりは興味を引くはず、と思われた。案の定、ふたりからは「え――!?」「どうしたのー!?」「何でー?」「何のー?」と楽しそうな反応が。いいぞいいぞと荒くなりかけた鼻息を抑えつつ「(旧)ジャニオタです!」と言ってみたところ、すかさず「わー、スタエン!(STARTO ENTERTAINMENT)」と新社名の略称が返ってきた。
ジャニーズからSTARTO社になったことを踏まえた上で、瞬時にその略称=スタエンを口にできるということは、つまり彼女たちも界隈オタクの可能性があるのではないか。地方住みの若者ゆえ、そうそう遠征するのは難しいだろうけど、もしやどこぞのグループのFCに入っていたりするかも?
やっぱりスノ(Snow Man)かなー、今だったらタイムレス(timelesz)もある? あー、場所的に関西……なにわちゃん(なにわ男子)とか? えっ?
ってことはAぇ(Aぇ! group)の可能性も!? もしや同担(同じタレントを好きなファン同士の意味)だったりして!? ひゃー! ほぼ三十五歳年下の同担なんて、いいじゃん、楽しいじゃん! と今度は約三秒で考え、わくわくしながら「そうそうスタエン! 好きなグループとかいる?」と訊いてみた。
……まあね。いや、そういい感じの話になんてなるわけもないですわよね。
ニコニコしつつも、あっさり「別におらん」と言ったふたりの現推しは「ミセス」(Mrs. GREEN APPLE)と、全然知らないYouTuberだった。
で。これがまあ驚いたことに、そのYouTuberは、ヒカキン、はじめしゃちょー、東海オンエアみたいな有名どころではなく、私としては一度も名前を見聞きした記憶がないYouTuberで、つい「え? その人有名?」と言ってしまったのだが、「有名だよ! ヒカキンより登録者数多いよ!」と一笑される事態に。そうか、そうなのか。
振り返ってみれば、5年前まで現在の推し界隈のことでさえ、事務所に「ジュニア」というデビューしていない研修生のような存在がいるとは認識していたものの、そこにどんなユニット(グループとはまたニュアンスが違う。もちろん当時はその違いも知らなかったけど!)があるかなんてまったく知らなかったし、知りたいとも思っていなかった。Snow ManもSixTONESもTravis Japanだって知らなかった。
長年、本を読んできて、一冊の本をきっかけに興味が広がり、世界が広がっていく楽しさを何度も味わってきたけれど、それは読書に限った話ではなく、あらゆる趣味に、いや生活全般に共通することなのだな、と改めて気付かされたような。今になって(五十七歳です)「興味」と「関心」が人生にとって思っていた以上に重要なのかもしれないと思い至ったような。
結果。「で、香織ちゃんはどこ担なのー?(どこのグループのオタクですか? の意味)」と訊かれ「Travis Japan!」と元気よく応えたら「あー! トモノリジンナイ!」と爆笑されて場は大いに和んだ。良かった。知られてる! と内心ホッとしながら、私も笑った。
より充実したオタ活生活に!<今月のオタ助け本>
『アウト老のすすめ』(みうらじゅん 著/文藝春秋)1540円(税込)
齢67にして涸れるれることなく湧き続ける興味と関心。<もう、好き嫌いなんて言ってる場合じゃない。生き物には寿命があるからだ>と少しでも気になったものには食らい付く姿勢が素晴らしい。欲求、欲望、無謀な野望。想い出って美しい(とも限らない)とセンチメンタルにさえなる「週刊文春」連載の「人生エロエロ」を加筆修正したエッセイ集。
だらしなオタヲタ見聞録

20年以上、毎日300~500歩程度しか歩いていなかった超絶インドアだらしな生活だったのに、突然フッ軽オタ道を走り出したこの数年。もう「いつかそのうち」なんて言ってられん! 見たいものは見ておきたい! 寄る年波を乗り越えて、進め! ヨタヨタオタヲタ見聞録。
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