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知的菜産の技術

2025.06.26 公開 ポスト

第15回

大葉、ミョウガ、ショウガ、ネギ。和風ハーブも便利で美味しくて奥が深い仲野徹(生命科学者)

不揃いなミョウガたち

前回はハーブについて書いたのですが、はて、ハーブっていったい何なん? ふだん何気なく使ってる言葉ですけど、いざ定義となると難しくありませんかね。

「和ハーブ」とはなんぞや?

 

ハーブ、広辞苑には「薬草、香味料とする草の総称」と素っ気ない。日本大百科全書には「それぞれが個性あふれる香りをもち、花、茎、葉、種子、根などが、薬品、食品、染料その他さまざまな用途に用いられ、美容や家事に至るまで人々の生活に役だち、うるおいを与えてくれる有用植物の総称」と親切やけど、あまりに幅広い。

ウィキペディアにははっきりと「明確な定義は存在しない」と書いてある。そうなんや、それやったら「ハーブ(イメージです)」って書かないとあかんのとちゃうんか。さらに「一般にハーブという場合、ヨーロッパで伝統的に薬草や料理、香料、保存料として用いられた植物を指す」とある。狭義だけれど、多くの人の頭に思い浮かぶのはこのあたりだろう。

さらに調べていると「和ハーブ」なる言葉に遭遇した。ふにふに。ハーブの意味を広義にとると、和ハーブも当然ありやわな。「和ハーブ協会」まであって、和ハーブ検定までやってるやん。一瞬、イスラム教のワッハーブ派が頭に浮かんだが、もちろん、関係はまったくない。

『和ハーブ検定 1級・2級 公式テキスト:日本古来の身近な植物の知識、活用法を学ぶ』を取り寄せてみた。和ハーブという言葉は、協会代表理事によって創作されたオリジナルワードで「江戸時代以前から日本各地で有用されてきた植物(外来種、栽培種を含む)」と定義されてて、表にはたくさんの植物があげられている。

我が家の栽培品目だけでも、シソ、エゴマ、ミョウガ、ニラ、ネギ、トウガラシ、コマツナ、チシャなどがある。ハーブと言えるかどうか疑問だけど、ダイコン、カブ、ホウレンソウ、ニンジンやカボチャ、ラッカセイとかも。さらには、生えなくてもいいのに生えてくるドクダミまで。どこまでをハーブとするかによるけど、むっちゃ多いやん。

間違えてたらあかんので、和ハーブというより、和風ハーブということでいくつか書いてみたい。定義は、洋風ハーブじゃないハーブイメージの植物、っちゅうとこですかね。曖昧ミーやけど。

大葉は種を蒔かなくても生えてくる

仲野家菜園、和風ハーブっぽさの代表選手は大葉とミョウガだ。この2つは誰がどう見ても、和風ハーブだ。歴史的に見ても、紫蘇は万葉集にも記述があるので、奈良時代以前に中国から伝来した、あるいは、日本原産かもしれないとされている。ミョウガについては日本を含む東アジア原産だから、両者とも間違いなく江戸時代以前からのものだ。

紫蘇には青紫蘇と赤紫蘇があるけれど、大葉は青紫蘇のこと。我が家では赤紫蘇は栽培していない。ウェザーニュースに「『大葉』と『紫蘇』の違いとは」という項目があって、大葉=青紫蘇を大葉と呼ぶか紫蘇と呼ぶかのアンケート結果が載っている。ほぼ全国的に大葉がやや優勢で54%、紫蘇が42%だ。残りの4%は何と呼んでるかが気になるが、わからん。

大葉の繁殖力はすごい。菜産を始める前、何年か放置してあった仲野家農園には、大葉が大繁殖していた。今も、種を蒔かずとも、毎年勝手に生えてくる。もちろん種が自然にまき散らかされるためだ、それを防ぐには、花が咲いたら摘み取らねばならない。でも、それって意外とじゃまくさいねん。

大葉の使い途はそれほど多くないが、付け合わせなどに、あれば便利である。繁殖力が旺盛な割りに、スーパーで売られているのは結構高い。不思議である。こういう時は、ついChatGPTくんに聞いてみたくなる。「農業経済と流通、さらには保存性の問題が絡む、意外と深いテーマ」ときた。そんなたいそうなもんちゃうやろ。

(1)    収穫・出荷に手間がかかる
(2)    保存性が極めて低い
(3)    需要が「少量・高頻度」型
(4)    天候の影響を受けやすい
(5)    品質基準が非常に厳しい

なるほどなぁ、納得である。しかし、なんでそんなことまで知ってんねん。品質基準といえば、売られてるのはむっちゃサイズが揃ってる。でも、料亭で使うならともかく、家で使う分にはそんな必要ないやん。あまり神経質な方ではないけれど、この手の葉っぱものは残留農薬が気になるので、家で栽培してる分には無農薬なのがうれしい。そう思うと、生えすぎるくらいは目をつぶったらんとしゃぁないですわな。抜いたらええだけやし。

