
寒い!
どこへ行っても寒い!
何もへそ曲りでこんな酷暑に、言っているわけではない。
そりゃ私だって、外は暑い。
前回のエッセイでも、私は無類の汗っかきだと書いたばかりだ。
3分も道を歩けば汗がボタボタ垂れてくる。
特に自宅から駅までの10分の道のりを歩いてからの、急に歩くのをやめ、電車を待ってるホームが一番すごい汗をかく。
手に持っているハンカチはいつだってびしょびしょだ。
だけど、建物の中が寒い。
電車の中、ビルの中、特に一番寒いのはスーパーの中。
もちろん分かっている。
汗だくのお客様が入って来るのだから、サービスのためにスーパー内を寒くしているのだ。
だから店内に入った時は最高のひんやりだ。
まさに生き返るとはこの事である。
で、店内を食品を物色しながらゆっくり歩き出す。
特に入り口近くの野菜コーナーはすごくいい。
滝のように流れていた汗が引っ込み出し、肌がどんどんサラサラになっていく。
そのサラサラの身体で、足りない野菜や、今日の夕飯の副菜などを考えながら野菜をカゴに入れていく。
そこを過ぎると、私の大好物の納豆や豆腐や厚揚げ、白滝、こんにゃくなどのコーナーが見えてくる。
目を皿のようにして、好きなものをカゴの中に入れていく。
この辺で、少しだけ私の身体が寒くなっていることに気づくが知らないふり。
だってまだ、買いたい物の半分も買っていない。
そこから調味料や缶詰コーナー。
今日は遠くのスーパーまでバスで来ているので、重たいものもどんどん買う。
そして本日のメイン。肉や魚のコーナー。
魚を煮つけにしようか、はたまた鶏肉と野菜で煮物にしようか
でも最近疲れているので、やっぱりメインはお肉がいいな。
そんなことを考えながら肉と魚のコーナーをウロウロと歩いているともうダメだ。
このコーナーはとにかく、いつだってクーラーがギンギンだから寒くて仕方がない。
歳を重ねていくと寒がりになるというのは本当だ。
汗はかくけど寒いのだ。
何せ我が家の冷房の設定温度は27度。
20代の頃は部屋に帰ってきたらまずは16度に設定していたのに。
おっと、話がわき道にそれた。
肉と魚のコーナーで、もっとじっくり選びたいが、どんどん身体の芯が冷えていく。
なんならトイレにも行きたくなる。
結局大して選びもせず、合い挽き、鳥、豚の挽肉をたくさんカゴに入れる。
挽肉さえあればいつもなんとかなるから。
逃げるようにして肉と魚のコーナーから去り、さっき行ったはずの調味料コーナーに戻る。このコーナーは冷蔵していないから、ちょっとだけあったかいのだ。
そこで少しだけ温まって、いざ、チーズやバターのコーナーへ。
また寒い。そりゃそうだ。寒くしておかないとチーズやバターが溶けるから。意を決して絶対に必要なものを素早く選びレジへと向かう。
最近のレジは店員さんがおらず、自分でバーコードを通してお金を払うことが多い。
もう私の身体は冷え切っているから、とにかく急いで支払いを済ませ外に出たい。
けれどそういう時に限って、バーコードがなかなか品物を読み取ってくれない。
店員さんに聞いてやっとのことで支払いを済ませ外に出る。
はあ~、あったかい。
猛暑の夏が愛しくなる瞬間だ。
そこから歩いてバス停に。
自宅前の停留所までバスで約10分。
乗っているうちにまた寒くなる。バスのクーラーもいつだってキンキンに冷えているから。
でもね、バスのクーラーは自分で向きを変えたり風を出なくしたりできることを
汗っかきの寒がりの私は知っている。
余裕でクーラーの風の向きを変えようと手を伸ばす。
ところがそんな時に限って、向きが変えられない。壊れているのかやり方が悪いのか。
結局バスに乗っている間、キンキンに冷えた風が私に向かって発動しずっと寒い。
やっとの思いで我が家に帰り、適温で過ごす。
いやあ、今年の夏も暑くて寒い。
ま、結局私が我儘なだけなんだと思うけど。

山野海の渡世日記の記事をもっと読む
山野海の渡世日記

4歳(1969年)から子役としてデビュー後、バイプレーヤーとして生き延びてきた山野海。70年代からの熱き舞台カルチャーを幼心にも全身で受けてきた軌跡と、現在とを綴る。