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だらしなオタヲタ見聞録

2025.08.08 公開 ポスト

まだ間に合う!あわてないで落ち着いて行け!『国宝』観たよ藤田香織

まだ間に合う あわてないで 落ち着いて行け!

宇宙船が飛ぶ時代ですからね(昭和)。

 

映画『国宝』を観てきました。
前回、行こうと思ってるけど、人気出ちゃっていつも混んでるし、3時間(正確には本編上映時間は175分)知らない人の隣に座るの辛いから迷ってる、みたいなことを書いていたのですが、打ち合わせの予定がリスケになり半日ぽっかり空いたので。よっしゃ! と重い腰(重いのは腰だけではないが)を上げたのでした。

近場の映画館で上映時間を確認し、予約状況を見てみたところ、2時間後の回があり、中列以降は混み混みながらも、通路前の4列はほぼ空席。
そうかー、映画ってやっぱり前方は人気ないのね、と思いつつ、センターブロックの3列目、縦通路左から3席目を予約。この時点で自席の左2席、右は5席空席で同列右通路横の1席だけ埋まっている状況。前列になる1列目と2列目は全て空席、後列の4列目は縦通路横左右とも2席、その間2、3席が予約済み。
端的に言うと、上映スクリーンの中列以降は9割予約済みで、前4列は1割程度の予約率という感じ。

上映1時間前に確認したときも、自列含む前3列はほとんど空席のままだった。念のため映画館に着いてからもトイレに行き、3時間を乗り切るために飲み物とポップコーン&ポテトを購入。飲食物持ち込み禁止なので、飲み物のサイズを迷ったものの、尿意の恐怖が勝りMサイズにとどめる。

最近(最近とは?)の映画館は持ち込み禁止なので、毎回律儀に買ってしまうポップコーン。でも今回はあまり食べてる人いなかった。楽しい映画、って感じじゃないから?

これだけ空席があれば、わざわざ予約されてる席の隣を選ぶ人は少なかろう、万が一尿意の限界がきてもさほど迷惑はかけず席は立てるだろう、と安心して、上映10分前の入場開始アナウンスと同時にトレイを抱えて場内へ。

ところが。え? と思わず声が出てしまった。
予約時にも入口でも、座席表で確認したので、すぐにわかった(そもそも前から3列目、左から3席目でわかりやすいし)自分の席に、既に人が座っているではないか!
近付いていくと80歳前後と思われるご夫婦の様子。もう一度確かめて、社交モードのスイッチを入れ、「すみません、席、お間違えではないですか? こちら、私が予約しているのですが」と発券したチケットの座席番号を見せつつ、声をかけると、女性のほうは「あら?」とチケットと背もたれの座席番号を確認しようとしてくれたものの、爺さん(客観的事実)は間髪を入れず「間違ってねえよ!」と怒鳴り返してきた。

こんなところで、大きい声出すなよ。間違ってるから声かけてんだよ。確認ぐらいしてくれたまえよ! と心のなかで毒吐きつつ、爺さんは無視して女性に再度「申し訳ございません、この番号、ここなんです」とチケットと座席番号を重ねて示すと、「あらほんとうだ。ごめんなさいね」と認めて席を隣にズレてくれた。
隣かよ! 何でこんなに前は空いてるのにわざわざ隣がいる席を選ぶんだよ! と思ったけれど、それはもうしょうがない。この時点で右隣はまだ5席空いたままだったので、始まって誰も来なかったらひとつズレよう、と思う。

ところがところが。予告動画が続いて、いよいよ上映開始かなーという雰囲気になってきたところで、同列に推定20代のカップルが入ってきて、私の隣に女性が、その右隣に男性が着席。
その瞬間、頭のなかにイヤイヤイヤちょっと待って! 5席空いてたら、ひとつ空けて取らない? 3時間だよ? 知らない人の隣で3時間だよ? 回避したくない? 満席に近いならわかる。でもまだ空いてるじゃん! 前方だってかなり空いてるじゃん!! とモヤモヤがたちこめてきて(もう帰りたい)とさえ思ってしまった。

