辿り着いたキャンプ場。
標高は1000メートル近くあり、七月とは思えないほど涼しい。くわえて驚いたのが、少子高齢化がウソのような子どもたちの多さ。私以外、全員ファミリーキャンパーです。
子どもたちが走り回るその隣で真昼間からぷしゅっと缶ビールのプルタブをひっぱる。こんなおじさんにはなりたくないと思っていたのに。人生とは思い通りにはいかない。
周りのファミリーキャンパーたちが近くの川で遊んでいるなか、タープの下でビールやコーヒーを独りたしなむ。苦味を愛せるほど大人になったのに、どうして今だに人生だけはたしなめないものかな。
ファミリーキャンパーたちが遊び疲れて帰ってきた夕暮れ。ではそろそろ始めますかと立ち上がり、アサヒスーパードライの缶をぐしゃんと潰す。
今日は「二ャマ」を作ります。
ニャマとは、牛肉をトマトとタマネギで煮込むジンバブエ料理。まさかこんな料理を作る日が来るなんて。人生とは思いも寄らない。
作り方はかんたん。
牛肉を一口大に切り、トマトとタマネギはみじん切りにします。油を引いた鍋でニンニクを香りが立つまで炒め、切っておいた牛肉を入れます。肉の色が変わってきたら、トマトとタマネギを入れて、塩とカレー粉で味付け。二十分ほど火にかけて完成です。
鍋のふたを開けると、立ち上る甘いカレーの香り。その奥にニンニクの食欲ひく芳香が潜んでいます。
箸で肉をひとつ摘み、口へと放り込みます。
ぬおっ。ただのうっすいカレー風味の肉。
そうだ。思い出しました。
アフリカの料理とは、皿にのったものを全て混ぜて食べるんだった。ルワンダでの日々が蘇ってきました。
二口目は、刻んだトマトとタマネギも一緒に食べます。おお、うまい。
しかし、これをうまいと思えるのは間違いなくルワンダで訓練を積んだおかげである。
すると、「こんばんは~」とキャンプ場の管理人さんがやってきました。
まさかニャマの香りに誘われて? もしやジンバブエにルーツがある? と取り乱しそうになったが、そんなはずはないと平静を装い「こんばんは」と返す。
「ゆっくりできてますか?」などと軽い会話を済ませると、管理人さんはおもむろにスマホを取り出し、私のテントと車が収まった写真を見せてきて「キャンプ場のSNSに載せていいですか?」と。
三年間キャンプをしてきて、テントと車の写真をSNSで使っていいかなんて尋ねられることは一度もなかった。先代オンボロムーヴのときは一度たりとも。
たしかに新しい相方は面がいいもんな。結局、この世界は外見なのか。ああ、なんだかオンボロムーヴが恋しくなってきました。
とはいえ、断る理由はありません。「いいですよ」と許可を出します。
そして、続けて管理人さんは「今日のメインディッシュはなんですか?」と。
零コンマ三秒の沈黙。
「肉ですぅ!」
どうにか絞り出した「肉です」。
さすがに「ニャマです!」とは言えなかった。満面の笑みでニャマですなんて言ったら、「にゃっ、にゃっ、にゃっ、にゃまっ?」と管理人さんが縮み上がってしまうに違いない。
だって、もし自分のキャンプ場で、ニャマを作っているソロキャンパーがいたら怖いもん。
ただ、管理人さんの目の前には、どう見ても肉ではないナニカがある。
察したのか、管理人さんは話題をそらし会話を続けた。こちらもニャマを作っていることを悟られないよう必死に会話を続けた。
「ソロキャンプはよくするんですか?」「ええ、します」「月1回くらいですか?」「ですね、月に1、2回はいきます」「いいですねえ」。
ええいっ! ぜんぜん盛り上がらない。ぜんぜん面白くない。
キャンプ場の管理人さんは思ったことでしょう。コイツまったくおもろないやんと。
SNSに私の写真を投稿するときのキャプションはきっと「サイトは面白かったけど、中の人はぜんぜん面白くなかったです。やっぱり外見じゃなくて中身が大事だと学びました」と綴られているに違いない。
こんなことになるなら弾けんばかりの笑顔で「ニャマですぅ!」と言えばよかった。
アウトドアブランド新入社員のソロキャンプ生活

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