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和ノ音日和

2025.08.21 公開 ポスト

詩吟ってなに? “宗家”になったJ-POP歌姫鈴華ゆう子(シンガーソングライター/詩吟師範)

こんにちは。鈴華ゆう子と申します。
J-POPアーティストとして活動しておりまして、
和楽器バンドというグループではボーカルを担当し、
華風月というユニットではボーカルとピアノを担当し、
ソロ活動で唄ったりもしています。
そして一方で、今年4月から、詩吟の新しい流派「吟道鈴華流(ぎんどうすずはなりゅう)」を立ち上げ、宗家として歩み出すこととなりました。

 

J-POPシンガーや和楽器バンドのボーカルという顔しかご存知ない方にとって、「詩吟の宗家」という響きは、あまりにも意外に聞こえるかもしれません。
音楽と詩吟──二つの世界に身を置くからこそ見えてくること、感じることがあります。
そんな私だからこそ書ける、音楽と詩吟の奥深さを伝えていくような、そんなエッセイにできればと思っております。
そして、宗家としての私の歩みと、そこに至るまでの想いなどを交えて綴らせていただきます。

そもそも詩吟ってなに?という方へ

詩吟って一体どんなものなの?と思われる方も、まだまだ多いかもしれません。
「詩吟」とは、漢詩や和歌などの詩文にメロディをつけて“吟じる”日本の伝統芸能です。

朗読でも歌でもない、独特の声の響きと間(ま)を重んじる芸で、古くは武士の教養、近代以降は精神修養や芸道として親しまれてきました。
伴奏楽器には箏や尺八が用いられることが多いです。
私が同時に学んできた剣詩舞(剣舞、詩舞(しぶ))は、その詩吟に合わせて着物に袴姿で、扇子や刀で舞うものです。
総称して吟剣詩舞(ぎんけんしぶ)とも言い、「声」と「身体表現」が一体となった芸道であります。

まるで天女様のように見えた、詩吟との出会い

私が詩吟と出会ったのは、5歳のときのことでした。
きっかけは、実家のピアノ教室に通っていた生徒さんのひと言。
「近くに、吟剣詩舞のお教室があるんですよ。体験されてみませんか?」と、母に勧めてくださったのが始まりでした。
母に手を引かれて訪れたその道場で、私は忘れられない光景に出会います。
そこには、舞扇子を手に、美しく舞う女性の先生がいらっしゃいました。
その優雅な所作、凛としたたたずまいは、幼い私の目にまるで”天女様”のように映りました。
「私も、あんなふうになりたい」
そう思ったことが、すべての始まりでした。

詩吟にハマる5歳児

剣詩舞も自然な流れで、舞と同時に詩吟の稽古も始めることになりました。
5歳の私にとってはもちろん漢詩も和歌も全く分かりません。しかし2歳からスタートしていた"リトミック"のおかげで音楽は大好き!
先生の真似をしながら節回しに心を込め、声を出すことに夢中になっていきました。
舞と詩吟を同時に学ぶうちに、「言葉を声に乗せて届ける」「全身で詩情を表現する」という奥深さに惹かれ、どんどんとはまっていったのだと思います。
私にとって詩吟は、“人生で最初に出会った全身表現の世界”でした。

ごく普通の学生生活と、いつもそばにある詩吟

その後も私は、学校に通いながら剣詩舞と詩吟の稽古を続けました。
とはいえ、詩吟ひと筋というわけではありません。中高生の頃は、友人たちと同じようにJ-POPを聴いたり、カラオケに通ったり、ダンスをやってみたり、ごく普通の学生生活を送っていました

ただ一つ違っていたのは、日々の暮らしの中に、剣詩舞と詩吟が「当たり前の存在」として根づいていたことです。
平日は学校とピアノの練習、週末は稽古場での吟と舞。
周りに剣詩舞を知っている友達はほとんどいませんでしたが、私にとっては自然な日常でした。