いやでもだけど。そうよね誰だってセンター近くで観たいよね。っていうか、ひとりでも多くの人が観れるように、詰めて座るってむしろマナー的に正しいよね。隣に座られたくないなら、両サイドの席も買えばいいって話。そうしないなら文句言うなって話。いやそう。ほんとそう。私の考え方が卑しい……!
などとグルグル悶々としているうちに、バーン! と「東宝」のロゴが出現し、いよいよ大人気『国宝』が始まったのでした。前方に移動しようにも、もう動けない……!

ここからはいつものごとく、上映中の心の呟き一部を。
ちなみに私は、吉田修一の原作は発売当時に読み、映画を観ようと思ってからも再読済み。逆に映画の事前知識はほとんどなく、吉沢亮が喜久雄=東一郎、横浜流星が俊介=半弥を演じているとは知っていたものの、白塗りしたふたりを見分ける自信はない、というレベルの人間です。

エンタメ力は高いけど、決して「楽しい」映画ではない

★いや、いきなりこの料亭のセットすごくない? 昭和感も任侠感も絶妙。喜久雄はこれまだ吉沢亮じゃないよね? おお、徳次! 徳ちゃんもイメージ近い! 小説の徳ちゃんかなり好きだったー!

★永瀬正敏いいなー。すぐ死んじゃうけどいい。この絶命場面、広すぎないところが料亭の中庭感あって逆にいい。なるほど、喜久雄にこうして見せるのか。窓越し。ああなるほど巧いなあ。

★春江は……高畑充希? わかる。声でわかるとこある。そうか、あんまり喜久雄との関係性は掘らない感じなんだね。そういえば大阪には徳ちゃんもついて来ないんだな残念。

★おおー、渡辺謙が半二郎なのか。あかん。お茶漬けだけ食べてすぐ寝る生活あかん! なにこれ糖尿病の伏線? こんなの伏線っていわないか。

★ああ……綺麗だなぁ藤娘。二人藤娘ね。これこの中腰姿勢だけでも凄くない? そもそもこの姿勢で踊るって人間的に無理があるんじゃ?

★俊ぼん。いや俊ぼん……! これ吉沢亮を絶賛する声はすごく聞こえてきてたけど、横浜流星もいいじゃん。え? すごくいいんですけど! 俊ぼん! そこでそれ言えるのかっこよすぎる! この関係性がなー、ほんとこのなー(涙)。

★神様にお願いをするのではなく、悪魔と取引する男・喜久雄。この雰囲気、まとってる空気をどこかで観たような……あれだ!「昭和元禄落語心中」の菊比古=古川雄大、思い出す雰囲気あるある。

★血と才能。血と才能。血と才能。これを自分の娘や息子が同じ世界にいる人間たちが演じる厳しさと残酷さよ……! 渡辺謙なー。寺島しのぶなー。っていうか、三浦貴大!? 三浦貴大なんだ!? いや杉村太蔵? そんなわけないか! って謎だったんだけど三浦貴大か! え? なんかいい役者になってる……!
知らなかったっていうか、たぶん、近年、気付いてなかったのかも!

★いやいやいや人間国宝の女形、万菊は田中泯なのね。これは素敵キャスティングすぎるのでは……! いい。なんなら田中泯を観るだけで2千円払える!

