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うかうか手帖

2025.09.09 公開 ポスト

17歳のとうもろこし益田ミリ(イラストレーター)

とうもろこし。

 

この夏、一番食べた野菜だと思う。

皮をむき、ラップして、レンチン。朝食べて、おやつに食べて、夕飯に食べて。

最近はとうもろこしごはんも。

ご飯を炊く前にちょいお塩とちょいお酒。あとは生のとうもろこし&とうもろこしの芯(出汁が出る)。香ばしい夏ごはんである。

とうもろこし。

皮をむいて黄色い粒が見えた瞬間、世界の美しさに出会えた気持ちに毎度なる。きちんと並んで、ぴかぴか光って。こんなに美しいのに観葉植物ではなく、食べられるのである。とうもろこしのあの美しさは、なんのための美しさなのだろう?

美術学校の受験のためのアトリエで、とうもろこしをデッサンしたことがあった。

デッサンのモチーフは各自用意することになっていて、次のレッスンに必要なものが黒板に書き出されるのだが、

持ち物「とうもろこし」

と先生が書いた瞬間、教室中に生徒たちの大きなため息がもれた。

 

皮のままのとうもろこしを描くはずがない。一粒一粒デッサンさせられるに違いない。

案の定、一粒一粒描くよう言われ、最初は「やれやれ」という雰囲気だった教室も、次第に熱が入ってきて「やっぱ、絵って、楽しい」という空気に。

とうもろこしは水彩画の課題になった気もするなぁ。

残っているだろうか?

ごそごそ探していたらあった。17歳のわたしの水彩画。とうもろこしの他に、「食パンとジャムの瓶」とか「毛糸とスコップ」とか「たわしとおたま」とか、いろんな組み合わせでデッサンしていた。

アトリエは学校帰りだったので、とうもろこし、食パン、ジャムの瓶、毛糸、スコップ、たわし、おたまなどが女子高生のカバンに入っていたことになる。学校では手荷物検査はなかったけれど、もしあったら「ちょっと職員室に」と言われていたのかもしれない。

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うかうか手帖

ハレの日も、そうじゃない日も。

イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。

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益田ミリ イラストレーター

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に、漫画『すーちゃん』『僕の姉ちゃん』『沢村さん家のこんな毎日』『週末、森で』『きみの隣りで』『今日の人生』『泣き虫チエ子さん』『こはる日記』『お茶の時間』『マリコ、うまくいくよ』などがある。また、エッセイに『女という生きもの』『美しいものを見に行くツアーひとり参加』『しあわせしりとり』『永遠のおでかけ』『かわいい見聞録』や、小説に『一度だけ』『五年前の忘れ物』など、ジャンルを超えて活躍する。

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