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冷酷 座間9人殺害事件

2021.04.04 公開 ツイート

解体を目撃しながら生還した女性がいた 小野一光

ノンフィクションライター・小野一光氏が座間9人殺害事件の犯人・白石隆浩と重ねた11回330分の獄中対話と、裁判の模様を完全収録した書籍『冷酷 座間9人殺害事件』が話題だ。ここでは本書の一部を抜粋する。

今回は2020年10月26日、第11回公判について。白石は遺体解体を目撃した女性・甲さんをなぜ引き留めずに帰らせたのか?

*   *   *

(写真:iStock.com/whim_dachs)


解体を見た甲さんを素直に帰した謎

前回から4日空けた10月26日の第11回公判。この日はひきつづき、Dさん事件についての被告人質問から始まった。

まず弁護人が質問に立ち、白石の部屋でDさんの解体を目撃した女性「甲さん」が、滞在していた白石の部屋を出て、実家に帰った際のやりとりについてたずねる。

白石「電車で帰るのを見送った記憶があります。甲さんの母親が心配しているので帰ることになったんです」
弁護人「甲さんから帰ると?」
白石「そうです。とくに引き留めることはありませんでした

甲さんが白石の家を出たのは9月23日とのこと。Dさん殺害から7日後であり、Eさん殺害の前日である。

白石はEさん殺害の理由について、「Eさんが帰宅することを危惧し」としていた。だが、なぜ甲さんに関しては素直に帰宅させたのか。

そのことが明らかになるのは、続いての裁判官による被告人質問のなかでのことだ。

裁判官「甲さんの殺害を考えたことは?」
白石「ありません」
裁判官「甲さんからおカネを引っ張れなくなると判断したら、殺害していたかもしれないですか?」
白石「変化があったら、そうしていたかもしれないですけど、当時は甲さんとの関係は良好だと思っていたので……」

白石は、甲さんと同居し、家賃を払ってもらおうと考えていたという。

白石「一緒に住む方向で話そうとしていましたが、途中で帰ってしまった。出て行く理由が、母親が心配しているというものだったので、引き留めづらかった」

(写真:iStock.com/yamasan)

抵抗する相手との性行為にしか興味がなくなった?

白石が口にする甲さんを帰した理由を受けて、別の裁判官が新たに質問を加える。

裁判官「Cさんのときは、Aさんを殺したことを知らないのに証拠隠滅のために殺した。一方、甲さんは解体を知っていた。甲さんを帰すことのほうが、Cさんを帰すよりもリスキーだと思いますが
白石「Cさんと比べると、Cさんは距離感があり、信用、信頼がありません。甲さんとは信用、信頼、恋愛依存を感じ取れたので、大きな差がありました」
裁判官「甲さんが帰って関係が悪化する心配は?」
白石「しないようにしていました」
裁判官「捕まってもいいやという気持ちがあって?」
白石「ちがいます。甲さんを口説けていたので大丈夫だと……」

白石は甲さんに手を出さないことについて、過去のスカウト時代の経験を持ち出し、「カネを引っ張るためにそうしたほうが良かったから」と断言するが、それ以外にも理由があったように思えてならない。

白石は殺害の基準について次のように答えていた。

白石「状況によりけりです。普通の女性で収入がなくても、(相手が)わかりやすい好意を示す場合、殺害せずお付き合いしたいと考えていました」

それと同時に、自殺志願者だったDさんを自殺する方向に持っていかず、殺害した理由についてはこう答えている。

白石相手が普通にしている状態を襲うことが快感に繋がったので、考えなかった」

また、白石はほとんどの女性被害者の胸をまず触り、抵抗されてから首を絞めて失神させ、強制性交をしているが、その理由についての回答は以下のものだった。

白石「どんな反応をするのか見るためにやりたくて、反応を見てその内容で性的興奮に繋がるものがありました」

つまり白石は、素直に性行為に持ち込める相手よりも、抵抗する相手に向けた性行為にのみ、性的興奮を感じる傾向が顕著なのだ

極度の興奮を犯行に及んで初めて知り、幾度も重ねていくうちに、徐々に彼のなかで強い渇望になってきたのではないだろうか。

さらには、この性的興奮を感じる性行為のなかには、殺害行為も含まれると考えられる

*   *   *

衝撃のノンフィクション『冷酷 座間9人殺害事件』好評発売中

関連書籍

小野一光『冷酷 座間9人殺害事件』

2017年10月、神奈川県座間市のアパートの一室から大量の切断遺体が見つかった。部屋の住人・白石隆浩が女性8人男性1人を殺害・解体したと判明するや、その残虐さに世間は震撼した。白石はどんな人物か?なぜ事件は起きた?330分に及んだ獄中対話と裁判の模様を完全収録。史上まれな凶悪殺人犯に肉迫した、戦慄のノンフィクション。

小野一光『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』

「腕に蚊がとまって血ぃ吸おうとしたらパシンて打つやろ。蚊も人も俺にとっては変わりない」(大牟田四人殺人事件・北村孝紘)、「私ねえ、死ぬときはアホになって死にたいと思ってんのよ」(近畿連続青酸死事件・筧千佐子)。世間を震撼させた凶悪殺人犯と対話し、その衝動や思考を聞き出してきた著者。一見普通の人と変わらない彼らだが、口をつく論理は常軌を逸している。残虐で自己中心的、凶暴で狡猾、だが人の懐に入り込むのが異常に上手い。彼らの放つ独特な臭気を探り続けた衝撃の取材録。

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冷酷 座間9人殺害事件

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小野一光

1966年、福岡県生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。「戦場から風俗まで」をテーマに数々の殺人事件、アフガニスタン内戦、東日本大震災などを取材し、週刊誌や月刊誌を中心に執筆。最新刊『昭和の凶悪殺人事件』のほか『冷酷 座間9人殺害事件』『全告白 後妻業の女 筧千佐子の正体』『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』『連続殺人犯』『限界風俗嬢』など著書多数。

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