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1年で潰れると言われた野球部が北国のビニールハウスから甲子園に行った話

2025.07.22 公開 ポスト

雪上練習で強くなった聖愛野球部。雪かきはあえてせず、吹雪いてくれたらむしろチャンス!原田一範(弘前学院聖愛高等学校 野球部監督)

青森県の高校野球「強豪校」の中に名を連ねるようになった弘前聖愛。雪国のビニールハウスで練習していたチームが強くなったのはなぜ!?

1年で潰れると言われた野球部が北国のビニールハウスから甲子園に行った話』より。

*   *   *

駒大苫小牧の活躍をきっかけに雪上練習を開始する

冬の寒さが厳しいうえに降雪でグラウンドが使えなくなる時期が長い分、東北や北陸、北海道といった北国のチームは不利だと言われてきました。

その古い常識をひっくり返してくれたのは、北海道の駒大苫小牧高校の活躍

北海道代表は甲子園では初戦で敗退するケースが多く、1963年の春のセンバツでの北海高校の準優勝が最高成績でした。ところが、駒大苫小牧は2004年夏の甲子園で初優勝すると、05年の夏の甲子園も連覇。3連覇がかかった06年夏の甲子園では、駒大苫小牧の田中将大投手(現・読売ジャイアンツ)と早稲田実業の斎藤佑樹投手(日本ハムファイターズ)の両エースが投げ合い、引き分け再試合の末に準優勝しました。これは道内では「2・9連覇」と呼ばれています。

北国だから勝てないというのは思い込みだったのです。

私自身、弘前工業野球部時代、雪上で練習をした経験はありません。聖愛の監督に就任してからも、当初は取り入れていませんでした。

しかし、私が聖愛の監督になってから3年後、駒大苫小牧が夏の甲子園で優勝した際、冬場もグラウンドに出て雪上ノックで鍛えたという話を耳にして、「うちでもやってみよう」と雪上での練習にトライし始めました。

苫小牧はあまり雪が積もらないので、駒大苫小牧は冬場でもスパイクを履いて練習していたそうですが、弘前は雪が深いので長靴を履いて選手たちには防寒を徹底させたうえで練習を試みました。

(写真:干田哲平)

試してみると、できないのはノックでゴロを打つことくらい。ノックもフライなら打てますし、キャッチボールはもちろんボール回し、外野と内野の連携といった基礎的な練習は行います。

雪かきはあえて行いません。足場が悪い雪上でキャッチボールやボール回しが正確にできるようになったら、土のグラウンドでは容易に正確なプレーができます。

吹雪いてくれたらむしろチャンス! 吹雪のなかでもプレーできたという自信が選手たちに芽生え、たとえ雨天でも悪天候を物ともせず、のびのびとプレーできるようになるのです。

雪が積もったままのグラウンドでは、草やぶならぬ“雪やぶ”でのダッシュを行って、体幹を鍛えると同時に心肺機能の向上を狙います。

その話を関西遠征の際にしたところ、向こうのコーチから羨ましがられました。

「体幹を鍛えて心肺機能を上げるのに、足場が不安定な砂浜でのダッシュが有効だという話を聞いたことがあります。うちでもやってみたいのですが、砂浜まで往復すると何時間もかかるので諦めています。グラウンドの“雪やぶ”でダッシュトレーニングができるというのは羨ましい話です

というのです。雪国の人間は一様に春の雪解けを待ち侘びるものですが、私は雪上練習の成果を実感して以来、「雪よ、まだ解けないでくれ!」と願うようになりました。

(写真:干田哲平)

雪が降ることを自分たちの強みに変える

雪上での練習も取り入れたとはいえ、グラウンドが雪で覆われる12月から3月までは、ビニールハウスでの室内トレーニングがメインとなります。

キャッチボールやトスバッティング、走塁練習などに加えて、力を入れるのはフィジカルトレーニングです。4か月間みっちり鍛えると、選手たちのカラダは一回りも二回りも大きくなり、フィジカル面で見違えるように成長します。球速も上がり、強い球が打てるようになるのです。

