
座間9人殺害事件の犯人・白石隆浩の死刑が執行されました。この殺人犯は何を考え、どう行動していたのか? ノンフィクションライター・小野一光氏が白石と重ねた11回330分の獄中対話と、裁判の模様を完全収録した書籍『冷酷 座間9人殺害事件』より、一部を抜粋してお届けします。
殺さなかった女性
白石の犯行を模倣した事件が発生したことが報じられた──。
8月5日、神奈川県横浜市で女子高生を一カ月にわたって自宅に監禁したとして、会社経営者の男(44)が逮捕されたのだ。悩みを抱えた女性を狙った犯人は、「座間の事件に影響を受けた」と供述しているという。
8月12日の7回目の面会。この日は立川拘置所での面会希望者が珍しく混み合っているようで、13時過ぎに到着したが、白石と面会できたのは14時5分頃だった。
私は面会室に姿を現した彼にまず、「聞いてると思うけど、模倣犯が出たねえ」と言った。
「え? そうなんですか? ラジオで聞いてなかったんで、知らないです」
そこで私は事件の概要を説明する。
「へーっ、すごいですね。よく一カ月も……」
感想はそれだけだ。白石はすぐに別の話を切り出す。
「あの、ゲームをやってない小野さんにお願いしたのは、間違ってました……」
前回、彼に頼まれて差し入れた、RPGに関する本の話だった。どうやら私が差し入れた本は、まったく好みではなかったらしい。
話題を事件のことに切り替えた。
まずは前回の面会で終了直前に話が出た、最初の殺人の前に知り合い、交際していながら殺害しなかったという、32歳の女性について。
「その人は、仮釈放で実家に戻ったあとに、SNSで知り合ったんです。仮釈放のときは父が身元引受人で、怒られたけど、しょうがないなって感じで、実家にいました」
「たしか、両親が離婚していて、お母さんが妹を連れて家を出たことは、その頃に知ったんだよね。家でお父さんに離婚の理由とかは聞かなかったの?」
私は少し話を脱線させ、彼の家族の話を持ち出した。
「なぜ母が(家を)出たかって話はしなかったですね。僕も聞かなかったですし……」
「妹さんとはどんな関係だったの?」
「妹とは小学校くらいまでは普通に話してましたよ。でも、思春期で話さなくなって、それっきりですね」
白石があまり詳細を話したがっていないように感じた私は、その話を掘り下げることなく、ふたたび32歳の女性について話題を戻した。
「32歳の女性とはどんなお付き合いをしたの?」
「その女性のオゴリでご飯を食べたり、あと、ホテルに行ったりとか、普通に付き合ってましたね……」
一人目の被害者との多忙な二股交際
そんなさなか、白石は一人目の被害者となるAさん(当時21)と、SNSで知り合ったのだそうだ。彼は語る。
「その途中で、一人目に殺した女の子と会ったんです。Aさんは、たまたまいろいろ好都合な条件が被ったんです。僕はそのとき収入はゼロだし、とにかく現金が欲しかったんですね。で、彼女は貯金があると話してて、かつ、口説けそうだったんで……」
白石によれば、交際相手である32歳女性(Xさんとする)との、今後を考えていたタイミングでAさんと出会ったという。
「これからどうしようかなと思っていたときにAさんと会い、彼女を口説いて、『じゃあ一緒に住もうよ』と言ったら、『いいよ』と答えて、それでふたりで不動産屋に行ったんです。そこで僕が部屋を借りようとしたら、収入がなければダメだと断られて……」
ただし、その不動産業者の担当者から、預金口座に一定の残高があれば、仲介は可能だと言われたのだと話す。
「日雇いのアルバイトをしてると話してたAさんに『一旦、おカネを入れてくれない』って頼んだら、『いいよ』って。それで彼女は50万円(※実際は51万円)を振り込んでくれたんです」
白石とAさんは物件を見て歩き、後に犯行現場となるアパートを決めている。
「嬉しい話で、Aさんが僕に惚れてくれたんですよ。一緒に居たいとベタベタしてたんです。それで僕も、一緒に住んだら彼女には借りた部屋に居てもらい、自分が養うと話してました。もちろん部屋を借りさせるための口実で、その気はありませんでしたけど……」
白石は淡々と語る。「正直、自分にとっては都合のいい相手でした」と口にする反面、「でも、すごくいい子でした」と振り返る。
「それで、無事に部屋を借りられたんですけど、彼女が、ほかに誰かと付き合ってることがわかったんです。定期的に誰かと電話で話してるみたいだったし、尋ねても『彼氏がいない』とは明言しないし……。それで、この子が入れ込んでるいまのうちはいいけど、気持ちが離れたら、『出てって』、『おカネ返して』、になると思いました」
そこで白石は目を瞑り、独り言のように切り出す。
「いま思えば、当時の生活にはよっぽど不満があって、それを打開したかったんでしょうね。父への借金があったし、家で父から『就職しろ』って言われてて、居場所がなかったんで。一刻も早く家を出たかったんです。その借金がなかったら、全然違うと思いますね。あと、スカウトをやってなかったらとか……。まあ、イフ(もしも)の話をしてもキリがないですけど……」
伸び放題の髪の毛で瞑目して体を揺らす彼の姿に、顔も体型もまったく違うが、一瞬、麻原彰晃が重なる。
「だから、父への借金を返したり、父から自立して、マトモな生活をするための強盗殺人でしたね。警察にもそう話してます」
「調べでそう言ったんだ」
「警察は強盗強姦殺人で押印したら、次の日から全然態度が違いました。それまで笑みはなかったのに、急に『暑くない?』とか『お茶飲まない?』とか……」
「検察は?」
「検察は最初から優しかったです」
話題が少し逸れたため、私は、「それにしても、XさんとAさんと同時進行で付き合うのって、大変じゃなかった?」と尋ねた。
「正直、忙しかったです。朝までラブホで、次の子と待ち合わせたり。両方とも、おカネになりそうだったから。ただ一人目(Xさん)はラッキーなことに、相手の貯金を知らなかったから(殺さなかった)。もし、50万なり100万なり持ってると知ったら、殺してたかもしれないです」
平然と物騒なことを言う。だが、彼なら現実にそうしたことだろう。そこで面会時間があと5分であることを告げられる。
事件の話を切り上げ、拘置所支給の半袖、半ズボンの服を着ていることの多い彼が、今日は同じペパーミントグリーン色の長ズボンであることに触れた。
「いや、部屋が寒いんすよ」
「あ、そうか。冷房が効きすぎてるんだ」
「そうですね。もうガンガンに入ってるんで」
そんな会話のあと、次回の面会日についての打ち合わせを済ませ、面会を終了する間際になって、彼は以下の言葉を残している。
「そういえば今日、女の記者が来てました。(彼女と会うかどうか)悩みましたよ。23歳ですよ! まあでも、小野さんは優先しますから。橋本環奈が来ない限りは、優先しますよ」
面会は一日一組限りだ。私が立っているのは、薄氷の上なのかもしれない。
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