ミョウガの命名者はツンベルク

ミョウガもじつにハーブっぽい。(←ナカノ的イメージです)それに、大葉と同じく、よく育ってくれる。大葉は一年草で種がこぼれて育つのに対して、ミョウガは多年草なので、一度植えたら放っておいてもでき続けるという優れものだ。さらには、大葉もミョウガも半日陰ですくすく育ってくれるのがよろし。

大葉と同じくミョウガもけっこう高い。これはChatGPTくんに聞かずとも、なんとなくわかる。採取時期がえらく短いのだ。ミョウガは植物のどこを食べているかご存じだろうか? あれは、茎の生え際から出てくる花のつぼみである。それを開花前に摘まなければならん。なので、シーズンになると毎日のようにチェックしてないと見過ごしてしまう。当然、手摘みであることも価格に反映されていそう。

ちょっと上等な和食に添えられているのを食べるくらいで、パックごと買うような人は少ないかもしれない。しかし、家で植えてあるとけっこう採れるので、ソーメンの薬味とかだけじゃなくて、味噌汁に入れたり、肉巻きにしたり、和え物にしたりと、大葉よりも使い途は多い。あんまり食べたらアホになるかというのは迷信やから大丈夫。

自家製野菜たっぷりソーメン

さすがは知的菜産(←自分で言うな!)、調べてみたらおもろいわぁ。ミョウガの学名はZingiber mioga 、なんと「ミオガ」がついておるのじゃ。さらに調べると、これは、リンネの直弟子であるスウェーデン人、カール・ペーテル・ツンベルクの命名とのこと。それも江戸時代に。え~っ、なんでスウェーデン人がそんな時代に! と思ったら、オランダ東インド会社に籍があったので出島に滞在できたそうな。

なんでも、シーボルト、ケンペルと合わせて「出島の三学者」と呼ばれておるらしい。シーボルトは誰もが知る名前だし、ケンペルも一応は聞いたことはある。しかし、ツンベルクなんか完全に無名やろ。せっかくなので、これを機会に覚えておいていただきたい。ツベルクリンに似た名前、とか、ツンデレみたいな名前、とかでもええから。

ChatGPTくんにどうしてツベルクリン、じゃなくてツンベルクが無名なのかを聞いたけど、明確な理由はわからんとのこと。謝るかわりに、『静かなる来日者:ツンベルクと鎖国日本の植物たち』というタイトルで本を書いたらどうかと勧められた。いらんおせっかいやな。

シーボルトとケンペルはドイツ人なので、おもしろいことに3人ともオランダ人ではない。偶然なのか、なんか理由があるのか、気になるわぁ。でも、きりないから、この話はここらへんで。

ショウガは「根」じゃなくて「地下茎」

ミョウガといえばショウガである。なんのこっちゃ。こちらの学名はZingiber officinale なので、ミョウガと同じくショウガ属である。officinale というのはラテン語の officina=薬局、調剤所の形容詞形で、薬として使われる植物をあらわす。なんか、むっちゃ王道のハーブみたいな名前やん。けど、洋風のハーブというイメージとはちょっと違いますな。まぁ、このあたりは個人差がありそうやけど、地中に潜んでるからハーブ感が薄いんやろか。

根ショウガという言葉もあるし、食する部分は根と思われてるかもしらん。ぶ~っ、あれは地下茎。地下茎といえばジャガイモといっしょやなと思って調べたら、ジャガイモとショウガではちょと違うらしい。ショウガの食べるところにはちゃんと節があって、えらく太っているとはいえ茎の面影を残している正真正銘の地下茎。それに対してジャガイモは完全ずんぐりむっくり型だ。これは地下茎ではあるけれど、先端が肥大化したもので「塊茎」という名前がついている。

カイケイといえば「汝、会稽(かいけい)の恥を忘れたるや」である。漢文の知識なんぞほとんどないが、何故かこれだけは覚えている。史記にある越王勾践(えつおうこうせん)と呉王夫差(ごおうふさ)の話だ。どうでもええけど、会稽、勾践、夫差、いずれもちゃんと変換できた。えらいぞATOK、というか、有名固有名詞に入ってるっちゅうことですわな。ご存じ、臥薪嘗胆の故事である。

おぉ、がしんしょうたん、って中に「しょうが」が入ってるやん、むっちゃ偶然と喜んだけど、ショウガは塊茎とちがうんやった。ちょっとがっかり。気を取り直して、豆知識。純然たる地下茎は、ショウガの他に、お弁当にはいっている♪穴のあい~たレンコンがある。確かに節はしっかりしとるけど、穴の空いてないレンコンってあるんやろか。それに対して、塊茎はジャガイモとかキクイモ。ついでに書いておくとサツマイモとかキャッサバは根っこが太ったもので塊根という。

ショウガは、若い順から、葉ショウガ、新ショウガ、根ショウガとして食べられる。葉ショウガは、植えたショウガと同じくらいの量しか採れんので収量が悪すぎる。それでも、初夏を生かじりする感じがたまらない。大きく太らせた方が得やねんけどと思いながらも、つい食べてしまう。新ショウガは酢漬けがいいが、薬味にしても爽やか感が際立って素麺なんかにはとてもよろし。もちろん、採取後2~3カ月おいた根ショウガは薬味として重宝する。ただ、土壌病害に弱くて連作には不向きと、地下茎のごつごつした見かけによらず繊細なのである。

