使用機材<RicohGR3>
本稿がネット上に公開される頃には、私の新連載が某老舗月刊誌で始まっているはずだ(締め切り守っていればの話だが)。
先般、大阪取材に出かけた。お供は某社のベテラン編集者N氏。私は五八歳、N氏五五歳、冴えないおじさん二人旅だ。
訪れた先は、大阪の住宅街が大半で、キタやミナミの映える大型商業施設、あるいは有名なアミューズメントパークなど皆無だ(ストーリーの展開上、一部は除く)。
本稿で詳しい話は明かせないが、大阪の人々が物語の中心を占める予定なので、実際に庶民が暮らすエリアに足を向け、地下鉄駅周辺の様子、商店街の息づかい、町を歩く人々の声に耳を澄ませるのが今回の取材のテーマだった。
とはいえ、初めて仕事をするN氏は存外に厳しく、〈そろそろタクシー乗ろうよ〉とグズる私を叱咤し、〈電車に乗ってこそ〉と許してくれない。
〈次は○△線の駅で乗り換えて、三番目の駅で降車、その周辺が目的地です〉等々、巨体を揺すりながら私を引っ張り回したのだ。
二日間のロケハン中、私のスマートウォッチの歩数計は四万歩近く(二五キロ以上)に達し、消費カロリーも鰻登りとなった。道中、作品のディテールに活かすため駅の案内図や駅前ロータリーの表示、商店の看板など手当たり次第に撮りまくった。
ロケハンで歩き回れば、喉も乾くし、腹も減る。その点、ベテラン編集者N氏の事前準備は抜かりがなかった。
〈小洒落た店で飲食できない病〉の重篤患者である私の性分を事前にリサーチしていたのだ。二人で厳正な審査を行った結果、ロケの最終地点近く、ミナミの一大ターミナル、難波駅周辺のディープエリアの激渋居酒屋をチョイスした。
スマホの地図アプリを頼りに訪ねてみると、染みだらけの暖簾、破れた赤提灯が下がる店が目の前にあった。
中をうかがうと、地元のおっちゃんやおばちゃん達がカウンターで飲んでいる。知らない土地の居酒屋に入るのは得意だが、大阪では滅多にない機会。一瞬躊躇したあと、N氏と頷き合い、気合いで入店した。常連客の視線が一斉に集まるのを感じつつ、丸椅子に座って速攻で生ビールをオーダーした。
私の目の前には、牛すじを煮込んだ〈土手焼き〉の鍋。冷蔵ケースの中には、魚介の味醂干しや刺身、野菜がずらりと並んでいる。早速土手焼きやらポテサラなどをオーダーし、周囲の会話に耳を澄ました。
〈今年の阪神は……〉、〈最近の国会議員はアレやな〉、〈町内会のソフトボール大会の景品選びで難儀した〉等々、地元言葉が次々に耳に届き、私の創作意欲を刺激するではないか(いや、本当だから)。
二日間、大阪の映えない場所(失礼)を歩き続け、ロケハンは無事に終了した。もちろん、早めに新大阪駅に到着し、新幹線に乗る直前までジョッキ片手に反省会を開催したのは言うまでもない。終始一貫、映えないおじさん旅だった。
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勝手に!裏ゲーテ 街場の旨いメシとBar

食い意地と物欲は右に出るものがいない作家・相場英雄が教える、とっておきの街場メシ&気取らないのに光るBar。高いカネを出さずとも世の中に旨いものはある!
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