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薬物売人

2025.09.12 公開 ポスト

仕入れの量、儲けを自慢する違法薬物の売人は自ら墓穴を掘る倉垣弘志

違法薬物関連のニュースが続いています。違法薬物の使用は、犯罪であると同時に、依存という病気でもあります。つまり、適切な処置をとれば回復可能だということです。
2021年に発売された『薬物売人』は、かつて違法薬物の売人であった倉垣弘志氏が、薬物売買の内幕と、逮捕から更生までを綴った貴重な書です。違法薬物は社会にいかに浸透するのか? 本書より抜粋してお届けします。

また、2025年9月18日(木)20時半より、本書にも登場する『解放区』の映画監督の太田信吾氏と倉垣氏による「演劇とケア」をめぐる勉強会が開催されます。詳細は、記事最後をご覧ください。

(写真:Unsplash/Stanislav Ivanitskiy)

コカインの隠し方

俺が仕入れたコカインは、一ヶ月に50グラムぐらいは捌けた。50万円以上の儲けになった。

「今月は、これでおしまいだね」彼は音楽に合わせてシャドウボクシングをしながら、軽快に言った。

「来月50グラムまとめていこかな~」小さなパケに1グラムを測って詰めながら、独り言のように言った。

「ん? 50グラムまとめてもそんなに安くならないよ。100グラムいっちゃえよ。だいぶ安くなるよ」

「10グラム、20グラムちょいちょい手間をかけるより、一気にいった方が良いかなとか思ってね。でも、あんまり持っときたくないからな~」

「持たなければいいんだよ」

「ん! どういうことすか?」

「例えばこの店なら、カウンターのそっち側じゃなくて、客が使う共有エリアに隠すんだよ。カウンターの下の手の届かない奥の方にガムテープで貼り付けるとか、トイレの換気口の中とか、いろいろあるよ」

「なるほど」

「もしガサが入るようなことがあっても、知らんの一点張り。誰か客が隠したんじゃないですかって、惚ぼけられるでしょ」

「確かに」

「部屋に帰っても部屋には置かず、玄関先にゴルフバッグでも置いといてその中に隠すんだよ」

「う~ん、さすが! でも、ゴルフしないんですけど」

「しなくてもダミーで置いとけばいいんだよ」

「そうっすね。そうしよかな。いや、待てよ。先輩パクりに来ませんか?」

「おいおい、信用ないな~。でもそのぐらい用心した方が良いよ。実際、部屋荒らされて品物と金を全部持っていかれた奴もいるからさ」

「そうですよね」

「どのぐらい持ってるかなんて、誰にも知られちゃいけないよ」

「はい。あなたは知ってるから要注意人物です」

「はいはい、分かりましたよ。要注意人物は帰りますよ。金ちょうだい」

実際に品物を扱っていると、こういった心配や危険も考えられる。いきなり部屋に押し込まれ、襲われてボコボコにされ、部屋にある金や品物を全部持っていかれてしまう。物が物だけに警察に届けを出すわけにはいかないので、泣き寝入りとなる。犯人を捜そうにも、こういう奴らは用意周到で襲う気満々だ。武器を持って覆面に手袋、完全装備で人ひと気けのない時にいきなりやってくる。手がかりもなく、諦めるしかない。こうなるともう引退だ。舐められているからこういうことになる。また次も襲われるんじゃないかと考えだすと、品物に手を出せなくなってしまう。誰なのか分からない者たちが、大量に薬物と金を持っていることを知っている。気味の悪い連中が近くにいる。そう考えだすと足を洗うしかない。

俺は一度もこういう目に遭ったことはない。客たちは俺が何を持っていて、どのぐらいの量を扱っているのか、いくらで仕入れているのかなどはまったく知らない。自分たちが買う品物を目の前で見て、金を払って帰るだけだ。襲われるような奴は、だいたい自慢気に大量に仕入れたとか、いくら儲かったとかペラペラ喋る輩で、自らの手で墓穴を掘って穴の中に埋まっていく。もうこの世界で金を稼ぐことはできない。

人を襲うような無茶をする連中は、だいたいシャブかコカインにどっぷりハマっている中毒患者たちだ。マリファナの客には、このようなことをする者は、まずいない。愛煙家たちは喫煙をすると、基本的にラブ&ピースの精神に近づき、心が穏やかになり、すべてにおいて平等に愛を以て接し、優しくなれる。人を襲うような、暴力的で野蛮で危険な行為に及んだりは決してしない。

要注意なのは重症のシャブ中患者たちだ。シャブが切れたシャブ中たちは、獣と化すか、寝たきりになる。大人しく寝たきりになっておけばいいのだが、金もない、ネタもない、生きる気力もない。そうなってくるとシャブ欲しさに最後の力を振り絞って、犯行に及ぶ者がいる。大量に品物を持っている者のことを知っている人物から情報が回り、まったく繋がりのない売人を襲う。売人は容赦なく捻り潰されてしまう。

「はい、金。襲われないように気をつけてくださいよ。近頃は、ヤクザ狩りをする連中もいますからね」

「大丈夫だよ。そのために身体を鍛えてんだから」金を受け取って、強烈なハイキックを俺の顔面スレスレに寸止めした。ピタッと静止してから、笑いながら帰って行った。

**

続きは、『薬物売人』をご覧ください。

お知らせ

『ケアと演技』 3都市ツアー
https://hydroblast.asia/free/careacting

<大阪公演>〈ケアの実践者との対話の場「ラーニングルーム」〉①「演技のケア的側面—倉垣弘志(『薬物売人』著者)×太田信吾」
9月18日(木)20:30-21:30
映画『解放区』(太田信吾監督)で、元薬物売人として自らの過去を“演じ直す”という手法に取り組んだ倉垣弘志さん。当事者として、表現者として、それぞれの立場で「演技」と向き合ってきた二人が、“演じることはケアになりうるのか?”を手がかりに、西成で語り合います。
会場:西成永信防災会館
https://www.plus1-nishinari.net/
参加費:無料
予約:定員に限りがありますので、グーグルフォームよりご予約ください。

関連書籍

倉垣弘志『薬物売人』

田代まさし氏への覚醒剤譲渡で二〇一〇年に逮捕され、懲役三年の実刑判決を受けた著者は、六本木のバーを拠点にあらゆる違法薬物を売り捌いていた。客は、金のある日本人。会社員もたくさんいた。マリファナの客は、癒しを求めて、コカインの客は、創造性のために、週末だけシャブをキメる客も多かった。しかし、楽しむための薬物は、いつしか生きるために欠かせなくなり、人生を破滅させる。自らも依存症だった元売人が明かす、取引が始まるきっかけ、受け渡し法、人間の壊れ方――。逮捕から更生までを赤裸々に描く。

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薬物売人

2021年5月26日発売の新書『薬物売人』試し読み

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倉垣弘志

1971年大阪府に生まれる。中学校に入学後から街の不良となり、何度も警察に補導される。工業高校に入学すると、週末はバイクでの集団暴走を繰り返す。卒業後、飲食店に勤め、バブル期の繁華街で金を稼ぐことを覚える。同時期に音楽、ダンスに興味を持ち、没頭していく。主にブラックミュージック、ストリートダンスに心酔し、この頃からマリファナ、シャブ、LSDなどを使用する。2010年、田代まさし氏に覚醒剤を譲渡したとして、逮捕。懲役三年の実刑判決を受ける。現在は薬物やアルコールから完全に離れ、バス運転手として医療的ケア児を含む3児の父として家族を支える。

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