★それにしても、凄いエンタメ力だな。画力が強いし話の展開早いし、退屈な時間が全然ない。尿意を思い出す暇もない。曽根崎心中からの鷺娘圧巻すぎる。あと老けメイクが自然。綺麗にちゃんと老けてる。ふうー。

あっという間の3時間でした。気をそらしてしまうような隙がないので、時間が経つのが早い。単純に歌舞伎の演目や衣装や化粧をでっかいスクリーンで観るだけでも眼福だし、反して物語的にはかなり重い。
原作履修組としては、あの文量(上下巻ある)の話を、3時間とはいえどうまとめるのかが楽しみだったわけですが、なるほどそこを捨てるのか、はしょるのか、と大いに唸りました。

個人的には、原作小説ありきの映画について(いやそんなの、原作を超える映画なんてあります? だって自分の頭の中にもうその世界は出来上がってるのに。どんな名監督が撮ったにしても、チガウチガウコレジャナイってならない?)という気持ちが強くあったのですが、『国宝』は、観てよかった。もちろん、あのエピソードは欲しかったな、とか、ここはもっとしっかり掘り下げて欲しかった、てな思いはあるけども、大スクリーンでこの世界を浴びる(だって3列目だし)感覚は、ちょっと眩暈がするようでもありました。特にあのラストシーン!

映画を観て、原作が気になった人にはぜひ読んで欲しい。
喜久雄の恋人でいっしょに入れ墨までいれた春江が、なぜ俊ぼんと行動を共にしたのか。
俊ぼんは8年以上もどこで何をしていたのか。どうして歌舞伎の世界にすんなり帰ってくることができたのか。
喜久雄が師である半二郎の借金を背負った経緯や、彰子と関係を持つに至るまでの葛藤、楽屋暖簾に記されていた徳次との関係性。お父ちゃんに振り向いてもらえなかった娘の綾乃がどんな人生歩んできたのか。あと、死んだ父・謙五郎の後妻で喜久雄とは血の繋がりはない義母マツの深い愛情も小説では重要ポイントになっています。
原作に忠実な映像化ではないものの、どちらにも違った魅力がある。映画も良かったけど、小説もいいんだよー!

パンフレット売り切れていて買えなかった!という話も聞いたけど、増刷されたのか先週には普通に売ってました。でもって映画のパンフは安いよね。オールカラーでこのお値段!?って毎回軽く驚いちゃう

ただ、ひとつだけ。
途中、館内ではすすり泣きがあちこちから聞こえてきたし、泣ける! 泣いた! 泣けた! という声もよく耳にしたけれど、私は涙が出るどころか、とても怖かった。こんな世界があることを、うすうすざっくりとは知っていたけれど、それを容赦なく突きつけられて、苦しかった。

たぶん、この感覚は人によって違うもので、正解なんてないけれど、『国宝』見たよ! という人には「どうだった?」と聞いてみたい。この映画(もちろん原作小説も)、実は結構、人の心を抉るんじゃないかな。

まだいたー!スティッチいたー!

関連書籍

杉江松恋/藤田香織『東海道でしょう!』

かたや体重0.1t、こなた日常歩数400歩。出不精で不健康な書評家2人が、なぜか東海道五十三次を歩くことに。吉原宿では猛烈な暴風雨に全身ずぶ濡れ、舞坂宿の真夏の国道では暑さに意識朦朧、凍える鈴鹿峠で雪に見舞われ、濃霧の箱根峠であわや遭難!? 日本橋~三条大橋までの492kmを1年半かけ全17回で踏破した、汗と笑いと涙の道中記。

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だらしなオタヲタ見聞録

20年以上、毎日300~500歩程度しか歩いていなかった超絶インドアだらしな生活だったのに、突然フッ軽オタ道を走り出したこの数年。もう「いつかそのうち」なんて言ってられん! 見たいものは見ておきたい! 寄る年波を乗り越えて、進め! ヨタヨタオタヲタ見聞録。

以前の連載『結局だらしな日記』はこちら

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藤田香織

1968年三重県生まれ。書評家。著書に『だらしな日記 食事と読書と体脂肪の因果関係を考察する』『やっぱりだらしな日記+だらしなマンション購入記』『ホンのお楽しみ』。近著は書評家の杉江松恋氏と1年半かけて東海道を踏破した汗と涙の記録(!?)『東海道でしょう』。

Twitter: @daranekos
Instagram: @dalanekos

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