12月3日(水)19時半より、上野千鶴子さん、鈴木涼美さん、伊藤比呂美さんによる、オンライントークを開催します。テーマは、「結婚すること、産むこと、育てること。そして老いること、ケアすること」。開催を前に、昨年6月のお三方のトークをまとめた電子書籍「限界から始まる、人生の紆余曲折について」より、一部を抜粋してお届けします。ここから1年半経った12月3日のトークもぜひご覧ください。

因縁が深い3人
上野 テーマが「人生の紆余曲折について」ですが、この3人には人生の紆余曲折が色々あります。なにしろ伊藤比呂美さんは結婚・離婚・出産・子育て、さらには介護までひと通りこなしてきた熟女。鈴木さんは風俗業界、大新聞記者を経て、フリーランスに、そして作家の道を歩むという紆余曲折を辿った娘世代。
私は顰蹙を買いながらおひとりさまを通し、ついに結婚歴もある高齢者。それに加えて、私と伊藤さん、私と(鈴木)涼美さんとの間には、共著を出したことがあるという共通点があります。30年ほど前に出した伊藤さんとの往復書簡『のろとさにわ』(平凡社)では、私も柄にもなく詩など書いてしまいました。その30年後に、涼美さんとの『往復書簡 限界から始まる』が実現しました。
こういうコラボは、自分の思いがけない面が相手によって引き出されるので、大好きです。このおふたりとこうして一緒に喋る機会があるとは夢にも思いませんでしたが、伊藤比呂美さんに文庫版の解説を頼みたい、という点では涼美さんと意見が一致しました。
鈴木 はい。伊藤さんにお願いしたかった理由はいくつかあります。1つは、本書では「母と娘」の章が最も大きな反響をいただいたのですが、私も上野さんも娘ではあっても母はやったことがない。娘を持つ母親である伊藤さんに入っていただけば本が多面的になるのではないか、ということでした。
もう1つは、私の母が伊藤さんの大ファンで、私自身、常に作品に触れていたということ。文字を知る前の幼少期から伊藤さんの子育て本『おなか ほっぺ おしり』を絵本代わりに見ていたくらいです。上野千鶴子さんとの共著を出すこと自体、若い頃の私には考えられなかった偉業なのですが、そこに人生の最初期から触れてきた伊藤比呂美さんの解説が入るというのは非常に大きなことで、ぜひという感じでした。
上野 この3人は、本当に因縁が深いんですよね。
伊藤 上野さん、私たちのその共著、文庫になったとき、解説を誰が書いてくれたか覚えてます?
上野 え、誰だっけ。あっ、石牟礼さんだ!
伊藤 そうなのよ。石牟礼道子さんなのよ。
上野 平凡社に伊藤比呂美ファンの編集者がいて、セレブ向けの雑誌「太陽」で1年間12ヶ月連載したんだけど、まったくの場違いで、読者からは反応無し。だからかえってのびのび好き放題できました。単行本の『のろとさにわ』もさっぱり売れなかった(笑)。涼美さんとの共著は売れたけど、あの本は売れませんでした。そこが大きな違いです。
でもエッセイばかり売れていた比呂美さんに、「子育てエッセイなら他の女にも書ける、伊藤比呂美の詩は伊藤比呂美にしか書けない。あなたは詩を書くしか芸がないんだから、詩を書きなさい、私が〝さにわ〟(審神者/解説者)をやるから」とあっというまに12ヶ月分の連載のシノプシスを作って送ったんですよね。
伊藤 すいませんでした(笑)。私がいけないんです。
上野千鶴子が中国でウケる理由
鈴木 『往復書簡 限界から始まる』は、中国で大ベストセラーなんですよね。
上野 そうなんです。涼美さん、なぜ中国の女性にウケたと思う?
伊藤 ちょっと言わせてくれる? 私、つい数ヶ月前に中国ツアーに行ったんですよ。そしたら上野千鶴子人気がすごくて、すごくて。どの大学でも、背広姿のおっさん教授が上野さんの名前を出してくるの。本当に迷惑だったわ。この本の中国版も、訪問先の出版社にドーンと積んであった。
上野 中国ではこの本の前にも、田房永子さんとの共著『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』が2022年のベストセラー1位になりましたからね。
伊藤 すごい! 中国の大学を回っていて毎回言われたのは、「フェミニズムは説いてもいいし、フェミニストを公言するのもOK。でもフェミニズムの元になるような女の不満は中国にはないから、女はみんな問題意識を持っているというようなことを、中国の大学生に吹き込まないでくれ」ということでした。
上野 私が中国研究者じゃなかったから良かったのよ。私がやったのは日本社会批判。だから日本社会を批判すればするほどウケる(笑)。
伊藤 なるほど。そりゃそうでしょうね。ただ、数年前に『82年生まれ、キム・ジヨン』という韓国の小説が日本ですごく売れたでしょう? あのときも、日本の人たちは韓国の話だと思って読んでいたけれど、実際には「私たち」の話だったわけでね。きっと中国でも同様の感じで売られているんだろうな、って。
でも編集者や翻訳者など、作っている中国の人たちは、みんなすごく面白い女なのよね。
上野 そうよね。都会的で高学歴で、悩みの性質も日本とすごく似ている。涼美さんと私の本は、かなり際どい内容なのに、なぜ中国の人にウケたんだと思う?
鈴木 私は当初、中国で上野千鶴子ブームが起きているのも、この往復書簡本がウケて、日本の10倍も売れているというのも、すごく意外でした。というのも、私の中で中国は女性の社会進出も早く、強い女性が続々と社会に出ている国というイメージだったからです。日韓の悩みの同質性は感じたことがありましたが、中国の文脈は日本とは違うだろうと思っていた。でも、中国メディアからインタビューを受けた際に、「中国の男性はどうですか」と聞いてみると、どの女性も男性への絶望感が極めて強かった。「中国男性とは絶対セックスしたくないし、結婚もしたくない」と言う人ばかり。フェミニズム系の出版社やウェブメディアの人たちだったからかもしれませんが、私が上野さんにした質問「なぜ男性に絶望しないのか」は、同年代の中国女性たちにも共通するのだな、と。大きな学びになりました。
上野 私も中国の読者とオンラインでやり取りする機会があると、まず「日本の読者と中国の読者、どこが違いますか」と聞かれますが、違いを感じたことがほとんどないのよね。都市生活をしている高学歴者で、ネオリベの市場経済に参入していく女の子たちの悩みは、国にかかわらずとても似ています。おまけに少子化だから、母と娘の関係や、結婚や出産、そして性の自由市場での問題は、どの国でも大きな主題です。この本の冒頭に出てくる「エロス資本」の中で生き延びていく女の子たちの悩みは、全世界共通だなと思います。
鈴木 「中国の男性はダメです」と言うときの語気の強さは、日本の女性以上でした。「男性とどうコミュニケーションをとっていますか」とか「中国男性と理解し合えますか」と聞いても、みんな「無理です」「嫌いなので」と受け付けない(笑)。
【お知らせ】
12月3日(水)19時半~21時半、上野千鶴子さん、鈴木涼美さん、伊藤比呂美さんによるオンライントーク「結婚すること、産むこと、育てること。そして老いること、ケアすること」を開催します。
詳細・お申込みは、幻冬舎カルチャーのページをご覧ください。
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