
青森県南部町で自給自足生活を送る田村ファミリーの妻・田村ゆにさん。電気・ガス・水道は契約せず、廃材で建てた手づくりハウスに家族3人、ニワトリ12羽と暮らしています。お金の不安が尽きない都会の生活から抜け出し、田舎に移住して気づいた“本当の豊かさ”とは。初のエッセイ『わたしを幸せにする0円生活』より、一部をお届けします。
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畑しごとと子育ての両立はムリなのか
4年前のこと。春一番にハウスでとれるはずのラディッシュやチンゲンサイなどを次々と引っこ抜く動物が現れて頭を悩ませていました。証拠映像が、わたしたちが運営する「うちみる」のYouTube 動画「うちみるのくらし『春先の育苗』May 2021」にあります。その動物とは、うちの息子のことです。「いつかこどもが生まれたら、自分で育てた野菜を食べて育って欲しい」、そんな思いで始めた野菜づくりですが、おもちゃのように野菜を引っこ抜く息子。食べる分がなくなってしまいそうな光景に震えました。
出産を機に食を考える人も多いと思います。ただ現実では子育てと野菜づくりという、2つの読めないスケジュールが重なることでうまくいかなかったり、ストレスを抱えることも少なくありません。わたしの場合はもともと、こどもが得意ではなかったので子育てに自信がありませんでした。しかし、先に野菜を育ててみたことで自分の思い通りにいかないことや、自然を相手に学ぶことが多くあり、その経験を子育てにも生かせています。野菜やこどもの素直に生きる姿に、いつも学んでばかりです。
たとえば野菜づくりでは見えないところで土が育つように、こどもも見えないところで心や考えが発達しています。うちの子はおしゃべりが得意で、話し始めるのも早かったのですが、生まれてから積極的に話しかけていたのがよかったのかもしれません。ベビーカーで散歩をしているときも見えるもの全てを実況したり、野菜に話しかけながらこどもにも説明したりと、会話が苦手だからこそ意識して言葉にしていました。畑の野菜も手を触れたり、話しかけるといいと聞きますが、似たものを感じます。
さらに、土づくりに3年かかるように、3歳までの子育ては修業期間でした。かわいい時期とはいえ、単純な遊びをくり返す毎日に終わりが見えなくて何度か支援センターに駆け込んだこともあります。この時期、こどもがお昼寝の間、畑しごとが息抜きでした。子育てと野菜づくりの両立が大変だったというよりは、むしろ畑がなければストレスのやり場に悩んでいたはずです。こどもとの向き合い方を畑の野菜に教えてもらい、子育てで抱えたストレスや悩みを畑しごとで解消するような暮らしでした。こどもの将来のためと言いながらも、じつはわたし自身が一番野菜づくりに救われていたのかもしれません。
実際の息子はどうなのかというと、一番に旬のものを食べさせては、その野菜の収穫をよろこび、しばらくすると飽きるのくり返しです。野菜の好き嫌いもほかの子と変わらないように思いますが、ひとつだけなぜか「サクラの塩づけ」が大好きです。
「かかの料理はいつもおいしいよ」と言ってもらえただけで十分で、これはわたしが親としてプレゼントしたかったことであり、自己満足にすぎません。3歳からは少しずつ加工品やお菓子も食べているため、これから学校での給食やお友達との外での食事をどう感じるのかも楽しみにしています。
大人になってからきなこが大豆でできていることや、ピーナッツバターが練った落花生だと知りました。食品によっては何の食材からできているのか、わたしにもまだ知らない世界があります。豊かな未来を願って、これからも親子関係と野菜をすくすくと育てていきたいです。

とれたての野菜は生のままかじります。
わたしを幸せにする0円生活

電気・ガス・水道は契約なし!自給自足ファミリーの妻・田村ゆにさん初の著書『わたしを幸せにする0円生活』より、試し読み記事をお届けします。