菊池良さんが、2010年代のTwitter・読書アカウントをテーマにした恋愛小説『本読むふたり』を上梓しました。
村上春樹、島本理生、森見登美彦、中田永一、宮下奈都、朝井リョウ……。読書好きならピンとくる作家名、作品名が多数出てくる本作は、Twitterの読書アカウントを通じて出会ったふたりの男女が、恋をして、思いを繋げあい、そして――と、ピュアな恋愛を描いた作品です。あの頃の書店の情景や、牧歌的だったTwitterの雰囲気も感じられる一冊となりました。
今はXと名を変え、当時とは雰囲気も変化してしまったTwitterへの惜別の気持ちも込めてお書きいただいた本作。菊池さんは「世界一即戦力な男」というウェブサイトを立ち上げたり、ウェブライターとして活動したり、もともと‟ネットが出自”な作家。「ニート」を名乗りつつ、ネットの仲間とともにシェアハウスを作るなど、同じく‟ネットが出自”とも言えるphaさんに、お読みいただきました。
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最初の気持ちを思い出す
まったく本を読まない主人公が、村上春樹の短編「かえるくん、東京を救う」を大学の授業の課題で読んだことをきっかけに、読書の面白さに目覚めていく。
この本を読んだ他の人はどういう感想を持ったのだろう。そう思ってネットで検索をした彼は、ツイッターには本の感想ばかりを投稿している読書アカウントというものがあることを発見する。いろんな読書アカウントをたどっていくうちに、彼はひとりの女性のことが気になり始める。
島本理生『ナラタージュ』、森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』。そういった本の感想をつぶやくことをきっかけに、彼女との距離は接近する。神保町で書店巡りをしたり、駒場の日本近代文学館に行ったりと、本にまつわる場所でデートを重ねていく。
しかし、もともと本を読む文化で育った人間ではない主人公と、自分で小説を書くような彼女のあいだには背景の差があって、二人のあいだには少しずつずれが生じていく――。
いやー、いいですね。
主人公が「ツイッターってどう使えばいいんだろう?」って感じでおそるおそる触り始め、「知らない人の感想がたくさんあってすごい!」「え、知らない人に話しかけたり交流したりもできるの?」「実際に会ったりもできるってこと?」と、少しずつツイッターにハマっていく様子が丁寧に描写されているのがとてもよかったです。今はもうXなんていう口に出すのもちょっと恥ずかしいような名前になってしまったツイッターがまだ希望に満ちていた頃のネットの雰囲気をひさびさに目にしてめちゃめちゃ懐かしい気持ちになりました。
あの頃は、気になる人にいいねしたりエアリプ(@を付けずに話しかけること)したり、相手からいいねがつきそうなことをつぶやいてはいいね欄を何度もチェックしたり、そういうのを繰り返したあとで実際に会って仲良くなったり、本当にネットが楽しかったな……。今ではインターネットは人の怒りを煽るようなつぶやきばかりが拡散されて、迂闊なことをちょっとでもつぶやくとすぐに炎上する地獄空間になってしまいました。

気付けばもう20年くらいネットに入り浸っていて、ネットは最初から空気のようにそこにあるもので、最初にネットに触れたときのワクワクやドキドキをすっかり忘れてしまっていたけれど、そういえば最初はこういう気持ちだった。その気持ちを思い出させてくれたことに感謝したいです。
そしてそれは本を読むことについても同じことが言えます。
今はもう大量の本を読むことが当たり前になっていて、「また本を買ってしまった……積ん読が増えすぎてどうしよう……」と読書が半ば義務のようにもなってしまっているけれど、最初に本を読み始めたときはそうじゃなかったはず。
一冊の本を読むたびに「世界にはこんな面白い本があるのか」と新鮮に驚き、世界には読み切れないほどの無数の本があることを想像して途方に暮れていたような頃が自分にもあったのでした。
あまりにも昔過ぎてもうかすかにしか覚えていないけれど、その最初の気持ちをこの本を読むことで追体験できた気がします。
この気持ちをときどき思い出しながら、読書やツイッター(あえて今もこう呼びたい)をこれからもやっていきたいですね。












