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山野海の渡世日記

2025.11.25 公開 ポスト

趣味を見つけました山野海(女優、劇作家、脚本家)

今年は夏が終わって、秋が一週間くらいしかなくて、すぐに冬。

慌てて冬支度をするも、近頃また秋らしい、いい季節になってきた。

我が家から世田谷公園が近く、犬を連れてよく散歩に行くのだが

この季節、おそらく犬にとっても最高で

しかも我が家の麦(13歳の女の子)が枯れ葉を踏むのが大好きで

枯れた葉っぱをガンガン踏んで、嬉しそうにしている。

 

ちなみに空(14歳の男の子)全く興味はなし。

麦が楽しそうに枯れ葉を踏んでる横で、自分に出せる最大限のフンを出そうと頑張っている(もちろんいつでも、犬のフンはビニールに入れて自宅に持ち帰ってます)

 

さて、そんな今日この頃。

私は趣味を見つけた。

 

前回このエッセイで趣味が全くなく、仕事がない時、酒を飲まない日の時間を持て余していると書いたが、ついに、とうとう見つかった。

 

任天堂Switchを買ったのである。

実はずいぶん前から欲しかった。

ずっと迷っていたのは、買ったとしても使い方が分からず、絶対途中で投げ出す自信が私にはあったから。

 

だが、出会いは突然来る。

ひょんなことから古い友人の息子さんのR君と食事をしていた時に、とあるゲームを勧められた。

それは「ペルソナ5」というロールプレイングゲームで、世界中で人気のゲームなんだとか。

しかもR君はこうまで言った

「このゲームを最後までやり切ったら、海さん泣きますよ」

 

私は思った。ゲームで泣くってどういうこと? と。

でも彼は、やってみれば分かると自信満々に頷いた。

40歳も下の若者にこんなに言われたら、買ってみたくなるじゃない。

この時点で買うことに決めた私はR君にお願いをした。

「私はここ30年ゲームなんてやっていない。ゲーム的な知能は3歳くらいだ。だから手取り足取り全部教えてほしい。なんならゲーム機が届いたら設定やらゲームの遊び方まで最初から教えてほしい」と。

 

それから三日後。とうとう買った。任天堂Switchを。

新しく出た任天堂Switch2を買わず、古い方を買ったところに私のおばさん魂が宿っている。

 

ゲーム機が到着した翌日

約束通り、R君がわざわざ我が家までやってきてすべての段取りをやってくれた。

設置も終えて、さて彼が最強に面白いと言った「ペルソナ5」を始めようとした時に私は彼に言った。

「前回も言ったけど、とにかく三歳児に教えるように優しく教えてくれ」と。

彼は気の優しい素敵な若者で、本当にゆっくりと丁寧に教えてくれた。

きっとたくさんイライラしたことだろうと思う。

だって私はコントローラーもうまく使えず、ゲーム上で主人公があっちゃこっちゃに行ってしまって、画面を見ている私が船酔いみたいになったんだから。

でも、それでも優しく教えてくれた。

 

そうやって教えてもらってから1時間くらい経った頃か。

私はもう楽しくてワクワクしていた。

彼が勧めてくれた「ペルソナ5」というのは、ロールプレイングとアニメが合体したような楽しさがあり、画面も綺麗で、しかも、私はそのゲーム上では高校生で、世界を救ったり、高校生活を楽しんだり、なんと恋人まで作れるのだ。

ああ、私がこんなに説明しなくても、みなさんご存知だろうとは思うけど筆が止まらない。

 

そうこうしているうちに夜もふけていき、明日の仕事もあるからとR君は帰って行った。

彼を見送り、その背中を見ながら後悔した。

こんなに優しく教えてもらったのに、ケンタッキーしかご馳走できなかった。

いつか必ず高級焼肉をご馳走しよう。

いや、それも大事だが、このゲームを最後まで楽しもうと誓った。

それが彼に対する最大限の恩返しだと。

 

その翌日から三日間仕事だった。

その間もずっと「ペルソナ5」のことが気になっていたが、もちろんゲームをする余裕はない。

 

さて、やっと休みの日になった。

R君が教えてくれたから、前回の続きからゲームを始めた。

操作の方法も全部頭に入ってるから、ゲームをどんどん進められる。

楽しい! ワクワクする! ゲームの中で新しい高校に転校したり、突然悪者が出てきて戦って、倒したり。

ああ、どうしよう。今日は徹夜でゲームしちゃうかもと思ってた矢先。

敵を倒したはいいが、その場所から出られなくなった。

もちろんゲームの中で地図もある。それも見たのに地上に出られない。

うろうろするうちに2時間経ってしまった。

 

私はそれ以来「ペルソナ5」をやっていない。

R君。これを読んだらまた我が家に教えてきてね。その時は必ず焼肉奢るから。

趣味とは本当に大変なものである。

ゲーム機に全く興味のない空と麦と水玉。

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山野海の渡世日記

4歳(1969年)から子役としてデビュー後、バイプレーヤーとして生き延びてきた山野海。70年代からの熱き舞台カルチャーを幼心にも全身で受けてきた軌跡と、現在とを綴る。

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山野海 女優、劇作家、脚本家

1965年生まれ。東京新橋で生まれ育ち、映画女優の祖母の勧めで児童劇団に入り、4歳から子役として活動。19歳で小劇場の世界へ。1999年、劇団ふくふくやを立ち上げ、全公演に出演。作家「竹田新」としてふくふくや全作品の脚本を手がける。好評の書き下ろし脚本『最高のおもてなし!』『向こうの果て』は小説としても書籍化(ともに幻冬舎)。

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