
歩き疲れてコーヒーショップのカウンター席に座る。
今日はすでに打ち合せでコーヒーを2杯飲んだからカフェインはやめたほうがいいな、デカフェにしようか。カフェオレならいい気もするけど、カフェオレにするならちょいヘルシーにソイラテにする?
メニューを見ながら、ふいにため息がでた。
ここに座っているのが高校生のわたしなら、自分が今、一番飲みたいものを一生懸命選んでいたはず。なのに大人のわたしは大人の自分のからだのことばかり考えて、心の部分をおろそかにしている。
飲みたいものを飲むのだ!
遠くから、17歳のわたしの声が届く。
さぁ、選べ、大人のわたし、今、この時、本当に飲みたいものを!
わたしはまっさらな気持ちでもう一度メニューをみた。
ココア。
温かいココアが飲みたい。
と思う。
わたしは、今、ホットココアが飲みたかったのだ。
ココア!? 甘いよ?
カロリー大丈夫?
大人のわたしがやいのやいの言ってくるが、振り払ってオーダーする。
「すみません、ホットココアください」
叶わないことなんか山のようにある。うまくいかないことも。コーヒーショップのひとときくらい、わたしは自分の望みを叶えてあげればよいのである。
「おまたせしました」
テーブルに置かれたココアには、生クリームがたーっぷりのっていた。まるで何かのごほうびのよう。
まるまっていた背中を伸ばし、元気よくココアを飲んだ。
うかうか手帖の記事をもっと読む
うかうか手帖

ハレの日も、そうじゃない日も。
イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。