4月になり、暖かくなってから県外に遠征へ出かけると、相手の監督やコーチたちに「同じ新3年生なのに、なぜこんなにカラダが仕上がっているの?」と驚かれたこともありました。冬場のフィジカルトレーニングの賜物です。

野球でもフィジカル面の強化が大事だということは、どのチームでも認識している事実です。でも、たとえば、沖縄のように年中暖かくて土のグラウンドで好きなだけ練習できる恵まれた環境だと、どうしてもグラウンドでの練習が主体となります。

ベンチプレスやスクワットといった筋トレはフィジカル強化に不可欠ですが、それ自体は楽しいものではありません(なかには筋トレにハマる選手もいますが、少数派です)。そもそも選手たちは野球が好きで入ってきていますから、ベンチプレスやスクワットに励む時間があったら、シートノックを受けたいし、打撃練習をしてもっとうまくなりたいと思っています。そうなるとフィジカルトレーニングはどうしても後回しになってしまいがちです。

その点、聖愛は雪が降るおかげで、冬場はフィジカルをメインに鍛える。それ以外の季節はグラウンドでプレーを磨く。という期分け(ピリオダイゼーション)が明確に行えます。それも聖愛の強さにつながっています。

雪国という環境を不便だと恨んでばかりではなく、工夫次第で弱点を強みに変えることができるという経験をしていると、社会に出ても、自らの置かれた逆境をチャンスと捉えて成長できるのではないでしょうか。

4月になって待ちに待った遠征に出かけると、試合前の練習の段階から選手たちは顔をキラキラと輝かせています。久しぶりに長靴を脱いでスパイクを履き、土のグラウンドで思いっきり走ったり、ノックを受けたりするのが嬉しくて仕方ないのです。選手たちは土の上で野球ができるという当たり前の有り難さを噛み締めながら、全力プレーを見せてくれます。

(写真:干田哲平})

練習試合の初めの数試合はボロボロです(笑)。雪と土では感覚が違いすぎますし、雪上では連携プレーの細かな確認が十分には行えないからです。

それでも徐々に土のグラウンドの感触になじみ、プレーが噛み合うようになると、できることがどんどん増えてきます。それで野球に向き合うモチベーションが高まり、個々の力もチーム力も夏に向けて上向きになっていくのです。

その変化を見るのが、毎年私は楽しみでなりません。

(つづく)

関連書籍

原田一範『1年で潰れると言われた野球部が北国のビニールハウスから甲子園に行った話』

「我武者羅」よりも、「1人1人が考える」チームへ――。学歴も人脈もナシ!「野球に力を入れるつもりなら、あなたのような無名な人を呼ばない」とまで言われた無名の監督が、「思考と言語化」で、ゼロから強いチームを作り上げた!その、思考と検証と挑戦の記録。

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1年で潰れると言われた野球部が北国のビニールハウスから甲子園に行った話

校長からは「野球に力を入れるつもりなら、あなたのような無名な人を監督に呼ばない」と言われ、ようやく集めた部員からは、「キャッチボールも、生まれて初めてです」と言われた。
それが、このチームの始まりだ……。
1年の3分の1は雪に閉ざされるため、近所の農家の協力でグラウンドにビニールハウスを建て、冬はその中で練習。
それでも、気持ちは「絶対甲子園に行く!」

しかし、こんなチームでどうやって?

学歴も人脈もナシ! 無名の監督の、思考と検証と挑戦の記録!

弘前学院聖愛高等学校野球部は、優れたスポーツマンシップを発揮した個人・団体を表彰する「日本スポーツマンシップ大賞2025」の「ヤングジェネレーション賞」を受賞している。

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原田一範 弘前学院聖愛高等学校 野球部監督

1977年青森県北津軽郡生まれ。弘前工業高校野球部出身。介護専門学校卒業後、介護職に従事。96年に母校・弘前工のコーチに就任。20014月に、弘前学院聖愛高校野球部の創部と共に監督に就任し、現在まで25年間監督を務める。コーチ職、監督職の傍ら、日本大学通信教育部で学び、卒業。聖愛野球部は、これまで、夏に2度、甲子園に出場。常に革新的な取り組みを行い、各地の指導者から一目置かれる人物。

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