音楽と詩吟が混ざりあったとき

そして高校生になると、母の影響で本格的に音大進学を目指し、クラシックピアノの世界にのめり込んでいきました。
私が志していた東京音楽大学ピアノ科は、全国から才能と努力が集まる非常に厳しい世界。日々の練習は孤独で、成果が出なければ自分を責めてしまうような日もありました。
そんな中で、剣詩舞と詩吟の稽古場は、私にとって心が一息つける”もうひとつの居場所”でもありました。

技を磨く厳しさはありながらも、声を出し、体を動かし、詩の情景を全身で表現するその時間は、どこか自分を解放してくれるような心地よさがありました。気がつけば、クラシックで培った表現力と、詩吟や舞で養った身体感覚が、自然と一つになっていたように思います。

詩吟の世界は、あえて選ばなかった理由

その後、作詞作曲をして歌うことにも惹かれていき、やがて私は音楽を通じて「言葉と感情を届ける」道へと進みました。
気づけば、ライブで声を発し、舞台に立ち、音と言葉で世界を描くことが、私の人生になっていました。

詩吟のコンクールにも挑戦を続けていましたが、とある大会の全国決勝で優勝することができたことで、ひとつの節目を迎えました。
本来であれば、そこからさらに詩吟の世界へと本格的に進むのが自然な流れなのかもしれません。けれども私は、あえてその道を選びませんでした。

私の役割は、全国優勝というひとつの“説得力”を携えて、詩吟の魅力を“外の世界”へと届けることではないか。
そう考えた私は、積極的にインターネット配信を活用し、従来の枠にとらわれない形で、詩吟の可能性を模索し始めました。
その延長線上で、自然と生まれたのが「和楽器バンド」というプロジェクトです。

和楽器バンドによる挑戦

自らプロデュースを手がけ、和とロック、古典と現代を融合させた音楽の中で、詩吟の声やリズムが生きる場所を創り上げました。
それは、ただ伝統を守るだけではなく、現代へ届け、未来へとつなぐための“挑戦”でもありました。
いきなりオリジナル曲で始めるのではなく、「ボーカロイド」という日本の新しい文化ともいえるものと、日本の伝統楽器・詩吟との融合を選んだのも、多くの方の目に留まる“文化の橋渡し”になると信じていたからです。 和楽器バンドが広く知られるようになった今も、その思いは変わりません。

橋渡しとしての役割

ここまで歩んできた道を振り返ると、詩吟と音楽、二つの世界を行き来しながら、自分なりの表現を探し続けてきた軌跡だったように思います。
そして和と現代をつなぐ架け橋として、たとえ表現の形は変わっても、私の中に根づいている”原点”は、やはり詩吟にあります。
宗家として、歌い手として、それぞれの立場から見える景色を大切にしながら、これからも声を通じて、多くのものをつなぎ、届けていけたらと思っています。

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和ノ音日和

詩吟と音楽。古典と現代。二つの世界をつなぐ架け橋として生きる、鈴華ゆう子。

伝統とポップカルチャーのあいだを行き来しながら、
それぞれの世界で得た気づきや想いを、等身大の言葉で綴っていきます。

音楽が好きな方から、伝統芸能をちょっと覗いてみたい方まで。
"表現"や"文化"の本質に、そっと触れられるようなエッセイです。

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鈴華ゆう子 シンガーソングライター/詩吟師範

和楽器バンドのボーカル(リーダー)を務め、メンバーを集めてバンドを立ち上げた発起人でもある。

3歳よりクラシックピアノ、5歳より詩吟・詩舞・剣舞を始める。
東京音楽大学器楽(ピアノ)専攻卒業。中高音楽教員免許の取得などを通じて、教育分野にも深く関わっている。
2011年、コロムビアレコード全国吟詠コンクールにて一位を獲得。2025年には吟道鈴華流を創流し 宗家「鈴華慶晟」としても活動している。

また、企画力に優れたアイディアマンとして、楽曲提供など創作面でも多彩な活動を展開し、音楽イベントをはじめとする各種プロデュースも手がけ、アーティストのプロデュースにも携わる。
2024年には音楽への想いを自らの言葉で綴った一冊初の著書『唄いろは』を出版。
声優やラジオパーソナリティとしても活動し、幅広い表現の場で実績を重ねてきた。

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