
とうもろこし。
この夏、一番食べた野菜だと思う。
皮をむき、ラップして、レンチン。朝食べて、おやつに食べて、夕飯に食べて。
最近はとうもろこしごはんも。
ご飯を炊く前にちょいお塩とちょいお酒。あとは生のとうもろこし&とうもろこしの芯(出汁が出る)。香ばしい夏ごはんである。
とうもろこし。
皮をむいて黄色い粒が見えた瞬間、世界の美しさに出会えた気持ちに毎度なる。きちんと並んで、ぴかぴか光って。こんなに美しいのに観葉植物ではなく、食べられるのである。とうもろこしのあの美しさは、なんのための美しさなのだろう?
美術学校の受験のためのアトリエで、とうもろこしをデッサンしたことがあった。
デッサンのモチーフは各自用意することになっていて、次のレッスンに必要なものが黒板に書き出されるのだが、
持ち物「とうもろこし」
と先生が書いた瞬間、教室中に生徒たちの大きなため息がもれた。
皮のままのとうもろこしを描くはずがない。一粒一粒デッサンさせられるに違いない。
案の定、一粒一粒描くよう言われ、最初は「やれやれ」という雰囲気だった教室も、次第に熱が入ってきて「やっぱ、絵って、楽しい」という空気に。
とうもろこしは水彩画の課題になった気もするなぁ。
残っているだろうか?
ごそごそ探していたらあった。17歳のわたしの水彩画。とうもろこしの他に、「食パンとジャムの瓶」とか「毛糸とスコップ」とか「たわしとおたま」とか、いろんな組み合わせでデッサンしていた。
アトリエは学校帰りだったので、とうもろこし、食パン、ジャムの瓶、毛糸、スコップ、たわし、おたまなどが女子高生のカバンに入っていたことになる。学校では手荷物検査はなかったけれど、もしあったら「ちょっと職員室に」と言われていたのかもしれない。
うかうか手帖の記事をもっと読む
うかうか手帖

ハレの日も、そうじゃない日も。
イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。