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「自分が嫌い」という病

2025.07.09 公開 ポスト

「幸せそうな人を見るとイライラしてしまう」原因はどこにあるのか泉谷閑示(精神科医)

薬に頼らない独自の精神療法で、数多くのクライアントと対峙してきた精神科医の泉谷閑示氏。最新刊『「自分が嫌い」という病』は、「自分を好きになれない」「自分に自信が持てない」という問題に真正面から向き合った1冊です。親子関係のゆがみからロゴスなき人間の問題、愛と欲望の違いなどを紐解きながら、「自分を愛する」ことを取り戻す道筋を示しています。本書から抜粋してご紹介していきます。

*   *   *

自由に生きている人への秘めた嫉妬心

自分を愛せず自己否定を抱えている状態の人は、幸せそうに見える人に対して、わけもなく苛立ったり嫌悪感を抱いたりすることがあります。特に、幸せそうな家族連れ、カップル、そして無邪気に騒いでいる子どもなどを見ると、瞬間的に堪え難いほどの憎しみを感じたりするのです。

これは、ルサンチマン(仏:ressentiment)という感情が引き起こす状態です。ルサンチマンとは、劣等感や嫉妬心が屈折して表れたもので、元の「妬ましい」と思っていることはもはや自覚されておらず、いきなり「憎い」「嫌い」「許せない」などの強い感情として湧き上がってきます。

そもそも、「嫉妬」自体も元々は「羨ましい」という感情が屈折したものなのですから、「羨ましい」→「嫉妬」→「ルサンチマン」と二段階も屈折を経た感情となり、これはなかなか厄介です。

ルサンチマンを抱えていると、本来「羨ましい」と思う対象にあべこべに近づけなくなってしまうので、歪んだ、素直でない生き方になってしまいます。しかし、本人はこの二段階に歪んだ感情の正体を知らないので、「羨ましい」対象に苛立ったり憎しみを向けてしまったりする気持ちを、自分でも扱いかねていることも多いのです。

ルサンチマンを抱く人は、そもそも本人自身が自己否定や劣等感を抱えていることがその原因になっているわけですが、そのため、この「よく分からないネガティブな感情が勝手に湧き上がってくる」という困った性質を、さらに自己否定の理由そのものに組み込んでしまうという、自己否定の悪循環に陥ってしまうこともあります。

しかし、こういったルサンチマンは、ひとたび「自分を愛せない」という状態が解消されると、面白いように消えていきます。そして、その時になって初めて、その正体が「羨ましい」という気持ちだったことを理解するのです。

尊重されない状態に適応してしまう

自己否定を抱えていると、人から尊重されないことを当然のことだと思ってしまい、不当な扱われ方に「適応」してしまうことも少なくありません。よく、被虐待児が大人になってからも、虐待されるような人間関係やパートナーシップに甘んじてしまっていることが多いのはそのためです。

前にも述べた通り、「適応」とは麻痺の別名なのですが、麻痺は人間が苦痛を最小限にするための生存戦略の一つです。しかし、この「適応」はそれが必要なくなっても継続されることが多く、二次的に不幸な関係性を招き入れてしまうことになります。

このように、親との間で尊重されない関係性に「適応」してしまった人は、その後、友人関係、恋愛、結婚、職場での上司との関係などの場面でも、同様の関係性を反復してしまいやすいのです。

自分が、凹んだ状態にすっかり「適応」してしまっていることに気づき、自己否定そのものを解除できなければ、この呪われた不運の泥沼からはなかなか脱出できません。

関連書籍

泉谷閑示『「自分が嫌い」という病』

「自分を好きになれない」と悩む人は多い。こうした自己否定の感情は、なぜ生まれてしまうのか。 その原因は幼少期の育ち方にあると精神科医である著者は指摘する。 親から気まぐれに叱られたり、理不尽にキレられたりすると、子どもは「自分は尊重され るに値しない」と思い込むようになる。その結果、自信を持てず、人間関係にも苦しみやすい。 では、この悪循環から抜け出すにはどうすればよいのか。 本書では、自分を傷つけた親への怒りを認め、心のもやもやを解消するための具体的な方法を解説。自信を持って生きられるヒントが詰まった一冊。

泉谷閑示『仕事なんか生きがいにするな 生きる意味を再び考える』

働くことこそ生きること、何でもいいから仕事を探せという風潮が根強い。しかし、それでは人生は充実しないばかりか、長時間労働で心身ともに蝕まれてしまうだけだ。しかも近年「生きる意味が感じられない」と悩む人が増えている。結局、仕事で幸せになれる人は少数なのだ。では、私たちはどう生きればよいのか。ヒントは、心のおもむくままに日常を遊ぶことにあった――。独自の精神療法で数多くの患者を導いてきた精神科医が、仕事中心の人生から脱し、新しい生きがいを見つける道しるべを示した希望の一冊。

泉谷閑示『「うつ」の効用 生まれ直しの哲学』

うつは今や「誰でもなりうる病気」だ。しかし、治療は未だ投薬などの対症療法が中心で、休職や休学を繰り返すケースも多い。本書は、自分を再発の恐れのない治癒に導くには、「頭(理性)」よりも「心と身体」のシグナルを尊重することが大切と説く。つまり、「すべき」ではなく「したい」を優先するということだ。それによって、その人本来の姿を取り戻せるのだという。うつとは闘う相手ではなく、覚醒の契機にする友なのだ。生きづらさを感じるすべての人へ贈る、自分らしく生き直すための教科書。

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「自分が嫌い」という病

「自分嫌い」こそ不幸の最大の原因。「自分を好きになれない」と悩むすべての人に贈る、自身を持って生きられるヒントが詰まった1冊。

バックナンバー

泉谷閑示 精神科医

1962年秋田県生まれ。精神科医、作曲家。東北大学医学部卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院、(財)神経研究所附属晴和病院等に勤務したのち渡仏、パリ・エコールノルマル音楽院に留学。帰国後、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法専門の泉谷クリニック(東京・広尾)院長。著書に『「普通がいい」という病』『反教育論』『仕事なんか生きがいにするな』『あなたの人生が変わる対話術』『本物の思考力を磨くための音楽学』などがある。

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