ネギが切っても切っても伸びてくる秘密

和風ハーブで最も利用頻度の高いのはネギだろう。特に、葉ネギ。これは植えておくと本当に重宝である。切っても切っても伸びてくるから、買う必要がなくなった。種から育てると、最初のうちはなかなか大きくならないのだが、一旦成長すると鉄板の成長を見せてくれる。どうしてあんなに育つのか。その秘密は成長点の位置にある。

植物は、成長点――同じ音だが生長点とも書く――で細胞分裂がおこなわれてニョキニョキと伸びていく。そんなん常識やと思っていたが、言葉を間違えていた。最近は茎頂分裂組織、あるいはシュート頂分裂組織というえらく賢そうな名前になっているらしい。なんでも、伸びるのは点からではなくて、複数の層からなる組織であるからとのこと。成長点の方が勢いあってええと思いますけどね。ちなみにシュートはshoot で新芽の意味。

通常、茎頂分裂組織は茎の先っちょにあるのだが、ネギの場合は違っていて、もっと下、白い部分に存在する。根元に近い基盤からその上にある白い葉鞘の基部あたりなので、上の方を切っても伸びてくるのだ。

同じ原理で、買ってきた根付きのネギを植えても生えてくる。見慣れてるから何とも思わないけど、ネギやタマネギのような先の閉じた円筒状になった葉っぱって不思議ですわな。イネやトウモロコシ、竹なんかも根元に成長点、じゃなくてシュート頂分裂組織があるらしい。確かに竹はそうやわなぁ。でも、それやったら、タイミングよく見つけてやらんと、かぐや姫はあっという間に高い場所に行ってしまいそう。

「一文字のぐるぐる」を知っていますか

タマネギはネギの親戚だが、ワケギはネギの子孫である。なんのこっちゃと思われるかもしれないが、ワケギはタマネギとネギの交雑種なのだ。有名ですかね? わたしゃぁ栽培するまで知りませんでしたけど。そのために種ができず根元から分ける、なので「分葱(わけぎ)」とのこと。なるほどね。ワケギはワキゲになんとなく似てるからイメージ的に損をしてるんちゃうか。って、そんなこと思うのって私だけやろか。

味はタマネギとネギの中間といえばそうだが、もうちょっと癖がありそうな気がする。そのせいか、卵とじとか、味噌汁に入れるとか、薬味として使うとかもあるらしいが、ワケギといえばぬた、ぬたといえばワケギである。面白いところとしては、熊本の郷土料理「一文字(ひともじ)のぐるぐる」がある。

わけぎのことを、熊本では一文字というそうな。ワケギの姿が「人」の文字に見えたから、あるいは、昔、ネギが「き」と一文字で呼ばれていたころに宮中の女房がネギを「一文字草」と呼んでたことに由来するらしい。これ、農水省の「うちの郷土料理」に書いてあったんですけど、このHP、むっちゃおもろくて勉強になりまっせ。よう参考にさせてもろてます。

いずれにしろ、わけぎをさっと茹でて白い部分に葉をぐるぐる巻き付けて、酢味噌とかで食べる料理が一文字のぐるぐるである。味はどうっちゅうことはないが、あ~れ~っという漢字の名前が何ともよろし。

現役時代、熊本大学には知り合いが多くて、出張やらなんやらで10回以上訪熊したことがある。「ほうくま」ではなくて「ほうゆう」だ。行くと必ずと言っていいほど食べるのが、辛子蓮根と太平燕(たいぴーえん)と一文字のぐるぐるだった。どれもそこそこ美味しいが、熊本以外で食べる事はほぼない、という名物である。

こういう地元を出ない郷土料理って大好きですねん。って、こんな話も長くなるから、割愛して「あとぜき」ということで。「あとぜき」、知らん人は各自で調べてください。
 

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知的菜産の技術

大阪大学医学部を定年退官して隠居の道に入った仲野教授が、毎日、ワクワク興奮しています。秘密は家庭菜園。いったい家庭菜園の何がそんなに? 家庭菜園をやっている人、始めたい人、家庭菜園どうでもいい人、定年後の生き方を考えている人に贈る、おもろくて役に立つエッセイです。

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仲野徹 生命科学者

1957年大阪・千林生まれ。大阪大学医学部医学科卒業後、内科医から研究の道へ。ドイツ留学、京都大学医学部講師、大阪大学微生物病研究所教授を経て、2004年から大阪大学大学院医学系研究科病理学の教授。2022年に退官し、隠居の道へ。2012年日本医師会医学賞を受賞。著書に、『エピジェネティクス』(岩波新書)、『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社)、『考える、書く、伝える 生きぬくための科学的思考法』(講談社+α新書)、『仲野教授の仲野教授の この座右の銘が効きまっせ!』(ミシマ社)、医学問答 西洋と東洋から考えるからだと病気と健康のこと(若林理砂氏との共著 左右社)など多数。

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