
話題作に引っぱりだこの俳優・安藤玉恵さんによるはじめての著書『とんかつ屋のたまちゃん』。実家のとんかつ屋「どん平」がある東京・尾久の街が演じることに与えた影響を垣間見ることができます。安藤さんと一緒に、マネージャーの山田恵理子さん、担当編集者の幻冬舎・竹村優子が制作の背景を紐解きます。
(写真:牧野智晃)
書くことと演じることの類似
竹村 今回の本の執筆を通じて、自分についてあらためて発見したことはありましたか?
安藤 眠っていた何かが掘り起こされた感じはありますね。私、本音が好きなんだな、そこを面白いと思ってるんだなって気づきました。
竹村 本音にたどりつきたいと思っているから、安藤さんの文章は正直で気持ちよいのかもしれないですね。
安藤 それは商店街の大人たちの会話から教えてもらったことですね。本音と建前を使い分ける感じも含めて。だから、いろんなことを聞いても、あんまりびっくりしないんですよね。みんなの建前の先にある本音を知ってるから。人間はいろんな面があるよね、と思っちゃってますね。
竹村 山田さんからご覧になって、役者の安藤さんと文章の安藤さんの違いはありますか?
山田 うーん、あまりないかなと思います。続いてるっていう感じがします。
安藤 地続きですね。普段のこうやって喋ってる時とは違いますけどね。体の持っていき方が、お芝居と書くことは一緒な感じがします。
竹村 書く態勢への入り方がわかった、とあるときおっしゃっていたことがありました。それは意識の集中の仕方みたいなことですか?
安藤 お芝居は、本番前の楽屋から舞台袖に行って出る直前に意識が変わるんですけど、書く時も、それと同じ状態にしないと書けないことがわかったんですよね。セリフがないので、それを自分で書いていく。行き先はわからない。ただ人前に出て、光が入ってきて喋り出すことと書き出すことは、体の状態がとても近いと。そういう状態になってはじめて、自分の中から語りが生まれてくる感じがします。
山田 表現するということでは、文章も演技もつながっているんだと思います。完全なオフの私人としての安藤さんは、安藤さんの文章とはちょっと違う人って感じを受けますね。
安藤 全然違うと思います。ほんとにそう。

(第5回につづく)
とんかつ屋のたまちゃん

2025年5月28日発売『とんかつ屋のたまちゃん』について